第153話 南国の氷山

 でも、街の人総出で食べても足のⅠ本も減らない。

 だって、足Ⅰ本が大人の一抱え程もあるんだよ? ステーキサイズにカットしても、何人前有るんだって感じ。

 漁師の人が、内蔵を処理してキモとか墨袋を取り出したいというのだけど、カチコチに凍ってしまっているので、漁師の持っている包丁じゃ刃が立たないと言っている。胴体の肉の厚みは、軽くⅠアルム(32センチ位)は有りそうなんだ。


 多分、目の間に刺さっている、アイスⅧソードを引き抜けば、ここの強い日差しと気温でじきに解凍されると思うんだけど、これだけ大きいと鮮度を保つのが難しいので、そのままにして置いた方がよいかもしれない。


 あのアイスⅧソードって、使用中ずっと圧縮と冷却の魔力を込め続けていて、それを止めたら普通の氷に戻って溶けちゃうのかと思っていたんだけど、なんか、そうならないみたいなんだ。術者の魔力を止めても、太陽石みたいに内部に魔力をある程度蓄積しているのかな? なんか、そんな感じなんだよね。


 なので、漁師達があのソードに触れると危なそうなので、鮮度保持の為にそのままにしてあるけど、決して触らない様に念を押して置いた。



 『--益々興味深いわー。うーん、何処まで飛んで行っちゃってるのかしらー?--』



 ヴィヴィさんの思念がダダ漏れだけど、教えない。

 この巨大イカを捌くには、包丁の刃渡りが足りなさ過ぎる。

 と、言う事で、私は倉庫から新しく貰ったレプリカ剣を取り出して、その新しい使い勝手を試してみる事にした。

 最初の使用目的が、包丁代わりって所が申し訳無いけどねー。



 「ヴィヴィさんは、改良したって言っていたけど、どう変わったのかな?」



 剣を持ってみた感じでは、全く違いは分からない。

 長さも重さもそう違いは無い様だ。何が変わったのだろう?


 魔力刀(仮)を伸ばして、クラーケンの足の一本に横薙ぎに斬り付けてみる。

 うーん……? あ、分かった。見えないブレード部分に幅が出来たんだ。

 今までのは、剣の先端から伸びた一本の細い線状の刃だったのだけど、今度のはちゃんと剣がそのまま延長したみたいに、幅のあるブレードに成っている。という事は、見えない部分でも峰打ちが可能になったのかな?

 剣を横向きにして叩いてみると、ペチンと鳴って、切断されない。延長ブレード(仮)で峰打ちをする場面が有るのかどうかは疑問だけど、まあ、暫く使ってみようかな。


 私は、この新しい剣を使って、クラーケンの胴を縦に開き、内臓を取り出す。墨袋は、戦闘中に一回吐き出しちゃってるから、空なんじゃないかな?

 甲と呼ばれる骨みたいなのが縦に一本入っている。剣に加工出来るらしいので、近くに居た欲しいって人にあげたら、ギルド長が『ああぁ』と情けない声を上げた。んなもん、早い者勝ちだよ。

 胴さえ開ければ、後は漁師達でなんとか出来るというので、そっちは詳しい人に任せて、私は足のⅠ本でも貰って帰ろうかな。


 私は、ハンターズへ寄って、今回の報酬を受け取ると、出口へ向かおうとした所でギルド長に呼び止められた。



 「お前ら……、いや、あなた達は、当分この街に逗留するんですか?」



 おや? 言葉遣いが丁寧になったぞ。



 「いえ、私達は、旅の途中でちょっと寄っただけなんで、もう発ちます。」


 「えっ!? そ、そんな、もう少しゆっくりして行っても……」


 「また機会があったら寄りますよ、ではさらば。」








 私達は、ハンターズ建物の外へ出てから飛び立った。

 目的地は、そう、あのサンゴ礁の島だ。

 確か、あの時は真南に向けて1つ刻(2時間)位だったから、そろそろ見えて来るはずなんだけどなー……



 「あっ、見えて来た。……ていうか、なんじゃこりゃー!!!」



 なんか、巨大な氷山が浮かんでいるよ。南の島なのに。

 どうしてこうなった。

 クラーケンが元々生息していた海域の水温が下がってしまったので、温かい海に移動して来ちゃったのが、大本のトラブルの始まりだった。

 そして、海域の水温が下がった原因が、これ。この氷山。

 でも、私達がここで魚獲ったりキャンプしていた時にはこんな物なかったよね。

 うーんと……、アイスⅧソードでイブリスとチャンバラしたのは覚えてるなー。

 その時、イブリスの持っていたアイスソードは、どっかへ飛んで行っちゃったんだけど、アイスⅧソードに魔力を掛けるのを止めて、放置してれば普通の氷に戻って、そのうち溶けちゃうだろうと思っていたんだ。


