第109話 驚異のレベルアップ

 今回は前回とは違う、北側の森へやって来た。

 この世界って、町や村の外って殆ど開発されていないから、そこら中森だらけなんだよね。ってゆーか、森の中を切り開いて町や村が作られている感じか。

 東洋みたいに木材で家屋を造ったりしていないので、木々はそれ程伐採されては居ない様に見受けられる。あんまり森の木を伐採すると、ドリュアデスが怖いっていうのもあるのかもしれない。


 燃料はどうしているのかという問題はあるのだけど、薪を使うのは、外周部の貧しい村程度で、殆どは石炭が豊富に採れるので、それを使うみたい。貴族の屋敷なんかは、魔法を使える者を雇って火炎魔法で暖房したり炊事をしたりするみたい。魔導師として仕事をする程でもないけど、初歩的な火魔法とか水生成魔法とか出来る人は、50人に一人位は居るので、町や村で火屋とか水屋みたいな商売をして稼ぐ人も居る。地球の学校で言えば、2クラスに一人二人は居るって感じじゃないかな。

 多分、ケイティーもちゃんと習えば、ファイアーボールの1発位は撃てるんじゃないかと思うんだよね。

 この辺りの小さな村や町は、各戸で各々炊事をする感じじゃなくて、共同炊事場みたいな処でやるのが普通なので、こういう商売も成り立つのだと思う。








 閑話休題


 話が脱線したけど、ギルド長の指定した、オークがよく出没するという北の森へやって来た。



 「私達はランク4と5なんだけど、またオーク狩るの?」


 「ああ、倒す時の立ち回りとか、殲滅スピードなんかを見て判断しているから心配無いぞ。」



 なるほどね。

 ギルド長が戦い方を見て、ランク幾つ相当の実力だと判断する訳ね。



 「お前どうせ瞬殺なんだろう? お前から行け。」


 「へーい。」



 周囲を魔力サーチで探ると、10時方向120にに3頭、4時方向80にも3頭居るのが分かった。



 「2刻方向80ヤルトに3頭のオークが居ます。それを斃します。」



 もう攻撃できる圏内には入っているんだけど、間違って人間の冒険者だったら大変だから、姿が見えてから攻撃を開始する事にする。

 暫くそちらの方向へ歩いて行くと、向こうもこっちに気が付いたみたいで、こちらに向かって移動をし始めた。

 大体60位に近付いた頃に、木々の間からオークの姿が見えた。

 私は足場の良さそうな所に立ち止まると、向こうが近付いて来るのを待った。



 「もう攻撃開始していいですよね。」


 「ん? お、おう、お前は魔導師だからな、好きなタイミングで良いぞ。」



 大体40位まで近付いて来た頃に、オーク3頭の体から水蒸気が上り始めた。

 更に数歩歩く頃には、夥しい量の水蒸気が立ち上って居るのが見える。まるで、大鍋で大量の湯をグラグラを沸かしているかの様な水蒸気量だ。

 オークが苦痛の表情で立ち止まった。

 ギルド長達が不思議そうな目で私とオークを見ている。


 オークはそのまま歩くことも出来ずに、3頭とも前のめりに倒れ、体から出ているのは水蒸気だけでは無く、既に白煙も混じっている事が分かった。1頭の体からは炎が上がり始めたので、私は魔力を止めた。


 以前にマヴァーラの町の外でお師匠が見せてくれたアレだ。

 強力なマイクロウェーブの様に、血液と脳漿を沸騰させたのだ。

 最初に出ていたのは、本当に水蒸気だった。しかし、水蒸気となる水分が無くなれば、脂肪の焼ける白煙へと変わり、自然発火の温度を超えれば炎が上がる。

 オークは、最初の脳漿が沸騰した時点で既に死んでいたであろう。炎が上がるまでとは、ちょっとやりすぎてしまった。

 私は、炎の周囲の空気を排除して、すぐに消火した。


 私意外の全員が、青ざめた顔をしていた。

 ケイティーもかよ!



