第99話 植樹祭

 サントラム学園の校庭には、生徒達が年齢順に整然と整列して待っていた。

 私は、シャトルを子供達から少し離れた場所に着陸させた。



 「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおお」」」」」」」」」」



 校庭の生徒達や教員達からもどよめきに似た歓声が沸き起こった。

 皆乗り込んでくださーい。と声をかけた所、皆お師匠の方に乗ろうとする。

 なんだよもう、私の方が運転上手いんだぞ?

 私の方に乗りたがるのは、クーマイルマだけかい!



 「じゃあ、そこの列から右が私の方、左がお師匠の方へ乗って。教師陣はお師匠の方へどうぞ。」



 ざわつくなざわつくな! 面倒臭いなもう。

 真ん中ですぱっと二等分して、とっとと乗り込め! 帰りは入れ替えてやるよ!



 「皆乗り込んだー? 飛びますよー!」



 『!--お師匠は場所分からないと思うので、私の後に付いて来て。--!』


 『--よし、わかった。--』



 ひょっとして、このシャトルって無線機付いているんじゃないかと思うんだけど、今はテレパシー交信で事足りているから、それは後でじっくり調べよう。


 ふわーっと飛び上がると、窓から外を覗いていた生徒達から歓声が沸き起こる。

 そうだよね、飛行機乗った時とか、窓際は楽しいよね。ずっと外見ていられるもん。


 王都を経由すると遠回りなので、王都を左手に見ながら飛んでいると、左手前方に見た事のある小型シャトルが飛んでいるのが見えた。



 『!--ヴィヴィさん、発見ー!--!』


 『--あれっ? どこかしらー?--』


 『!--後ろ後ろ。お師匠も居るよ。--!』



 ヴィヴィさんの小型シャトルに横付けすると、王様達が窓から手を振っているのが見えた。



 「左手に見えますのが、王室のシャトルでございまーす。窓から手を振っているのは、我が国王と王妃様でございまーす。」



 私がそう言うと、生徒達に緊張が走ったのが感じられた。

 きっと、お師匠の方のシャトル内でも同じ状況になっていると思われる。

 後はヴィヴィさんのシャトルにくっついて行けばいいや。とか思っていたのだけど、既に眼下に村が見えているね。私達のシャトルは、村の手前の空き地に3台並んで着陸した。


 サントラム学園の生徒は、先生が速やかに整列させ、王と王妃がシャトルから降りてくるのを最敬礼で出迎えさせた。

 それは、王と王妃と貴族が村の中へ入って姿が見えなくなるまで続いた。

 私とお師匠が一番最後に降りて、歩き始めたら、学園長と理事長は、総長であるお師匠にも姿勢を正して挨拶をしていた。



 「さあ皆、今日はお祭りなんじゃから堅苦しいのは無しにして、楽しもう!」



 お師匠の一声で、学生達は姿勢を崩し、それぞれ村の中へ入っていく。

 クーマイルマは、私の傍に駆け寄って来た。村の中に入ると、ケイティーとヴェラヴェラが手を振って走って来た。

 村の中は、あちこちに串焼きとかスイーツとかの屋台が出て、賑わっている。

 アクセルは、こういうお祭りとは縁の無い生活を送って来たみたいで、キョロキョロしている。

 アクセルとヴェラヴェラとクーマイルマに、大銀貨を1枚ずつのお小遣いを渡し、好きなものを買って食べなさいと送り出す。

 アクセルとヴェラヴェラの二人は人混みの中に散って行ったけど、クーマイルマは渡された銀貨を紙に包んでそっと懐に仕舞っていた。使えよと言ったら、『女神様から頂いた、大事な銀貨ですから』だって。もう女神様と言うのを躊躇ってないな、こいつ。一番の重傷者だ。駄目だこいつ、早くなんとかしないと。


 村の中央の一段高く作られた演台の上で、エイダム王がお祭りの開催を宣言すると、わっと歓声が上がった。

 司会は、ヴィヴィさんに変わり、この祭りの切っ掛けとなった私が壇上に引っ張り出されて、人間と森の管理人のドリュアデスとを繋いだ、奇跡の少女だと紹介された。やめろー。


 続いて、森の管理者である、ドリュアデスの姫である、エウリケートが壇上に登り、エイダム王と私にお礼を述べ、ここに集まった皆に挨拶をした。



 「ここにオーク、桑、胡桃、ハナミズキ、ポプラ、ニレ、ブドウ、無花果の8種類の特別な木があります。これをそれぞれ、ソピア、ケイティー、ヴェラヴェラ、クーマイルマ、宮廷魔導師ヴィヴィ、大賢者ロルフ、国王エイダム、王妃エバ、にそれぞれ植樹して頂きます。そして、200本のドングリの木をこの場に居る方達の中から抽選で選ばれた方に、手伝って頂こうと思っています。森の住人と人間を繋ぎ、末永く、両者の繁栄と友好が続きます様に願います。この記念すべき日をお与えくださいました、女神ソピア様に、感謝と永遠の愛を捧げます。ありがとうございす。」



 がーん。エウリケートまでとんでもない事を言いよった。しかも、王の面前で!

