第92話 コボルド討伐

 矢は、鏃が抜けて体内に残るタイプの物。羽は、風切り音を抑える梟の羽根の物。それから、鏃に塗る為の毒液も購入。

 試射場では、クーマイルマは百発百中で、的のど真ん中に当ててる。



 「へー、すごい腕前だね。」


 「はい、ここでは的までの距離が近いですから、これ位なら外しません。」



 近いと言っても、30ヤルトはあるんだけどな。森の中で実践で鍛えてきた腕前は凄いものがあるね。



 「じゃあ、これを購入しましょう。矢は一度に何本持ち歩くの?」


 「はい、20本位持ち歩きます。」


 「了解。じゃあ、20本入る矢筒も買わないとね。おじさん、店にはこれと同じ矢はどのくらいの在庫があるの?」


 「そうだな、500本という所かな。」


 「じゃあ、それを全部と、さっき言った、20本入る矢筒と、弦の予備を5つと、後何か必要な物ある?」


 「あ、前使っていた装備もあるし、矢はある程度リサイクル出来るので、鏃の予備が少し有ったら有り難いです。」


 「了解。おじさん、鏃も追加で10個。」


 「おいおい、景気の良い話だが、お嬢ちゃん達払えるのかい? すごい金額に成ってるぞ?」


 「大丈夫だよ、精算して。」



 私は、大金貨40枚を支払って店を出た。どひー、400万円。良いかっこしすぎた。冷や汗ダラダラ。

 お店のおっちゃんが良い人で、端数を割引してくれたんだけど、矢って高いんだね。


 実は、洋弓の矢みたいな物は、1本当たり数百円位からあるんだけど、和弓の矢は、良い物で1本で4千円以上もしたりする。私が調子に乗っちゃって梟の羽でとか言っちゃったから、値段が跳ね上がっちゃった。あはー。


 クーマイルマが、その高価な弓と矢を抱えて、ブルブル震えている。家宝にしますとか言っちゃってるよ。いや、これからそれを使うんだからね。

 500本もの矢は私の倉庫に入れて、クーマイルマが装備する矢筒には20本入れて背中に装備、それと毒瓶を腰にぶら下げた。弦とか鏃なんかの消耗品は倉庫の中に入れて、必要になったら取り出す事にする。

 ヴェラヴェラは、鞘に入れた棍棒を背中に斜めに背負っている。



 「じゃあ皆、これからコボルドの討伐にレッツゴー!」


 「「「おー!!!」」」



 私達は、東門から王都を出て、東の村の方にある森へ向かった。

 ケイティーは自分の飛行椅子で、私は他の二人を持ち上げて飛ぶ。

 その前に、依頼を出した村へ寄って情報収集しようか。依頼書に書いて無い詳しい情報も知りたいし。

 村の入口前へ着陸して、門前の物見に居る人へ手を振って来訪を伝える。



 「王都から来たハンターです! コボルド討伐の依頼の件に付いて聞きたいのですが!」


 「おー、待っていたぞ。中へ入ってくれ。」



 男が物見から降りて来て、村長の家へ案内してくれた。

 村長は、意外と若い男だった。40代位なんじゃないかな。

 この村は、結構新しい開拓地で、住民も若者が多い様だ。

 最初は若い女の子だけの4人パーティーだという事で、胡散臭げに見られたのだけど、それぞれハンター証を見せて、二人がランク2、ケイティーと私がランク4と5だという事を示したら、ようやく信用してくれた。

 村長の話によると、コボルドの集団が最近この村の近辺に出没して、畑を荒らされたり村の人間が襲われたりを繰り返しているらしい。



 「今はまだ我々とコボルド達の力関係が均衡しているので、村の中にまで侵入を許してはいないのだが、コボルドの数が日に日に増えていっている様なのだ。このままでは……」


 「ふむ、近くに巣が有って、繁殖している様だね。コボルドが出始めたのはつい最近ですか?」


 「半年位前からななあ。」


 「この村が開拓されたのは?」


 「2年程前だな。」



 うーん、これは、コボルドの生活圏内に人間が村を作っちゃったパターンかな。魔物と人間も、人間同士でも、生活圏が被る事から争いが始まるよねー。

 だけど、コボルドは魔物指定されていて、そこに人間が居る事を認識されてしまったら、以降ずっと付け狙われる。この争いはどちらかが全滅するまで終わらない。可愛そうだけど、駆除しなければならない。