 「お前……、おっそろしい魔法を使うなぁ。」


 「そうなの? 大賢者直伝なんだけど。」



 ギルド長は、記録のお姉さんに何やら耳打ちをして、お姉さんはそれをボードに書き込んでいた。

 私は、今斃したオーク3頭を倉庫に仕舞うと、次は誰がやるのかを聞いた。

 ランク3の弓士の男が名乗りを上げた。

 今、真後ろ100位の距離に別のオークが3頭居て、こちらへ向かって来ている事を告げると、周囲を少し見回して、適当な木にするすると登って行った。

 私達は、少し下がって物陰から様子を伺う事にする。


 暫く待っていると、こちらのニオイを追って3頭のオークが森の奥から現れた。

 オークの1頭が50位まで近付いた時に、その右目に矢が1本突き立った。



 「上手いな、あの距離で狙ったのなら大したものだ。」



 ギルド長も感心している。

 いきなりの激痛に、1頭は蹲る。それを見た2頭は、何処から矢が飛んで来たのかを知り、先程の弓士が登った木を見上げた。

 その右目にも矢が突き立った。間髪入れずに、無防備に晒された喉笛にもう1本の矢が刺さり、その先端が後頭部から突き出た。

 激痛に蹲っている1頭の頸動脈へもう一本の矢が刺さると、無事なオークは、怒りの叫び声を上げ、弓士の男の登っている木を棍棒で殴り、木を揺すり始めた。

 しかし、上を見上げて怒りの声を上げる、その口の中へ1本の矢が刺さると、オークは仰向けに倒れ、木の上から解体用のナイフを抜いた弓士が飛び降りて来て、素早く頸動脈をカットする。他の2頭も既に事切れている様に見えるが、確実に止めを刺す為に頸動脈を切って回る。



 「血抜きをしておかないと、商品価値が下がるからな。」



 分かってるねこの人、こんな奴らと一緒に居るのがおかしい程の腕の立つ狩人だ。



 「おい、聞こえてるぞ。」



 いけね。また声に出してた。

 ギルド長がまた記録のお姉さんに耳打ちし、何かを書き込む。

 弓士の人が斃した3頭は、血抜きが終わったら倉庫へ収納。

 私は魔力サーチで周囲を調べると、4頭のグループが2つ引っかかった。



 「右の方に4頭のグループが2つ。ケイティーと、ランク3の人の誰かがいいかも。」


 「そうだな。よし、ケイティーと髭面のお前行け。」



 まず、近い方に居る4頭をケイティーが素早く片付ける事に成った。

 ケイティーは前の昇格試験で4頭を相手にしているので、今度はタイムアタックだ。

 4頭グループのオークは、大抵1頭がハイオークだ。前回と同じ構成だね。今回はどんな戦い方を見せてくれるかな?



 「行きます!」



 オークの姿が見えた所で、ケイティーが剣を抜いて走り出した。

 速い! あの子、あんなに速かったっけ?

 風の様にハイオークの前面まで走り寄ると、棍棒を振り被った隙きを狙って右斜め上にハイジャンプした。

 本当にハイジャンプした。漫画みたいな高さまでジャンプした。あれ? 人間ってあんな高さまでジャンプ出来たっけ?

 遠くから見た感じだけど、身長2.5ヤルト以上有りそうなハイオークの倍近くジャンプしてない?

 ジャンプでハイオークの左肩上を抜け様に、頸動脈をカットしてるし。

 そのまま後ろの木の幹を三角跳びの様に蹴り、空中回転をして空中で1頭の首を、そして、着地して背後から1頭の心臓に一突き。一瞬にして3頭を屠った。


 え? 何これ? 忍者か何か? 飛鳥文明アタック? 何でこんな動き出来るの? 人間の動きじゃないよね?

 最後の1頭も危なげ無く、棍棒を振り被る間も無く首が飛びました。

 何だろこれ、最初の一太刀から4頭仕留め終わるまで、ほんの数秒の出来事だったよ? ケイティー、恐ろしい子。



 「ちょっと、ケイティー! どういう事? 今の動き!」


 「うふふ、びっくりした? プロークに魔力の流れとかをちょっと習っててね、飛行術の応用で、少ない魔力で体を軽くして機動力を高める練習をしてたんだ。」


 「ほほう……、あの一晩でそんな事をやってたんだ?」



 確かに飛行術では、魔力を沢山持っている魔導師でも魔力の消費は激しい。だけど、飛行出来ないまでも体を少し支えて体重を軽く見せかける事は可能だ。魔力の消費も少なくて済む。体重が軽くなれば、同じ筋力でも早く走れるし、高くジャンプ出来るという理屈か。考えたな。

 私やお師匠は、人に物を教えるのに向かない上に生粋の魔導師なので、そういったフィジカルを魔力で補助する様な使い方はちょっと思いつかなかったかも知れない。魔力で体を強化している竜族ならではの発想なのかも。という事は、トロルのヴェラヴェラもそういうの簡単に出来るかもね。


 ギルド長が記録のお姉さんにまた何かを書き込ませている。

 さて、今の戦闘でもう1グループの4頭がこっちに向かって来て居ますよ。髭面の悪役リーダー、今度はお前の出番だ!



 「悪役言うなや。改心して真面目に修行してるんだからよ。」



 ほう? 改心したんだ。本当に真面目に鍛錬して来たのかどうか、見させて貰おうじゃないの。




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