 壇上から降りて、私の横を通り過ぎる時に、『ちょっと悪ふざけしちゃった、てへっ。』とか! 冗談じゃ済まされないでしょー! うあああああああああ!!

 どうすんの? どうすんのこれ!? 取り返しがつかないよ?

 あああ、ウルスラさんが、お祈りの形に指を組んで、キラキラした目でこっち見てるー! やめろー!

 クーマイルマとヴェラヴェラも!

 お師匠、何ニヤニヤしてるんだ! ヴィヴィさんも! ケイティーもかよ!



 「もう、殺して……」


 「まあまあまあ、ほらっ、植樹に行くわよ。」



 私の担当は、オークの木。エウリケートの木だね。ケイティーのは、桑の木。これもケイティーと縁のあるモレアの木だ。その他は適当に割り振ったのかな? この森の守護担当のバラノスのドングリの木は、200本もあるので、抽選だ。

 抽選の結果、凡そ100本分を学生が植える事になった。大体学生の半分の数なので、年長と年少が二人一組になって植える事になった。


 エウリケートの守護木であるオークの木は、泉の池の最奥の場所に、植える事になっていた。

 私とエウリケートは、オークの若木を一緒に持ってスーッと浮遊して飛んでいき、宮廷土木魔導師のおじさんが指し示した場所の予め掘られた穴に置き、土を根本に少しこんもりと被せた。そして、泉から水を汲んで来て、根本にたっぷりと掛けた。みんなから拍手が起こった。エウリートが、その若木に祈りを捧げ、皆の方を振り返って、木の中にすっと吸い込まれる様に消えた。


 うーん、なんだこれ? これって、演出なのかな? そういう演出で、お先にドロンしたのかな?

 そうだよね、だって、あっちの森の工事現場で指揮を取らないと成らないんだから。でも、観客にはなんだか厳かで神聖な儀式に見えているんだろうなー。ヴィヴィさんの『演出って大事なのよー』の言葉が思い出された。


 ケイティー達も、同様にその守護木のドリュアスと一緒に指定された場所に行って、木を植えて泉の水を掛けると、ドリュアスはその木に祈りを捧げ、皆の方を向いて一礼すると、若木の中にそれぞれ消えて行った。


 最後に残ったドングリの木のバラノスは、泉の池の中央に浮かんで、皆がドングリの若木を植えているのを満足そうに眺めている。

 私はその芝居がかった演出を若干冷めた目で眺めている。

 これ考えたの、絶対にヴィヴィさんだろう。



 『--違うわよー。殆どエウリケート姫が考えたのよー。--』



 マジか。なんてこった!

 道理でノリノリであんな事言っちゃうわけだ。


 皆のドングリの木の植樹も、恙無く終了し、それを見届けたバラノスは皆にお礼を言って泉の中に消えていった。



 『--さて、フィナーレよー。池の中央のさっきバラノスの居た場所へ移動して。--』



 言われたとおりにする。



 『--皆の方を向いて、私の言った通りに復唱してちょうだい。--』



 えー……、一体何をやらされるんだろう?

 でも、この場の雰囲気をぶち壊す勇気は私には無いよ。



 『--皆様、今日はどうもありがとう、これで私も心置き無く天へ帰る事が出来ます。--』

  「皆様、今日はどうもありがとう、これで私も心置き無く天へ帰る事が出来ます。」


 『--この場所を聖地として、末永く守っていって下さい。--』

  「この場所を聖地として、末永く守っていって下さい。」


 『--では、私はもう天へ帰る時間となりました。皆さんお元気で、御機嫌良う。--』

  「では、私はもう天へ帰る時間となりました。皆さんお元気で、御機嫌良う。」


 「…………」



 『--何してるの、ほらっ、天へ飛んで行って。--』



 上を見上げると、上空に巨大な魔導リアクターが輝いている。うわぁ、これ、ドリュアデスのやつだー。

 私は、その円環の中心に向けて、ゆっくりと手を振りながら登って行った。

 雲の上に出た所で、ヴィヴィさんが待っていた。

 無言で親指を立てて、ウインクされた。


 何この茶番……



 「で、私はこの後どうしたらいいの?」


 「そうねー、再び皆の前に姿を表わすのも変だから、一足先にお屋敷に帰っちゃって良いわよー。」


 「あー、うん、なんか、どっと疲れちゃったので、お先に帰って寝ちゃいますー。」


 「じゃーねー、お疲れ様ー。一人で帰れるー?」


 「帰れるわ!」



 私は、テレパシーでケイティーにだけはお先に屋敷に帰る事を告げ、お風呂に入ってベッドに入った。

 熟睡した。


 お祭りは夜通し村と泉の公園で行われ、王様と貴族達は、7つ刻半(15時)頃、学生達は10つ刻(20時)頃にそれぞれ帰宅したそうだ。シャトルの運転をして来た私が先に帰っちゃったので、ヴィヴィさんが二往復したそうです。




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