第94話 ドリュアスのバラノス

 やべ、ちょっとやりすぎた。

 ちょっと長時間出しすぎちゃった。

 洗濯機の水流とか、排水口の渦とか、ずーーっと見ていられるよね。なんか、そんな感じだった。

 黒玉に色んな物が吸い込まれていくのを見ていたら、意識まで吸い込まれて行きそうな感じだったよ。

 はっと、すぐに気がついて止めたけどね、1秒か2秒位、ぼーっとしてたかも。

 黒玉を止めて、回りを見回したら、あっちゃー、やっちまったーってなった。

 直径100ヤルト位に地面も森の木も無くなちゃってた。コボルドの死体処理だけのつもりだったんだけどな。



 「ソピア!」



 穴の縁から、ケイティーがすごい形相でこっちを見てるよー。

 あれは、絶対に怒ってる顔です。怖いです。人間、あんな顔出来るものなんだね。



 「てへっごめんちゃい。」


 「ごめんちゃいじゃなーい! どうすんのよこれ! 森が無くなっちゃってるじゃない! 地面はどこへやった! ガミガミガミ!」


 「す、すげえ、神様にタメ口で説教をしているよー。」


 「ソピアさまぁ……」



 ヴェラヴェラまで神様とか言い出したよ。どうすんだよこれって、私がやらかしたからですね、はい。


 ケイティーにガミガミ怒れれていたら、森の方からじーっと私達を見る視線を感じた。

 そっちを見ると、ドリュアスが居た。

 やっぱり来たーーー!! すごく怒られるーー!!



 「これは……あなたがやったの?」



 ドリュアスの少女は、静かにそう聞いてきた。

 うああ、その静かな感じが、怒りが振り切れてしまって逆に無表情に成っている感じが、とっても恐ろしいー。



 「ご、ごめんなさいー。わざとじゃないんですー!」



 生まれて初めてジャンピング土下座をキメた。

 自分でもとても滑らかな動作だったと思う。会心の土下座だ。



 「私に、謝られても、困るんです、け、ど。」



 その、区切って言う感じが、とっても良く怒りを表しています! あうあうあう。



 「どんなに謝っていただいても、失われた何十本もの樹木の命は、戻りませんよね? だいたい、謝って済む事と済まない事って有りますよね。分かっています? 口だけで分かっていると言っても信じませんよ? あなたは、森に住む住人と戦争でもしたいのですか?」


