第97話 ヴェラヴェラの魔法
「じゃあ、この葉っぱの山に、水をかけて湿らせておくれー。」
私達は、村の井戸から水を汲むと、柄杓で軽く湿る程度に水を掛けていった。
「うん、その位で大丈夫だよ。じゃあ、いくよー。」
ヴェラヴェラが葉っぱの山に手をかざすと、ブスブスと水蒸気が上がり、異様な匂いがし始めた。
葉の山は、見る見るその体積を減らし始め、黒く変色してゆく。
近くに寄ってみると、かなり熱を持っている様だ。黒く変色した葉を手に取って見ると、軽く摘んだだけでボロボロと崩れる。
「これで、熱が冷めたら出来上がりだよ。」
葉っぱを集めていた男も近寄って来て、手に取って確かめて見る。
「おお、これは良質な腐葉土だ!」
遠巻きに見ていた他の村人も集まって来て、確かめている。
「これを、畑の土に混ぜれば、作物がよーく育つよー。」
「「「「「おおおお」」」」」
「どんどん作るからね、植樹に使って余った分は、畑で使うといいよ。」
村人は、最初、葉っぱなんて集めて何に使うんだと思っていた様だが、あっという間にそれが腐葉土に変わると知って、大喜びでまた森の中へ走って行った。
「ありがとう、ありがとう、こんなに素晴らしい魔法は見た事が無い。さぞ名のある魔導師様なのでしょう。」
村長に手を取られ、ヴェラヴェラは呆気に取られていた。
と思ったら、次の瞬間、ボロボロと泣き出した。
「ボエエエエエン」
「えっ!? ヴェラヴェラ、いきなりどうしたの?」
「ブエエエエエ、あたい、人にこんなに喜ばれたの初めてー。こんな魔法、いつもいつも忌み嫌われて居たのにー。」
「そうなの? ヴェラヴェラの魔法があれば、発酵食品だって簡単に作れるのに。私に言ってくれれば、すぐに有効に使う方法を教えてあげたのに。」
「バエエエエエ、そうなのー?」
「そうだよ。そして、泣き方変だよ?」
腐敗と発酵は、同じ現象なのだ。特に人間の役に立つ腐敗を、発酵と呼んでいるにすぎない。
「ブアアエエン、ぐひっ、うひっ、あはー。」
「あはは、変なのー。」
「変かー、あたい、変なのかー。」
「変じゃないけど、変だー。あははは。」
ヴェラヴェラは、人間が好きで、昔人間の村に住んでいた事があったのだという。でも、トロルだとバレると石もて追われて来た。他の村へ行っても、人に化ける、物を腐らせる等の魔法を見せると、皆一様に嫌な顔をされ、村を追われた。魔物の森ではそういう事は無かったが、人間と仲良くしたいという気持ちはつのるばかりだった。
そこへ、人間の中に女神様が降臨したという噂を聞く。その少女は、魔族の人間を見ても嫌な顔一つせず、そればかりか死んだ少女の口へ口付けし、自分の息を吹き込み蘇らせたという。その少女に会えば、自分も人間と一緒に暮らせるようにしてくれるかも知れないと思い、女神に会いに村を出たという魔族の少女を追って、魔の森から再び人間の里へやって来て、女神様の情報を探っている最中に私達に会ったのだそうだ。
私とケイティーは、ヴェラヴェラの頭をナデナデしてあげた。
辛かったね、もう大丈夫だよ。私達、ズッ友だよ。
ヴェラヴェラが腐葉土を作っている間に、森の方では円形の公園がなんとか形に成って来ていた。
だけど、池の水の溜まりがあまり良くない。砂の上にうっすらと、手首程度の深さに水が溜まった程度だ。
「うーん、浅い所の水脈は、水量があまり多くないのかな……よーし。」
私は、池の中心の土を、第一透水層まで、直径1パルム(17センチ)程の太さの円柱で引き抜いた。そして、その穴に砂を詰める。
しばらく見ていると、水面が盛り上がった。読みどおり、下の透水層から水が上がって来たのだ。深い水脈は、土の圧力がかかっているので、その圧力の逃げ道が開けば、そこへ向けて水が吹き出してくるという寸法。これも、十分な水量が有った為なんだけどね。
……だけど、あれ、あれれ、水出すぎじゃない?
