第96話 工事開始

 翌朝、愚図るクーマイルマを学校へ送り出し、私達は例の村へ飛んだ。


 クーマイルマも私達の助けになりたい、というか、一緒に行動したいのだろうけど、土木工事の役に立つとは思えないし、手伝ってもらうとしたら、最終的な植樹の所だけかなーと思うんだよね。だから、それまでは学業に専念してもらおう。その時になったら必ず声を掛けると約束し、クーマイルマも『絶対ですよ、絶対ですよ!』と何回も念を押して出掛けて行った。



 村へ到着したら、ドリュアデスも宮廷魔導師軍団も、村の人間も、広場に既に集合していた。

 私達、1刻(2時間)も早く来たんだよ? それなのに一番最後って。皆どれだけ張り切っているんだよ。

 流石に日が昇る前に暗い森に入るのは危険が危ないので、太陽を拝んでから行動開始する。



 「その前に、皆、左手を腰に、右人差し指で太陽を指差し。私の後に続いてご唱和願います。『今日も一日、安全に気を付けて、ゼロ災で行こう!』はいっ!」


「「「「「「「「「「今日も一日、安全に気を付けて、ゼロ災で行こう!」」」」」」」」」」


 「この儀式はなんじゃろ?」


 「さあ、しかし、私達は女神様がそうしろと仰る事に疑問を持たず、実行するまでです。」



 ヤバイ事言い出してるー!

 宮廷魔導師までも女神呼ばわりし出してる。どうなっちゃうの私! 誰かボスケテ!!



 「では、昨日打ち合わせた通り、各班に分かれて必要な資材を調達に向かいます。村人は、森の中から落ち葉を可能な限り集めて来て、森の近くの空き地にどんどん積んで下さい。」


 「あのう、どの位の量を集めれば良いのでしょうか?」


 「可能な限り大量に、です。多すぎて困る事は有りません。村の畑でも使えますからね。はい、では散開。」



 ヴィヴィさん達は、鉱山へ土と粘土を貰いに。私達は、河口へ砂利と砂を取りに向かった。

 そこへ、大きな太陽石ペトラ・デル・ソルがどんぶらこどんぶらこと……濁流に押し流されて転がって来てるね。

 あー、これは、あの時私が大きすぎて要らないやって、川の中へポイしちゃったやつだ。拾い上げてみると、あの時は50トンはありそうな大きさだったのに、転がる内に角が丸まって、40トン位になっちゃってるかな……。臨時収入として、倉庫へ仕舞っておこう。



 「神様、今の光る石は何なんだい?」


 「あれはね、太陽石と言って高く売れるから、後で換金して皆に分けるからね。」


 「また儲かってしまうのか……」



 ケイティーがぼそっと呟いた。

 それよりも採集だよ! 川の上を下流側に向けて飛んでいると、結構な大きさの砂州があった。

 私達は、そこへ着陸した。



 「よし、これを持って帰ろう。」


 「持って帰ろうって、私達二人の倉庫を合わせても、こんなに入らないんじゃないかしら?」



 ケイティーは、足元の砂を蹴りながらそう言った。

 そうだね、さっき、必要な量を計算してみたんだけど、水脈のある地層の厚さを1ヤルトとして計算すると、凡そ9万8千バラル程の量になるんだよね。バラルというのは、1樽という意味のこっちの単位で、大体160リットル位の量だ。地球の単位に直すと、1万5千7百立方メートル位の量です。


 何往復もしようかとも考えたのだけど、一つ試してみたい事が有るんだ。

 それは、あの、私が時々入る謎空間。渓谷で濁流に飲まれた時とかに入ったあの空間です。あれを倉庫代わりに出来ないかなって考えてるの。

 あの空間に物を入れると、私から離れちゃうと二度と見つからないんじゃないかと思っていたのだけど、あの空間内では、思った所にイメージしただけで瞬間移動出来るんだよね。と、言う事は、中に入れた物を強くイメージ出来れば、手元に引き寄せる事が出来るんじゃないかって思ったんだ。なんだか行けそうな気がする~。



