第81話 ランク昇格試験その2

 宴は夜通し行われた。

 まさかの貫徹でした。

 まだお子ちゃまの私には、超きついです。まだ、9時前には眠るお年頃なんだぞ?


 ふらふらで夜明けを迎え、さてお暇しましょうという段に成って、クーマイルマがお別れしたくないと駄々をこねはじめた。

 昨日、私は女神様じゃないから、一生を捧げられても困りますときちんと説明したでしょう?

 人間と魔族が大っぴらに交流すると、それを見た第三者がどういう行動を起こすか分からないから危険だし、もし会いたいならドリュアデスを間に挟んだ方が良いよ。

 幸い、案内の少年魔族がエウリケートさんと繋がりがあるから、彼に頼めば良い。


 そう説得して、案内の少年には、工事現場まで送ろうかと言ったら、暫らく村で休暇してから自分で戻るというので、4人だけで帰る事にした。

 村の皆には歓待のお礼を言って、私達は飛行に入る。

 私達が空中に浮かんだのを見て、村の魔族達は驚きの声を上げていた。

 あああ、祈ってる人が居るよー。もう、本当に困ったな。



 「それじゃーね、またねー。ばいばーい!」



 私達は、王都へ向けて飛んだ。

 後に魔族の村では、女神様は死した少女を生き返らせ、奇跡を起こし、そして天へお戻りに成られたと語り伝えられたのであった。

 黒の原生林シュワルツ・ウルヴァルトからの帰途、ウルスラさんに飛行術や思念通話テレパシーの原理とやりかたのコツなんかを説明する。

 とはいえ、音速飛行だと、王都まで半刻もかからないので、さわりだけなんだけどね。

 代わりに、あの障壁シールドの張り方を教えてもらう事になった。


 また一直線に王城まで飛んで行くと怒られるので、一旦外郭門前で降りて、入都手続きをして、門をくぐって、また飛んで王城の中庭へ着地する。

 巨大マンドレイクは、黒の原生林シュワルツ・ウルヴァルトと同じ環境の温室が完成するまでは、ヴィヴィさんの倉庫へ入れておく事になった。



 「じゃあ、ウルスラさんはマンドレイクを一本現物支給って事でいいのね。」


 「あ、いえ、そうだわ。あの大きなマンドレイクを温室へ移植するなら、私を世話係にしてもらえないかしら? それなら、要らないわ。」


 「まあ、それは名案!丁度世話をどうしようかと考えていた所だし、ウルスラなら生えていた所の環境を見ているので、適任だわ。じゃあ、わたくしとウルスラで大きいのを取るから、残りの3本はあなた達で納品して、報酬も二人でお分けなさい。」



 おばさん二人は、キャッキャ言いながら、植物園の方へ駆けて行ってしまった。

 私とケイティーは顔を見合わせて、外人みたいなヤレヤレポーズをした。

 ハンターズへ行って、クエストの完了手続きと、採集品のマンドレイクの納品で、重量合計12リブラルちょっと地球の単位で言う処の約5.5キロ相当で、大金貨24枚(端数切り捨て)の収入に成った。

 買い取りカウンターのおじさんに、こんなに大きなマンドレイクは見た事が無いと言われた。ヴィヴィさんの倉庫に入っているのを見せたら腰抜かすんじゃ無いかな。


 さて、これからどうしようか。

 本当なら、このクエストはケイティーの特訓のはずだったのだけど、あまり特訓にはならなかったかな。



 「でもさ、ケイティーって、今のままでも結構強いよね?」


 「んー……、でも、この剣のおかげって感じがするのよね。」


 「ああ、試験の時は重量バランスも長さも違う、刃引きの模擬刀だから勝手が違うのか。だからって試験用の剣術を習得しないと階級を上げられないって、本末転倒な気がするね。」


 「ほう、言うね。じゃあ、俺が直々に鑑定してやろうか?」



 私達の後ろから話しかけて来たのは、ギルド長だった。

 なんでも、そういう不平不満は時々上がってきているんだって。

 ハンターは魔物を相手にするのに、対人戦での剣術の腕を見てどう評価するんだとか、魔導師と比べて剣士の試験は雑なんじゃないかとか、ギルド長のハゲ、ばーかばーか! とかね。



 「こら! 最後のは何だ!」


 「ご免なさい、付け足しました。」



 ギルド長の話を聞いてみると、昇格試験は従来の方式以外に、クエスト形式の物も出そうかという話も出ているそうだ。

 どういうものかと言うと、試験官が同ランク昇格希望者を何人か連れて、特定の魔物を何頭か、一人で狩らせて腕を見極めるというもの。

 おお、ギルド長にしては結構良い線行ってるんじゃない?