 そしたらこれだよー。



 「お母様ー。こんな南国の海に氷山なんて、神秘的な光景ですねー。」


 「イブリス、分かってて言ってるでしょう?」


 「はい、あれって、僕が海へ落としちゃった剣ですよね。」



 何故魔導師の制御下を離れても冷気を放出し続けているのか。

 イブリスが精霊だから、イブリスの魔法は特殊だとか? それとも、ダイヤモンド結晶の氷には、太陽石みたいに魔力を留める性質があったりするのか? 謎は深まるばかり。



 「取り敢えず、早くあれをなんとかしないと。」



 海面に出ている部分のサイズはかなりの大きさが有る。ぱっと見た感じ、東京ドーム位の大きさな感じがする。

 ということは、水面下にはこれの9倍の大きさの氷山があるって事だよね? 正に氷山の一角。

 この気温と水温で、何で溶けないんだよ。



 「イブリス、あなたの得意な炎で、あの氷山を溶かせない?」


 「大き過ぎます。だけど、一応やってみますね。」


 「うん、お願い。私も手伝うから。」



 イブリスは、炎のエレメント化した。イブリスを最初に見つけた時の姿だ。そして、炎で氷山を溶かそうと試みる。

 辺りの海水が、グツグツと沸騰し始め、もうもうと水蒸気が立ち登るが、氷山は大して小さくなった様には見えない。

 うーん、この方法では時間がかかるかな。大半が水面下だもんなー……。


 私は、氷山を水面上に出そうと持ち上げてみる事にした。



 「うっ、ぐぐぐぐぐ……」



 はぁはぁ、駄目だ。重すぎて持ち上がらない。

 イブリスにも手伝って貰って持ち上げてみようとするんだけど、氷山が半分位海面から出た所で止まってしまう。



 「よし、割ろう!」


 「えっ、どうやって?」



 電磁投射砲レールガンで割る。

 海水を使ったプラズマで巨大な魔導リアクターを展開する。

 そして、倉庫からボーリングの玉程の大きさの鉄球を取り出す。



 「イブリス。お願いがあるんだけど、私をあの氷山の上空へ持ち上げてくれない? レールガンに集中したいの。」


 「わかりました、お母様。」



 私は、イブリスの魔力に持ち上げられて、氷山の上空へ登る。



 「もうちょっと高く、あと100位。左へ20、後ろへ50」


 「はい。」



 氷山の全部が視界に収まる程度の高さまで上昇して貰い、位置を調整する。高度は凡そ500ヤルト位だろうか。

 巨大リアクターから、電子流を電磁流体発電により取り出す。その電力量は、10億ボルト、30万アンペアだ。



 「電磁投射砲展開!」



 20ヤルトの砲身長を持つ電磁投射砲に、その莫大な電力を流し込む。

 魔力の砲身は見えないが、莫大な電力により白く輝く。



 「イブリス! 目と耳を塞いで! 電磁投射砲発射カウントダウン。3、2、1、ファイア!!」



 キュッドオォォォォーーーーーーーーーーンンンン!!!!!



 轟音と共に、プラズマ化した金属の砲弾が真下へ向けて発射された。

 砲弾のプラズマ体は、細い円錐状に広がり、500ヤルト下の氷山の着弾点ではおよそ半径2ヤルト程度にまで広がっていた。

 直径4ヤルトの円の範囲は瞬間的に蒸発し、氷山の中心を貫通した熱エネルギーは、その通り道に在った氷を液体を飛ばして個体から瞬時に気体に変える。水蒸気爆発だ。巨大な氷山は、突如内側から発生した超圧力により粉微塵に粉砕される。

 氷山の在った地点からは衝撃波が同心円状に広がり、1リグル(1.6キロメートル)の範囲の海水を泡立たせ、上空500ヤルトから見ると白濁した海が円形に広がって行くのが見えた。

 海底に跳ね返って来た衝撃波により、一泊遅れて海水は上方向へ押し上げられ、私達の居る所まで水柱を押し上げた。

 雨の様に海水が降り注ぎ、私達二人はびしょ濡れに成ってしまった。

 しばらくして海面の乱れが収まると、そこには流氷の浮かぶ海の様に細かい氷の欠片が漂っている。まるで、溶けかけのフラッペだ。


 私は、直ぐに魔力のサーチを広げ、海中を探る。

 再び氷塊が成長している点を見つけ、魔力でそれを海中から拾い上げ、砂浜の上に下ろす。

 海中から取り出せば、氷の成長が止まる。

 今、4~5ヤルト程の大きさの氷塊だけど、温度が氷点下なのか、表面がすでに白く霜が付き始めている。



 「イブリス、この大きさなら溶かすことは出来る?」


 「出来ます。お母様。」



 イブリスが氷塊を火炎で包むと、氷は溶け始め、溶けた水は砂浜に染み込んで行く。

 氷塊の大きさが1ヤルト程の大きさに成る頃には、内部に剣が埋まっているのが見て取れた。

 そこで私が魔力で少し力を入れてやると、氷は真っ二つに割れ、中から1本の剣が落ちた。



 「これさあ、最初の時より冷気が凄くなってない?」



 確かに、二人でチャンバラした時にはここまでの冷気は放って無かった様に思うのだけど、どうなっているのだろう?





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