見る見る水位が上がって、池の縁の予定箇所を越えてしまった。
「はーい、予定変更ー! 池の直径は40になりました。腐葉土を混ぜた土を、1ヤルト程の厚みに、その周囲に敷き詰めて下さい。腐葉土は、森の入口でヴェラヴェラが作成中です。腐葉土と土は、1:2の割合で混ぜて下さい。」
宮廷魔導師達は、飛行椅子に乗って森の入口まで飛んで行き、腐葉土と土を混ぜ始めた。それを再び倉庫へ収納し、戻って来て池の周りの土に被せて行く。土木工事に成れた人達なので、流れる様な作業で、日が暮れるまでに予定の作業は全て完了した。
「宮廷魔導師の皆さん、ヴィヴィさん、本日はどうも有難うございました。」
「いやいや、我々も地下から構造を作り上げる造園というものを知ることが出来ました。勉強になりました。有難う御座います。」
「ヴィヴィさん、ヴィヴィさん。」
私は、ヴィヴィさんを手招きして、小さな声で内緒話をした。
「あの人達に報酬を出したいのだけど、いいかな?」
「別に要らないわよ、そんなの。勉強になったって言ってたし、王宮の植物園を作るのにも知識が役に立ちそうだし。」
「そういう訳にも行かないって。私の不祥事なんだから。これを買い取ってくれないかな。それで報酬を……」
私は、倉庫から40トンあまりの太陽石を取り出してみせた。
「ちょっ! まって、なんじゃこりゃー!」
「「「「「おおおおおお」」」」」
こんな巨大な太陽石は見た事が無いと、魔導師達は大騒ぎになった。
村人達は、それが何かを知らないので、綺麗な光る石だなーとしか思っていなかった様子。
ヴィヴィさんによると、金額が巨大すぎて、とても買い取れる代物じゃないと断られてしまった。なんでも、今のレートで計算すると、大金貨160万枚(1600億円)以上にも成るかも知れないとの事。
最近は、太陽石の供給過多で、値段は下がっているんじゃないの? と聞いてみたのだが、例え十分の一になっていたとしても、大金貨16万枚(160億円)にもなる。絶対無理だと言われた。
じゃあ、かち割ろうか? と言ってみたら、絶対ダメーだって。
じゃあどうしよう……と、考えた所で、ティーンと閃いた。
「これを国に譲渡するから、その代金分の利息を毎月頂くというのは? 代金は50分の1でいいよ?」
「うっ! ……悪魔だ、悪魔が居る……」
「うふふ。」
にっこり。こんな巨大な太陽石が50分の1の値段で手に入る。喉から手が出るほど欲しかろう。
ヴィヴィさんは今頭の中で、損得をフル回転で計算している事だろう。この巨大太陽石が手に入り、その代金も今すぐ払わなくても良い。そのお金を国で預かった事にして、利息を毎月支払うだけでいい。この子、微妙なラインを狙ってきてるなーって思ってる顔してる。
「買ってくれないのなら、ウルスラさんのお国に……」
「まって! 買う! 買います! 買えば良いんでしょう!!」
「やったー!」
ヴィヴィさん、目が血走っている。鼻息が荒い。フーフー言ってる。面白い。
この国は年利1割なので、計算しやすい。売却代金は、大金貨3万2千枚(32億円)激安だね。利息は年
相場から考えると、かなり損しているけど、どうせ拾った物だし、年収4000万円の収入なら、十分以上でしょう。あまり欲をかくものじゃないよね。
毎月の収入は、大体、大金貨33.333枚(約333万円)、手伝いに来てくれた魔導師の皆さんに、一人頭5枚ずつ出してあげても、十分支払えるね。私一人でも、6人迄支払い可能だ。あ、全員に払えちゃうわ。
「では、私の今月分の収入分を皆さんのお手当として支払って上げて下さい。」
「わかったわ。本当にもう、頭の回る子ね。」
その事をケイティーとヴェラヴェラに話したら、ケイティーは小さく『また儲かってしまったのか……』と言った。ヴェラヴェラはお金というものを使わない生活をしていたから、ピンときていないのかも。クーマイルマもそうかなー……。
「では、宮廷魔導師の皆さんとはここでお別れになりますが、私達と村の皆さんは、明日、ドリュアデスと植樹の仕事がありますので、よろしくお願いします。明日の集合時間は、明日の6つ刻(10時)に集合しましょう。」
ここで、解散なので、村人達と一緒に村へ帰ろうとしたら、後ろから魔導師のおじさまに声をかけられた。
「あの、明日の植樹祭に、私等も参加したいのですが……」
「えっ?」
「ドリュアデスと一緒に植樹が出来るなんて、こんな機会は一生の内に一度有るか無いかの貴重な体験なので……そのう。」
ああ、そうか、寧ろそっちが本番だったか。うっかり追い返してがっかりさせちゃう所だったよ。
てゆーか、植樹祭って何だよー。
「あ、もちろん、参加して下さい。楽しいお祭にしましょう。」
植樹祭かー……考えてもみなかったな。
じゃあ、お弁当とかも用意して、楽しくやるか。
「ヴィヴィさん、ドリュアデスはあのお菓子が大好きみたいだから、沢山用意出来る?」
「オッケー。大丈夫よー。楽しくなりそう。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます