第154話 竜の流儀

 イブリスの生成した剣は、イブリスの手を離れて、よりパワーアップしている様に見える。

 一体、どういう事なのだろう?

 私の作った方も同様なんだろうか?



 「イブリス。この剣を解除出来る?」


 「はい、では、剣の魔力を解除します。」



 イブリスが念じると、冷気の放出は収まり、普通の氷に戻って行った様だ。

 暫く見ていたら、南国の太陽の熱気によって溶け始め、真っ二つに折れてしまった。

 恐る恐る触ってみたが、もう普通の氷の様だ。



 「ふうー……」



 私は、その場に座り込んでため息をついた。

 イブリスも私の横に座って笑っていた。



 「あはは。疲れたー。」


 「あははは、はい、お母様。」



 私は、イブリスの頭をくしゃくしゃと撫でて、笑い合った。


 ふと気が緩んだ瞬間、気が付くと、背後から視線を感じる。

 なんだろう……私がやらかした時の何時ものパターンだ。

 恐る恐る振り返ると、こちらをじっと見ているのは、ヒドラだった。

 9本の頭の18の瞳が、じーーーっとこっちを見ている。

 私は頭を抱えた。



 「うっわー! 見られてたー!」



 こっそりバレないように後始末しようと思ったのに。

 だけど、ヒドラかー……! でも寧ろネレイデスじゃなくて助かったのかな? 連中にバレたらネチネチ文句言われそうな気がするし。だって、一番被害を被ったのは、彼女達だからね。


 ヒドラは、容姿は超絶おっかないくせに、性格は超可愛いから、何とか誤魔化せるかも……

 まさか、戦う羽目になったりしないよね。

 まずは、怒っているのかどうかを確かめる必要があるぞ。話しかけてみよう。



 「ハロ、ハロー、ヒドラさん、御機嫌良う。今朝分かれたばかりだよね。この広い海でまた会っちゃうなんて、運命的だねー。」


 『--君達、大丈夫だった? 今凄かったねー……--』



 お? 別におこでは無いのかな?



 「どの辺から、見てたのかな?」


 『--君達が氷山の上で光ったあたりから。--』



 つまり、最初からなんですね。



 『--でもね、途中から何故か、気絶してたの。--』



 ああ、衝撃波をモロに喰らっちゃったのか。死ななくで良かった。



 『--でね、今目を覚ましたら、氷山が無くなってたの。--』



 おお、セフセフ、殆ど見られてないぞ。

 私達が犯人だとバレないようにしないと。



 『--あの氷山が無くなったので、この辺りもまた暖かくなるよね。良かったよ。--』


 「うん、そうだね、じゃあ……」


 『--じゃあ、問題は無く成ったので、ソピアと僕で戦えるね。--』


 「は?」



 待てコラ、どうしてそうなる。

 てゆーか、私名乗ったっけ?



 『--え? だって、水竜ヴァンストロム様が、ソピアに試練を与えよって言うから。--』



 オウフ!

 何で会った事も無い水竜に試練与えられなきゃ成らないんだよ。

 そもそも、ヒドラは水竜の眷属だったのか。うん、まあ、水棲の竜なんだから、そうなんだろうなって気はしてたけどもさ。

 てゆーかさ、水竜は何で私の事を知ってるんだよ。



 『!--前に言っただろう。四神竜は繋がっているって。--!』



 あ、その声はユーシュコルパス?

 あー、それ聞いた様な気がする。でもさ、戦闘力の強さで上下関係を決めるって、良くないと思うの。ユーシュコルパスも、聞いてたんなら止めてよ。



 『!--強さで順位を決めるというのは、自然界全てがそうだぞ。違うというのは、人間だけの屁理屈だ。--!』


 「人間には、知恵が有るのです! 知性有る者は、話し合いで決めなければならないのです!」


 『!--知性なら竜の方が上だぞ? 竜でさえこの世界の理に従っておるというのに、人間ときたら……--!』


 「ぐぬぬ……」


 『!--そもそも、自然界のバグである人族が、どんな順列の付け方をしているのか知った事では無いが、それは人族の中でだけの話だ。竜がそれに従わなければならない理屈は無い。--!』