 「みんな、ちょっと離れててね。」


 「うわー、なんかそのセリフー怖いー。」



 ケイティー達が、砂州の一番端側へ避難するのを確認してから、私は、右の拳に魔力を集中して、目の前の空間を殴りつけた。ガラスに弾丸が貫通したときみたいなクモの巣状のひびが空間に走り、砕け散って丸い黒い穴が開いた。

 そこへすかさず目の前に広がる、足元の砂州の砂を半分ほど放り込んだ。そして、一旦空間を閉じる。

 どうやって閉じたのかは、自分でもよく解らない。閉じろと思ったら閉じたから。でも、中に入った時は、入ると勝手に閉じた。時間が経つと勝手に閉じるのか、私が無意識に閉じていたのかは、解ってないんだ。

 今、足元の砂州は、二分の一位の砂が無くなっている状態だ。



 「よし、これでもう一度取り出すことが出来れば、倉庫として使えるぞ。」



 使い勝手的にも、魔力の消費量的にも、魔導倉庫の方が全然コスパ良いんだけどね。

 気軽に使うには、全然魔導倉庫のほうが使い勝手は良い。でも、容量の制限を考えると、この謎空間も使えるなら、それなりに便利かもかも。未だ使えるのかどうかは定かでは無いけどね。

 さて、無事に取り出せます様に。


 再び、魔力を込めた拳で空間を殴り、穴を開ける。

 砂州の砂を強くイメージし、出てこいと念じる。

 目の前には、元通りの砂州が現れた。


 いやこれ、一旦砂を他の所へ移動して、また戻したって感じじゃない。

 掘った感じも、砂がひっくり返った感じも、無い。

 本当に、目の前から消えて、再び全く同じ状態で出現したんだ。



 「えっ?」



 私は、振り返って、二人を見た。



 「今の、見た?」



 二人は、無言で首を上下に振っていた。やばくね?

 物を出し入れしたと言うよりも、空間を丸ごと切り取って、また戻した、という程に、元の状態が保たれている。うわ、ヤバイかも。

 中の時間が停止している? いやいや、私、何回も出入りしているし。中で動き回ったり、物を考えたり出来てるもん。

 じゃあ、どういう事なのかな?


 仮説なんだけど、こっちと中の空間は、比率が1:1じゃないというのは前に言ったと思う。時間も、1:1どころか、それぞれ勝手に別々に流れているのかも知れない。こっちから中を見る場合、好きな場所や時間にアクセス出来るんじゃないだろうか。

 つまり、こっちから出し入れする時には、物を仕舞ってからこちらでどんなに時間が経過していたとしても、物を放り込んだ直後の時間に自在にアクセス出来るのかも? という事だ。仮に、中に入れた物に意識が有るとしたら、浦島太郎みたいに、謎の黒い空間に放り込まれたと思ったら、次の瞬間には出ていた、だけど、外では何百年も時間が経過していた。みたいな事なんじゃないかな。あくまでも仮説だけどね。



 「神様凄いだよー! あたいの見た事の無い魔法ばっかり使うだよー。」



 だよねー、殆ど私のオリジナルたもんね。

 では、この砂州を丸ごと持って帰ろう。



 ケイティーに、飛行椅子を出してもらって、ヴェラヴェラは彼女の膝に載せてもらって飛んでもらう。

 私、一度に複数の魔力操作が下手だからね。飛行と空間を開くのを同時に出来ないかも知れないから。


 二人が飛んだのを確認して、私は再び空間に穴を開け、足元の砂州を全部放り込む。

 砂州が消えて、川に落ちる前に空間を閉じて、飛ぶ予定だ。よし! 完璧な計画だ! ……ったのだが、砂州が消えた瞬間にバランスを崩し、ひっくり返った所に流れ込んできた濁流に飲まれ、水の中で錐揉み状態になってしまった。



 「ガボガボガブブブブ」



 ヴェラヴェラが腕を伸ばして、拾い上げてくれた。かっこ悪い。



 「大丈夫?」


 「神様ドジっ子なんで、あたい、大好きだよー。」



 照れるぜ!