 今では40~50匹の大集団になっていて、既に村人の人数を越えてしまっているそうだ。


 村長にコボルドがやって来る森の方向を教えてもらい、そちらへ行ってみる。



 「なんとか、話し合って移動願えないかなー。」


 「え? ソピアさ、さん、知らないのですか? コボルドとは話が出来ませんよ? そういう、知性がある様な生き物じゃないです。」


 「え? そうなの? 私の育った村の辺りではコボルドは出なかったからなー。」


 「学校で習った感じだと、ゴブリンと大差無いみたいだよ。ゴブリンよりも好戦的だとか。群れを作って集団で襲い掛かって来る分、質が悪いそうだよ。」


 「そこが犬っぽい感じなのか。ヴェラヴェラは何か知ってる?」


 「あたいもそういう認識かなー。見つかったら襲いかかって来る感じー。」


 「ふーん……」



 魔力センスに探知あり、どっかの森でコボルドが悪さをしているな! この森なんだけどね。

 えーと、丁度前方80に、斥候らしき1匹が居るっぽい。

 そちらへ向けてそろそろと歩いて行くと、50という所でクーマイルマが手で皆を制して背を低くさせた。そして、矢に毒を塗り、矢を番えて、そろりそろりと藪に身を隠しながら一人で中腰で進んで行く。私達も音を立てない様に、その後を少し間を空けて付いて行く。

 クーマイルマが、藪の切れ間から矢を放つと、その矢は音も立てずに飛行し、一直線にコボルドの首筋へ吸い込まれた。

 コボルドは、声一つ上げる事も出来ずに、その場に糸の切れたマリオネットの様に崩れ落ちた。


 クーマイルマは、直ぐ様ナイフを引き抜くと、コボルドに駆け寄り、頸動脈を切って止めを刺す。

 矢を引き抜き、中に残った鏃も穿り出す。



 「せっかくの下賜品ですから。大事ですから。」



 だから、やめろて。どんなに説明しても無駄なのか? ねえ、小一時間問い詰めたいよ。



 「矢は500本はあるんだからね、本格的に戦闘になったら、どんどん使い捨ててね。」


 「はい、ご命令とあらば、血の涙を流しながらそうします。」



 命令じゃないから。あなたの身の安全を最優先にしてって意味だから。

 とはいえ、この矢、1本、日本円で4千円もするんだよなー……

 でも、大事にしてねなんて言おうものなら、戦闘中でも回収に行きかねない。困ったものだ。



 「この矢凄いですよ。全く風切り音がしません。」



 そうなんだね、良い買い物が出来て嬉しいよ。

 ところで、私、コボルドって始めて見たんだけど、想像してたのとかなり違った。

 なんか、子供くらいのサイズで、もっと犬よりのゴブリンなのかと思っていたのだけど、ぜんぜん違う。かなり犬だった。しかもでかい。

 セレブが飼っているイメージの、ボルゾイとか、アフガンハウンドとかいう、デカくて毛が長くて細長い犬いるでしょう。あれだ。

 あれが立ち上がって、手足が猿みたいな感じ。エジプトの神で、アヌビスって居るでしょ? あれの、首と手足がもっと長い感じって言えば分かるかな。だから、身長も大人よりも結構高い感じなんだよね。2ヤルト(2メートル)は有るんじゃないかな。

 この姿で知性が無いなんて、ちょっと信じられないかも。

 知性が無いと判断されているのは、道具を使わないから。使っているという報告も無い。多分、使えないんだと思う。攻撃は、噛みつき攻撃だし、言語らしき音声を発しているのも確認されていない。手足が人っぽくても、猿程度の知能なんだろう。



 「こんなのが40頭も集団で襲ってくるのは、流石に怖いな。」


 「巣に近付いて来ていますから、気を引き締めて行きましょう。」



 全員で頷いて、更に進む事にした。

 ケイティーは、討伐証明の左耳を切り取っていた。しっかりしてるよこの子。



 「ヴェラヴェラ、戦闘になったらコボルドには化けないでね。間違って攻撃しちゃうから。」


 「えっ? あ、うん、わかったよー。」



 しようとしてたな、こいつ。危ない危ない。先に言っといて良かったよ。

 魔力サーチを300位に広げて調べていたら、気配が固まっている場所がある。多分そこが巣なんだ。

 だけど、気配の動きがおかしい。なんか、索敵範囲に出たり入ったりチラチラする。サーチ範囲を500まで拡大したら、300位の範囲に固まっていた集団が、蜘蛛の子を散らすように動き始めた。

 あれ? 私の魔力サーチを探知されてる?

 そういえば、ヴェラヴェラも私のサーチを探知したみたいな動きをしたっけ。



 「そういえば、ヴェラヴェラ、ちょっと聞きたいのだけど、私の魔力サーチって分かるものなの?」


 「ん? わかるぞー。なんか、圧力みたいなものを感じるから。そっちから何かが来てるなってー。」


 「ケイティーやクーマイルマも分かるの?」


 「私は全然分からないなー。」


 「あたいは、めが、ソピア、さんの御威光を感じられて嬉しいです。」



 うへ、バレバレだったのか。これは恥ずかしい。ということは、コボルド達には私達が近づいて来ているのが丸分かりなわけね。

 じゃあ、しょうがない。コソコソ行かずに堂々と進むか。どうやら向こうは、私達を取り囲む様に移動している様だ。

 私とケイティーは、倉庫から剣を取り出し、ヴェラヴェラは棍棒を背中から引き抜き、クーマイルマは近くの木の上へ登って行った。上から矢を打ち下ろす作戦みたいだね。上の方から、ガサガサと、邪魔な枝葉を切り払って居るのが聞こえる。


 さて、戦闘開始だ。



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