 「ちょっと待って、今聞き捨てならない事言った! 人族がバグだって?」


 『!--そうだぞ。自覚は無いのか?--!』


 「どういう事なの? お師匠は分かる?」


 『--うーむ、そこを指摘されると弱いのだ。ソピーよ、人は、食物連鎖ピラミッドのどの辺りに居る生物なのか解るか?--』


 「えっ? 頂点じゃないの? あ、竜が居るからその下の二番目辺り?」


 『--いや、本来ずーっと下の方の、底辺よりちょっと上位が本来の位置じゃ。--』



 だけど、人間はその発達した脳によって道具を作ったり戦略を練ったり大勢で協力したりして、本来上位に居る筈の獣を押しのけ、頂点へ登ってしまった。

 だから、人間同士は、攻撃力で順位を付けるわけには行かなくなったのだ。だから、財力であったり、統率力であったり、カリスマ性であったり、時には年齢であったりと、他の指標を頼りにするしか無くなってしまったのだ。自然界から見たら、実に歪な生物だと言わざるを得ない。

 更に、この神の定めた自然界の順位を変更してしまった弊害がある。食物連鎖のピラミッドだ。

 ピラミッドというのは、頂上に近付くに連れて細くなって行くからピラミッドなのだ。強力な種は、その個体数が少ない。でなければ、下位の食物を食い尽くしてしまい、ピラミッド構造、果ては食物連鎖さえが成り立たなくなってしまうのだから。

 だけど、人間は、その知能を悪用し、本来下の方に居た筈の位置を変更して、頂上へ乗ってしまった。だから、人の居る世界でのピラミッドは、頂上がでかい。人間はピラミッドの頂点に居るには、その個体数が多すぎるのだ。不自然な形のピラミッドが出来てしまっている。その構造は、そう長くは保たないだろう。

 これが、人間を自然界のバグと言わしめる理由なのだ。人間だけが外来生物の様に異質なのだ。



 「うーん、納得出来る様な出来ない様な……」


 『!--試練を受けてやれば良いではないか。皆お前には興味津々なんだぞ?--!』



 だけど、そうすると、残りの神竜とその眷属とも全部戦わなければならなくなるよ?

 嫌だよ! そんな戦いに明け暮れる生活は。

 私は、嫌な事は避けて通りたいたちなんだよ!



 「私は、イブリスの為に、火竜に会いに旅に出たんだ。水竜に会う予定は無いよ。」


 『--えっ? そうなの!?--』


 『!--……ざわっ……--!』



 ん? 今、ヒドラの背後からユーシュコルパスのとは違う、ザワッとした思念が来たぞ?



 『--えっ? じゃあ、火竜の後なの?--』


 「んーー、それも決めてない。空竜の後になるかも知れないし。」


 『!--……ざわざわっ……--!』


 「何なのさっきからこの思念は? 誰だか知らないけど、盗み聞きしていないで、言いたい事が有るなら、はっきり言いなさい!」



 私がそう言った途端、はっきりとした声が飛び込んできた。



 『!--後になる程、財宝が減るじゃないか!--!』


 「はあ?」


 『!--いや、順番が後に成る程、プロークのコレクションが減るんだろう?--!』



 この声の主は、水竜か? 神竜ともあろう者が、盗み聞きとははしたない。

 プロークのコレクションって、そんなに欲しい物なの? あれって、竜目線だと凄く良い物だったの?



 「わかった、わかりました! 残りの財宝は3等分して皆に同じ分量渡しますから、それでいいでしょう?」


 『!--む、げふんげふん、おほん、べ、別に財宝が欲しいとかそんなんじゃないんだからな! 早く会いたいとか、そういう感じのだな、うん、そんな感じだ。--!』



 くっそ、くっそー!! 水竜界隈って、皆こんなお子ちゃまみたいな世界なのか?

 地竜は幼竜なのに、中身はおっさんぽかったのに、皆、いちいち個性出してくるんじゃねぇぇー!



 「そんな訳で、今ヒドラとは戦わないよ。」


 『--えー、そんなー。楽しみにしてたのにー。しくしく。--』



 泣くんじゃない! その容姿で泣くな!



 「分かった分かったから、火竜の次に来るから。」


 『--ほんと! 絶対だよ!--』


 『!--……ざわっ……--!』



 くうっ、これは空竜の思念か? やめて、もうっ!








 私達は、ヒドラと眷属の契りを交わして、その場を後にした。


 なにこれ?

 眷属の契りって、こんなメールアドレスを交換するみたいに簡単にしていいものなの?



 『--だって、連絡取りやすくなるよぅ?--』



 マジでメールアドレス感覚だった。

 なんなの? 絵文字とかスタンプとか送っちゃうの? 気に入らないと眷属グループをブロックされたりしちゃうわけ?


 私は、げんなりしながら進路を南に取った。






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