第98話 学園長がまた五月蝿い

 植樹祭当日。クーマイルマが今日は学校を休むと聞かない。

 仕方ないので、学校まで付いて行って、1日休学届を出しに行く。

 受付で手続きをしようとしたら、学長が話があると言うので、学長室へ行く。



 「クーマイルマさん、あなたを受け入れるのに、周囲の者が色々と骨を折り、特別な便宜をもって、我が学園に受け入れられ、さらに特別待遇で寮に入らずに通学まで許されているというのに、植樹祭に出たいから休みたいという我儘が通ると思っていらっしゃるのですか?」


 「うっ……」



 確かに、学長の言う事は至極ご最もです。



 「そもそも、総長である、大賢者ロルフ様の推薦状が有ったために特別処置として入学を許可しましたが、入学早々にこの様な我儘を言い出す等、言語道断。本来、総長の職権乱用とも言われかねないこの様な特別待遇には、私は非常に不快感を覚えているのです。なのに、その特別な待遇に感謝もせずに、自分の都合だけで気軽に休みたいなどと……くどくど。」


 「じゃあ、辞めます!」


 「はあ?」


 「はあ!?」



 あまりの発言に、学長も私もクーマイルマの顔を凝視してしまった。



 「あたいは、女神ソピア様にお使えするためにここへ来たんです! ソピア様と一緒に居られないのなら、学校なんて辞めます!」


 「……」



 ちょっとびっくりした。そんなに真剣だったのか。じゃなきゃ、自分の生まれ育った村を飛び出したりしないか。私も村を飛び出した人間だから、ちょっと気持ちは分かるかも。

 そうだよなー、私は、クーマイルマの気持ちに真剣に向き合ってなかったかも。なんとなく、こちらに住めればいいんだろうな、その為には学生の身分にしちゃえば、手っ取り早いだろうって、事務的に処理しちゃってたのかもね。反省。



 「分かりました。学園長先生、私はクーマイルマの保護者として、一人の人間を預かる者として、真剣さが足りなかった様です。休学届は取り下げます。」


 「そうか。解ってくれたか。」


 「そんな、ソピア様!」


 「退学届を提出します。」


 「なっ!?」



 そうだ。ヴェラヴェラだって旅行者という身分で私の元に居るんだ。この国で生活する上で、何かと権利的に不都合な場面に直面したりするかも知れないけど、そこは私がフォローしてあげればいいや。



 「ま、待ち給え、早まるな! 我が国では、子供は学問を学ぶ権利があり、保護者はそれを受けさせる義務があるんだぞ! 退学届なんて、受け取れるわけが無いだろう! その様な物を提出しても、受理は出来んぞ!」


 「しかし、たった1日の休みも認めて貰えないのならば、他に方法はありませんよね?」


 「何でそう極端な結論になるんだ。その植樹祭というのは、そんなに大事なものなのか?」


 「あ、いえ、それは……」



 元々私の不祥事から発したもので、なんか色んな人がどんどん集まって来ちゃって話が大きくなっていって、植樹祭は急に昨日決まったばかりとか……うーん、説得力無いねぇ。なんて説明しよう。



 「東の村の森の中にですね、ドリュアデスの立ち寄る泉のある公園をですね……ドリュアデスの姫と村人と宮廷魔導師達も集まって、ドリュアデスの守護木を皆で植樹しようって……」



 やばいー! 自分でも何言ってるのかよく分からなくなって来たー。

 だって、元々私が黒玉でちょっとやらかしちゃったからだよ? その後始末だよ? 偉そうに啖呵切っちゃってからのこれって、どう言えばいいの? 私ピンチか、ピンチなのか? あー、考えがまとまらない!



 「なに!? ドリュアデスと人が触れ合えるイベントだって? そんなまさか! ……いや、それが本当だとしたら、歴史的大イベントなのでは……」


 「いやいやいや、そんな大それたものでは……」



 ヤバイ、冷や汗が止まらない。



 「よし! 今日は全校休校にする。我々もそのイベントに参加させてくれ!」


 「へっ!?」


 「今から全校生徒を引き連れて、そのイベントに参加させてもらおう。この様な体験は、生徒達にとっても一生の財産に成るに違いない!」


 「ちょっと待って、移動手段が無いでしょう! 東の村まで、徒歩で5日はかかる距離ですよ?」


 「確か、王宮には最近開発されたという、飛行シャトルとか言う乗り物が有ると聞く。それを借りる事が出来れば……、よし、早馬を出して、宮廷の旧友に聞いてみよう! 午後からでも参加出来るかも知れん。」