 「滅相も御座いません! ドリュアデスの集団魔導には、誰も敵いません。ほんとーに、申し訳ありませんでしたぁ!」


 「あうあう、神様がドリュアスに土下座謝罪をされている。ドリュアデスって、神様より偉かったのか。」



 その言葉を聞いて、ドリュアスの少女は更に怒りをつのらせた様だ。


 「はあ? あなた、魔族やトロルにまで女神とか呼ばせているのですか? 恥を知りなさい!」


 「あううう、言い訳のしようもありません。」


 「ちょっとそこの腐れドリュアス! 私の女神様に無礼が過ぎますよ!」


 「あうあう、やめて……」



 クーマイルマがキレ気味でドリュアスの少女に食って掛かってしまった。

 私はオロオロするばかり、ケイティーは、ドリュアスが代わりに怒っているので、冷めた様だ。



 「戦争をするというのなら、魔族は女神様の側に着きますよ!」


 「じゃ、じゃあ、あたいも女神様にはお世話になったから、女神様につくよー。」


 「ちょ、ちょっとあなた達……」


 「はあ? あなた達も森の住民のはずでしょう? 何でそっちに付くのよ!」



 「あーもう! いいかげんにしなさーい! 冷静に話が出来ないでしょう!!」



 ケイティーに一喝された。

 なんか、変な方向に行きそうになったのをドリュアスの少女も気が付いたみたいで、冷静に成っていた。

 このドリュアスの少女の名前は、バラノスと言い、守護木はドングリの木らしい。



 「つまり、この辺りにいっぱい生えていたやつね。」


 「ははー。どうか平にー。」



 ケイティーの執り成しで、ドングリの木をこの辺りに植樹するという約束でなんとか収めてくれる事になった。

 やべーわ黒玉。全方面に不幸しか呼ばない。自分自身にも。


 バラノスさんは、皆にドングリの木の葉を一枚ずつ渡し、植樹が終わったらこれで呼びなさい。ちゃんと出来ているかチェックしますからね、と念を押して帰られた。



 「ふう、やばいやばい。素直に穴掘って埋めた方が被害少なかったよー。」


 「だから言ったじゃない! もうっ!」


 「神様ー、気を落とさないでー。」


 「ソピアさま、さんは、未だ人間界に御降臨されて間が無いのです。仕方無いのです。」



 ううう、泣きそう。

 皆に励まされて、村まで戻って来ると、皆に森の中で何が有ったのか質問攻めに成った。



 「すごい地震があっただろう! あんた達、なんとも無かったのか?」


 「あ、うん、なんとか。森の怒りって恐ろしいよね。」


 「「「「「???」」」」」



 地震=大地の怒り=森の怒り、と何と無く解釈してくれた様だ。セフセフ。

 ケイティーが、討伐証明部位の左耳を見せて、クエスト完了のサインを貰った。



 「ひぃ、ふぅ、みぃ、……58頭に、仔が12頭も居たのか。案の定繁殖してやがった。危なかったよ。ありがとう。」



 村にお別れを告げて、王都へ飛んで帰り、ハンターズでクエスト完了の報酬を受け取る。

 それを4等分して、皆でスイーツを食べる事にした。



 「はいはーい! パンケーキ食べたーい。」


 「いいね、そうしよう。」



 ハンターズの建物があるのが西区、パンケーキ屋は、東区の商区外れにある。そう、以前にアラクネー狩りの時に寄ったお店だ。

 あの時は、ゆっくり食べられなかったもんね。

 王城外周街路をぐるりと工区側から回るとすぐだ。



 「はあ~。疲れた後は、甘い物に限るよねー。」


 「そうね、色んな意味で疲れたわ。」


 「神様も疲れるんだねー。」


 「疲れたソピアさあも神々しいです。」



 だから、やめろて言うのに。

 クーマイルマは、『さま』を禁じられたので、『さん』とどっちにも聞こえる様にわざと曖昧に『さあ』って言ってるな。恐ろしい子。



 「あたい、あんな地面を斜めにしちまう魔法なんて初めて見たよー。あんなの、神様以外に出来やしないよー。」


 「うーん、植林するの、皆も手伝ってくれるー?」


 「いいよー。」


 「仕方ないわね。」


 「はいっ!」


 「あ、クーマイルマは、明日学校だから、手伝ってくれなくても大丈夫だよ。」



 あああ、泣きそうな顔するなするな。

 じゃあ、明日学校が終わったら手伝いに来てもらってもいいかな。



 「はいっ!」


 「じゃあね、明日学校が終わった時間を見計らって迎えに行くから、正門前で待っててくれる?」


 「わかりました!」



 ちくしょう、可愛いなー。魔族なのに。

 魔族の顔って、人間とは作りがかなり違うから、人間の感覚からすると可愛いとは感じないんだろうけど、なんていうのか、雰囲気なのかな。態度なのかな。すっごく可愛く見えるんだよね。


 さーて、明日はどんぐりや雑木の木の苗をどこかから調達しないとなー。

 この世界だと、造園業みたいなのは無いだろうから、自分らで山に入って捜さないといけないのかな。バラノスさんにもう一度頭を下げて木の苗を見つけてもらおうかな。



 「そうだ、ヴェラヴェラは木の苗ってすぐに見つけられたり、する?」


 「ああ、分かるぞー。大きな木の下に、小さな木が出てたりするだろう? ああいうのの事だろー?」


 「そうそう、それそれ。」


 「後はー、どんぐりなんかを土に埋めておけば、勝手に芽が出て育つぞー。あそこは、森の土が無くなってしまって、木にとって栄養の無い土になっているから、他の所から落ち葉を沢山集めて来て、入れてやると良いよー。葉っぱは私が腐らせてあげるよー。」


 「おお! 腐らせる能力がこんな時に役に立つとは!」



 というわけで、明日の計画が立った。

 まずはあの半球状に抉られてしまった地面を多少なりとも埋め戻さないとね。




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