第103話 岩竜プローク

 ウルスラさんは、ずいぶんと梃子摺っている様だ。

 あとちょっとで出来そうではあるんだけどな。

 魔力がある程度強い人は、その力が強い分、その反動が体に戻って来るというのが怖いのかも知れない。本能的にそれを避けてしまうんだ。

 長年の訓練で、その反動を受けないようにして来たのと全く逆の事をやれと言っている様な物だからね。特にウルスラさんの国では、防御系が発達している。という事は、反作用によるダメージを極限まで減らす様に訓練されて来ているのだろうからね。


 飛行中は、外部からの攻撃に対しては全くと言って良い程の無防備状態に成ってしまう。だから私は最初、飛行と断熱のシェルを両立出来なかった。お師匠に分担してもらって居たんだ。

 その内に魔導力を分けて、あれは戻す、これは戻さないって分離出来る様になったので、一人で音速飛行まで出来るようになったんだけど、他の人に最初からそれをやれとは流石に言えない。まずは空中浮遊から始めて、徐々に機能を追加してゆく様にカリキュラムを組もう。



 「ウルスラさん、ちょっと私と遊びましょう。」



 遊びといったのは、地球のバラエティでよく見るあの遊びの事である。

 気を付けの姿勢で二人で向かい合って立ち、相手の手の平だけを押してバランスを崩してその場から動いたら負け、という遊び。手押し相撲とか言ったかな? それ。

 ルールが簡単なので、ちょっとやって見せれば直ぐに理解された。

 何でこんな事をやっているのかと言うと、自分の押した力、即ち作用と、相手から返ってくる力、反作用を体感するためだ。


 私達が楽しそうにやっているのを見て、ケイティーとヴェラヴェラもやり始めた。

 それを見ていたヴィヴィさんが、クーマイルマを誘ってやりだした。結構楽しいんだよねこれ。負けるとそこそこ悔しいし、勝つと嬉しい。


 次に私がやったのは、魔力サーチの練習。

 魔力サーチは、前に言ったとおり、軽い反作用を触覚として知覚するものだ。

 目を瞑って、背中側から何人が近づいて来るかを当てる遊び。

 これが出来れば、入り口に立ったも同じ。他の4人にも混ざってもらって、順番に遊びながら当てっこをしてみる。

 案の定、ウルスラさんがあまり成績が良くないんだけど、8割位は当ててるかな。もう少しって感じ。


 今度は、魔力を使った手押し相撲をやってみる。

 ルールは、普通の手押し相撲と同じなんだけど、魔力を使って体勢を立て直してもOKというルール。これは、反作用を体に戻さないと出来ないよ。自分の魔力で倒れそうな自分の体を支えるって事なんだから。


 そうやって、遊びの中に訓練を取り入れながらやっていたら、段々と転びそうな体を瞬時に立て直せるコツが解ってきたみたい。

 クーマイルマといい勝負をしている。こういうのって、同じ位のレベルの相手と勝負するのが一番楽しいし、上達するよね。


 私はヴェラヴェラとやってみた。全能力使用アリで。腕を伸ばしてくる彼女に対して、私は鉄壁の仁王立ち。体の四方八方に魔力のつっかえ棒やアンカーを打ちまくって、絶対に倒れない。最早負ける要素は無い。

 ヴェラヴェラが疲れて自爆待ち……の筈だったのに、なんと負けたのは私だった。

 一体何をされたの? トロルの謎能力? と思ったら、地面が柔らかくて魔力のつっかえ棒がめり込んで倒れてしまっただけだった。



 お昼休憩する頃には、皆そこそこ浮上する位は出来る様になって来たかな。

 ウルスラさんだけがちょっと、おっかなびっくりなんだけどね。ちょっとバランスを崩しそうに成ると、反射的に守りに入ってしまって、反作用のフィードバックを解いてしまうので、落ちてしまう。