 「あ、そんな事しなくても、私が遠隔通信出来ますので、ヴィヴィさんに聞いてみますね。」



 『!--ヴィヴィさん、ヴィヴィさん、聞こえますか?--!』


 『--あら、ソピアちゃん、今日の事で何かご相談でも?--』


 『!--あのね、サントラム学園の学長が、全校生徒と参加したいって言い出しちゃって……それで、飛行シャトル借りられないかって言うの--!』


 『--あらあ、ごめんなさいね。王と王妃様も急遽参加する事になっちゃって、さらに腹心の貴族達もって事で、そっちに使う予定なのよ。--』


 『!--王様達送った後でも良いんだけど、貸してもらえないかな?--!』


 『--それだと、午後からの参加になっちゃうんじゃない? それじゃつまらないでしょう。そうだ、ソピアちゃんがエピスティーニへひとっ飛び行って、もう一台持って来たら良いんじゃない?--』


 『!--うへぇ、そうなるのか……うーん、でも、他に方法は無いかー。……うん、わかった。そうするよ。--!』


 『--がんばってねー。--』



 えー、何これ、何の罰ゲームなんですか?

 でも、それが出来ちゃう私のハイスペックぶりが恨めしい。



 「よし! やるか!」


 「おお、話が付きましたかな?」


 「あ、王宮に今置いてあるのは、王様達が使うから駄目なんだって。だから、私がちょっとひとっ飛び行って、もう一台調達してきます。」



 お師匠に連絡して、もう一台用意しておいてもらおう。



 『!--お師匠、お師匠、聞こえますか?--!』


 『--ソピアか。どうした?--』


 『!--あのね、斯々然々かくかくしかじかです。--!』


 『--おお? なんじゃその面白そうなイベントは。わしもまぜなさい。--』


 『!--じゃあさ、シャトルバス2台用意しておいて。サントラムの生徒も行くんだって。--!』


 『--了解じゃ、プラットフォームで落ち合おう--』



 「お師匠とヴィヴィさんの了承も得たので、これから空飛ぶ乗合馬車を取りに行ってきます。すぐに乗り込める様に、生徒を校庭に集合させておいて下さい。えっと、何人位でしたっけ?」


 「全校で職員を含めて200人弱です。」


 「了解! じゃあ、超特急で行ってきますね。」



 学長の机の上のコップの水を頂いて、窓から飛び出して行った私を見送って、学長が一言。



 「あの子には、礼儀とマナーを学ばせる必要が有るな。」






 ダブルジェットで音速の壁を越える。

 一瞬、円錐形の水蒸気が発生し、音を置いて飛んで行く。後にはソニックブームが発生したが、人家の無い場所なので遠慮はしない。

 ほんの数分でエピスティーニに到着。プラットフォームへ飛び込む。

 お師匠とアクセルが既にそこに居た。



 「おお、ソピア、早かったな。」


 「まあね、お師匠のスピードの秘密、解っちゃったもん。燃料を使ってるよね。水を分解して、活性酸素と活性水素に分け、それを反応させて噴射に利用しているんだ。」


 「正解じゃな。まあ、おまえならすぐに分かることじゃったか。後はヴィヴィだけじゃな。」


 「それはそうと、大型のシャトルバスの用意は?」


 「お前が早く来すぎて、まだじゃよ。エレベーターでここに降りてくるのとお前が飛び込んで来たのがほぼ同時じゃった。」


 「そっか、じゃあ太陽石の結晶スーナ・クリスターロのチャージもまだなんだね。」


 「地下から取って来ないとなあ。」


 「まって、面倒だから、私がここでチャージしちゃうよ。」



 この大型シャトルなら、1台で100人は乗れるだろう。2台持っていけば、足りるよね。

 大型シャトルの側面のハッチから、太陽石の結晶スーナ・クリスターロの魔導キャパシタを取り出し、並べる。王宮に持って行った物より、4倍位の大きさだ。1本、2リットルペットボトル位の大きさと言えばお分かり頂けるだろうか。

 私は、その底面の部分に手を翳し、思いっきり魔力を込めると、クリスタルは輝きだし、直視出来ない程の眩しさに発光した。



 「はい、一丁上がり。」


 「……、おまえ、便利じゃのう……」


 「じゃあ、お師匠、アクセル、行くよ!」


 「え? 私もですか?」


 「当たり前でしょう、仲間なんだから。」


 「仲間、ですか……」



 1台にお師匠とアクセル、もう一台の運転席には私が乗り込み、プラットフォームの出口から出る。



 「お師匠は運転の仕方知ってたっけ? 足のペダルの前後で上昇と下降、操縦桿の左右で左右移動、前後でスピードだからね。」


 「なんか、癖のある操縦方法じゃのう。」


 「では、しゅっぱーつ、しんこうー!」



 流石に大型車は大きなエンジンを積んでいるらしく、スピードも王宮に持っていった物より速いみたいだ。メーターの文字が読めないんだけど、大体体感で毎刻750リグル(時速600キロ)位は出ている感じがする。

 でも遅い。音速の半分かよ。このままだと、6つ刻(午前10時)に村へ到着は間に合わないかも。



 「お師匠、遅いから、私が引っ張るね。」


 「引っ張るって、何をじゃ? うわっ!」



 

 2台の大型シャトルを魔力で引っ張って、音速突破で学園に向かう。




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