 さて、森へ帰ろう。



 「うーん、運んでもらうの楽ちんー。」


 「ちょっと、バランス取るの難しいから、ソピアはヴェラヴェラの膝の上に乗せて。」



 こうして、ケイティーの飛行椅子に3人で相乗りして、森へ帰って来た。

 森へ帰ったら、ヴィヴィさん達、宮廷魔導土木師達が帰って来ていて、土を入れ始めていた。



 「あらっ? ソピアちゃん達、お帰りなさい。砂は取れた?」


 「うん、バッチリだよ。」


 「二人の倉庫に入れてきたのね? だけど、ここ、想像以上に入っちゃうわ。二人の倉庫の容量だと、何往復もしないと成らないわね。」



 私達は、顔を見合わせて、ふふふっと笑った。



 「大丈夫だよ。一回で取ってきたよ。」


 「えっ? どういう事なのかしら?」


 「一段目の土と粘土を入れ終わったら見せるよ。」



 私達は、穴の中の工事の様子が見える位置に、キャンピングセットを取り出して、3人でサンドイッチをぱくついた。

 しばらく様子を見ていると、この人数でどうやってこれだけの土砂を搬入したのか気になっていたのだけど、その理由が判明した。 一人で倉庫を複数所有しているんだ。

 ああ、ナルホドね。土木用に大容量の倉庫を作ればいいのにとも思ったのだけど、そういう利用方法は後から出たもので、今の所は全部同一規格同一容量の倉庫しか作っていないんだろう。そのうち、利用範囲が広がるに連れ、それ様にカスタマイズされた魔導倉庫が作られるのかも知れない。

 見ていると、一人5つ位の鍵を持って、次々に中身を吐き出している。全部出し終わった人は、飛行椅子に乗って、鉱山へ取って返すという具合に、リレーしている。どんどんと土が入って行く様は、見ていて楽しい。スマホのタイムプラスの動画で早回しで見ているみたいに、どんどん穴の底が上がって来る。

 土をある程度の厚み迄入れては、魔力で上から圧力を加え、ドンドンと圧縮してゆく。そのあたりの事は、貴族の屋敷とかこの間のハンターズの闘技場なんかを建設した人達なので、基礎工事として心得ているのだろう。


 一番目の透水層の下の不透水層に粘土が入り始めた。見る見る粘土が広げられ、不透水層の工事が完了して、ヴィヴィさんがこっちに向けて手を振るのが見えたので、手に持ったサンドイッチを口に押し込み、穴の中へ降りる。



 「うん、いい感じだね。厚みも丁度良いかな。じゃあ、砂をいれるから、一旦皆上へ上がって下さい。」



 私は、皆が穴の上へ上がるのを確認して、あの空間を開く。そして、中の砂州を認識して、外へ取り出す。

 でーんと、あの砂州が、そのままの形で出て来た。穴の上から中を覗いていた人達から、おおーっという声が上がった。

 砂州は、穴の大きさよりも大きかったので、壁につかえて崩れながら中に落下して行った。ちょっと量が多かったので、半分を再び空間に収納すると、魔力で平らに均す。まだ多かったかな? でも、上から魔力で力を掛けてみたら、沈み込んで丁度良い厚みになったかも。



 「はい、透水層の工事完了。」


 「凄い、あの量の砂を一気に。そして、なんという工事の速さだ。」


 「ちょっとちょっと、ソピアちゃん、今の何? あれは、あの空間よね? あそこで手放しちゃうと二度と見つからないって言ったたじゃない。なのに何でー?」



 ヴィヴィさんが詰め寄って来た。想定の範囲内だけどね。



 「最初はそう思ってたんだけど、イメージで移動出来るなら、イメージすれば中の物を引き寄せられるんじゃないのかなと思って、やってみたら何か出来た。」


 「何か出来たって、本当にもうこの子は。すごすぎるわー。」



 ヴィヴィさんが抱き着いて来て、ギュッとされた。うひひ、これ大好き。


 再び、王宮魔導師部隊が、土入れ、圧縮、と繰り返して土を積んでいき、二段目の不透水層に粘土を入れ終わった所で、私が残りの砂を入れて、押し固める。

 ここからは、中心から半径10ヤルトの円形に池を作るので、その範囲を避けて土を入れて行く。



 「ヴェラヴェラー、村の人達が集めた落ち葉を腐葉土に変えてくれるー?」


 「おっけーだよー。」



 森の入口迄行ってみると、村人が総出で集めて来た落ち葉が山の様に積まれていた。



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