 少し時間を掛けて、自主練でぼちぼちやって貰うしかないかも。

 最悪出来なかったとしても、飛行椅子が有るしね。



 「午後からはどうしようか? 後は自主練でそれぞれ技能を高めていくしかないし、何かやりたい事ある?」


 「あのー、私、あの神の雷を習ってみたいのですがー。」


 「神の雷って……、電撃の事ね。あれは、座学から原理を理解しないと、イメージしにくいかも。座学だけでみっちりやって、5日位かかるかな。どうしてもっていうのなら、帰ってから夜に少しずつやろうか。」


 「はい、是非お願いします。」


 「じゃあ、今日はこの後少し遊んで、帰りにロックドラゴンを狩って帰ろう。」



 なので、皆で、だるまさんが転んだとか、かごめかごめとか、地球の遊びを教えて、その遊びの中に訓練を組み込んで楽しく過ごした。


 ウルスラさんは、多分意識の問題で、恐怖心とか常識的な物がブレーキを掛けているだけな様な気がする。

 ヴェラヴェラは、妖精族なので、人間とは比べ物にならない位ポテンシャルは高いのだと思う。割と卒無く何でもこなせる。

 クーマイルマは、やはり魔族なので魔力は高いので、これも訓練次第かな。

 ケイティーは、意外と色々出来るのだけど、魔力の少なさがネックだね。だけど、応用次第で意外と面白い事出来そう。



 「あ、そうだ。私、ウルスラさんから絶対障壁習いたかったんだ。」


 「はい、もちろん、よろしゅう御座いますよ。」



 あ、教える立場になったら急に嬉しそうだ。

 仕組みを聞いたら、魔力防御障壁と物理防御障壁を六角形の小さなプレートにして、鱗の様に配置されているそうだ。想像通りだね。さらにそれを多重に重ねて、破損した部分は下から順次せり出して来て塞ぐ様になっているみたい。これも想像した通り。

 六角鱗のサイズは、小さい程良いのだけど、小さくすればする程制御が難しくなってくるので、目標は最低でも一枚が掌サイズなんだって。それを10層以上。想像以上に分厚かった。

 これを見て考えて展開するのじゃなくて、考えなくても自動的にかつ瞬時に出来る様に、小さな頃から訓練するのだそうだ。

 ウロコ状にするのは、衝撃を一点で受け止めないで、全体に受け流す様にするためなんだって。

 強力な魔力で受け止めるのではなく、少ない魔力でも技術でカバーするように考え抜かれた結果らしい。


 やってみた。

 うーん、1ヤルトもの六角形プレートを3枚出すので精一杯だー。しかも、何度やっても物理と魔力防御の二枚重ねが精一杯だった。ぐぎぎ。


 ところで、何であなた達出来る!

 ヴィヴィさんはいいよ、宮廷魔導師筆頭なんだから。ヴェラヴェラは……、妖精さんだからいいか。クーマイルマは体半分を覆う位だね、かわいいね。問題なのは、ケイティー。何であなたまで出来る!

 ウルスラさんもビックリしているじゃない。聞いただけで出来ちゃうなんて。子供の頃から訓練するんじゃないのかよ。


 ケイティーって、魔力が少ないだけで、魔導のセンスは凄いのかも。もし、魔力をたっぷり持っていたら、魔導師として大成していたかもしれない。惜しすぎる人材だわよ。




 さて、遊んだり練習したりおやつ食べたりと、まったり楽しく過ごした所で、そろそろ帰りましょうか。

 クーマイルマは明日学校だもんね。こら、名残惜しそうな顔しない。


 帰りは、ケイティーとウルスラさんは自前の飛行椅子で飛ぶので、私とヴィヴィさんがそれぞれ一人ずつ運ぶ事にして、ゆっくり飛んで帰る事にした。



 「ケイティーとウルスラさんの飛行椅子は、仕様がちょっと違うみたいだね。」



 ケイティーの椅子は、下にソリみたいな板の付いたロッキングチェアーなんだけど、ウルスラさんのはどっちかと言うと、小型のソリそのものって感じ。飛行椅子じゃなくて、飛行ソリだね。サンタのソリだ。トナカイは居ないけど。



 「そうなの。荷物も積める様に考えたら、こういう形になっちゃうのよね。」



 なるほどね、合理的な考えです。てゆーか、そもそも何で椅子なんだ?