 「してはって何だよ、してはってのは。」


 「まだ朝方だし、今から行っちゃう?」


 「よし良いぞ、今日は試験的に俺が試験官を務めるからな。あともう一人記録係を連れて行く。今日試験を受けるのは、合計3人だ。」


 「3人? ああ、いつものモブAとBかな?」


 「モブじゃねーよ!」



 声を荒げたのは、いつものモブAとBだった。この二人の名前は未だ聞いていない。

 ていうか、私って、人の名前を覚えられない人なんで、基本、名前を聞かないんだよね。ギルド長も受付のお姉さんの名前も知らないし。



 「ロジャーと、こいつはヘンリーだ。」


 「あ、いいです。どうせ覚えられないので。」


 「簡単な名前だろうが、ちくしょー! で、お前らの名前は何て言うんだ?」


 「ケイティーよ、よろしく。こちらはソピア。」


 「俺はなあ……」


 「「「あ、ギルド長はギルド長で通じるのでいいです。」」」


 「お前らなあ。」



 ギルド長はがっくりと肩を落とした。冗談なのに。

 聞いたら、アレクサンドロだって、似合わねー。略してアレクかアレックスってとこか。いや、やっぱギルド長でいいや。



 「ねえねえ、私も見学で付いて行っていい?」


 「おまえ、回復術は使えるのか? 使えない? じゃあ要らねー。」


 「でも、行き帰りの運搬と魔物のサーチは出来るよ?」


 「それは便利だが……、決して手は出すなよ?」


 「分かってるって。」



 私は、親指を立てて、いいねのポーズをした。

 運ぶのは、試験を受ける3人と、ギルド長と記録係のお姉さんの5人か。この面子なら、多少荒っぽい飛び方しても大丈夫そうだよね。



 「いや、丁寧にお願い。」



 ケイティーから苦情が入った。

 ところで、試験で狩る魔物って何だろう?



 「おう、オークだぞ。一人で3頭を狩ってもらう。」


 「「オーク?」」



 私とケイティーは、顔を見合わせた。

 オークなんて雑魚じゃん。今までのクエストでだって狩ってたし。



 「お前ら馬鹿か? 全然雑魚じゃないぞ。それに、今まで一人で狩った事あるのか?」



 そう言えば、無い。

 でも、オークって雑魚じゃないのか? でも、よく考えたら、ハンターじゃない一般人はゴブリンでさえ手を焼いて居たみたいだしなー。オークって、そこそこ怖い魔物なんだろうか。一般人に取っては。



 「そこそこどころじゃねーよ。オークの集団に村が壊滅させられたって話も有るんだぞ?」



 どうも、オークは、ハンターランク2以上が相手をする魔物らしい。

 私は最初からランク2だったから、クエストを受けられていたんだ。

 でも、その頃からケイティーもオークを相手にしていたんだから、やっぱり楽勝には違い無いだろうね。



 「何処でオークを狩るの?」


 「そうだな、あいつらは何処にでも居やがるが、どうせ飛んで行けるなら、渓谷手前の森当たりが良いかな。」



 ああ、私が谷底に落ちた渓谷の手前の森か。あの時もオークを狩っていたんだっけ。私が谷に落ちたせいでクエストの期限切れに成っちゃったけど。あそこなら地の利があるぞ。

 私達は一番近い西門から出て、飛行体制に入る。



 「おお、これが噂の飛行術か!」


 「すげーな。この浮遊感。」


 「俺はちょっと怖いぞ。落ちねーよな?」



 ケイティーと記録のお姉さんは手を繋いで楽しそうにしてる。

 毎刻500リグル(毎時400キロ)程度の速度でも、10分程度の距離だ。徒歩だと2日の距離だよ。



 「徒歩で2日の距離が一瞬じゃねーか。ずるいぞお前ら。」


 「今度できるサントラムの上級学校を卒業出来れば、卒業記念アイテムとして飛行椅子貰えるよ。」


 「今更学校かー……うーん……」


 「ただし、魔力が全く無い人は入学出来ないけど。」


 「じゃあ、駄目じゃん俺ら!」



 魔力の無い人にとっては何かと世知辛い世界だね、ここは。

 さて、と。魔力サーチ展開。



 「300ヤルト範囲内に魔物らしいのが3つ固まって移動しています。」


 「おう、それだ。オークは何故か3頭で徘徊している事が多いからな。どっちだ?」


 「右手方向に距離150ってとこかな。」


 「よーし、誰から行く?」


 「じゃあ、俺から行かせてもらおうか。何時もの試験の時の順番で良いよな?」



 ロジャーと名乗った男が最初に行く様です。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る