 飛び方も、ウルスラさんのはすーっと飛ぶけど、ケイティーのは、学園の紋章やら光学エフェクトやらで派手な感じだ。広告だから仕方無いのかもしれないけど……



 「速度は?」


 「ケイティーの方の半分よ。実用上必要十分な速度が出る様になってるわ。その分、航続距離が2倍なの。」



 毎刻500リグル(時速400キロ)で600リグル(960キロ)の距離を飛べる椅子か

 方や毎刻250リグル(時速200キロ)で1200リグル(1920キロ)飛べるかソリか

 さあ、欲しいのはどっち? って感じだね。Z2か軽トラか、さあどっち?


 ウルスラさんの飛行ソリの速度に合わせて山を越えて、ロックドラゴンの居る荒れ地へ差し掛かると、上空から見ても分かる、明らかに大きな個体が居る。



 「お! なんか凄いのが居るんだけど、あれ狩ろうか。」



 降りて行くと、その姿がより鮮明に見えてくる。

 向こうもこっちに気が付いたみたいで、頭を上げてこっちをじっと見つめている。



 「ちょっとまって! あれ、ロックドラゴンじゃなくない?」


 「んー? 大きめのロックドラゴンじゃない?」


  『--我が名はプローク。岩竜である。--』


 「違うでしょ! ロックドラゴンに翼は無いよ!」


  『--我が名はプローク。--』


 「別に食えれば何でも良いよ。」


 「あたいも食えるなら良いよー。」


  『--食うな! 我が名は……--』


 「でもさ、得体の知れない物食って毒でも有ったらまずいじゃん?」


  『--毒など無い! 我が……--』


 「毒ならまだしも、寄生虫なんて居たらキモいよねー、あはは。」


  『--貴様ら! 話を聞け!--』


 「あなた達、竜族相手に遊んではいけませんよ。」



 特に襲ってくる気配は無いので、私達は、竜の目の前に着陸して観察してみた。

 竜族って初めて見たんだけど、翼の有るトカゲって感じだよね。

 人より知能が高いらしいから、冗談も通じるのかなと思ったんだけど、流暢な人間の言葉でテレパシー送って来たよ。

 怒っても直ぐに攻撃してこない所なんて、割と知性を感じるよね。

 所で、竜の肉って食えるのかな?



 『--だから、食うなって!--』


 『!--あ、モノローグが聞こえちゃった。--!』


 『--おまえ、声がでかいな! まあよい、我が名はプローク--』


 『!--そこからかよ! もう良いよ、プロちゃん。--!』


 『--プ、プロちゃん、だと!? この誇り高き……--』


 「申し訳ありません、岩竜プローク様。わたくしは、宮廷魔導師筆頭のヴィヴィ・ヴァイオレットと申します。そちらのソリの上に居るのが、隣国の宮廷魔術師長官のウルスラ・ユリーです。そして、こちらの少女が大賢者ロルフ・ツヴァイクの孫のソピアで御座います。」


 『--おお、大賢者ロルフ殿の孫か。邪竜浄化の際には世話になった。本来我々一族内の問題であったを、多くの生命に多大な迷惑をおかけした。--』



 もうずいぶん昔の話なのに、未だに申し訳無いと思ってくれているのか。プロちゃん、結構良い奴じゃん。



 「所で、プローク様はこの様な所で一体何をなさっておられたのですか?」


 『--おお、そうであった。我はこの裏側に巣穴を持っておったのだが、ある日轟音と共に崩れ落ちてしまったのだ。--』



 おうふ!



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