第80話 魔族の村

 「これって、どの位の音量で啼くんだろう?」


 「想像もつかないわ。」


 「とりあえず、200……いや、300位離れてみようか。」


 「女神様は、そんなに遠くまで魔力がお届きになるのですか?」


 「んー、女神じゃないけどね、お届きになりますですよ。」



 私達は、ぞろぞろと一塊に成って歩き、およそ300ヤルト離れて振り返ってみたら、……見えない!

 だよねー、森の中で300も離れたら見えなくなるよねー。



 「ちょっと周りの木を切っても大丈夫?」


 「またドリュアスに怒られない?」


 「じゃあ、木を切ったらマンドレイクを素早く引っこ抜いて、その後木をリペアで修復しよう。ヴィヴィさん、出来るでしょう?」


 「そうねー、ウルスラもリペアは使えるわね?」



 私の計画は、巨大マンドレイクの周囲の木を2~3本切って、上空から見えるようにする。

 魔族の人たちには、500以上離れて避難してもらう。

 ヴィヴィさんに私を含め、3人を森の上まで持ち上げて貰い、ウルスラさんに障壁を展開してもらう。



 「障壁ですか?」


 「そうそう、あの魔法騎士団の団長の人が使ってたやつ。出来るんでしょう?」


 「はい、出来ますが、音は防げませんよ?」


 「うん、多分だけど、私の想像だと、あの麻痺絶叫パラライズシャウトは、ただの音じゃなくて、麻痺を起こす魔力が乗っているんじゃないかと思うのね。ウルスラさんの障壁は、魔力は防げるんじゃないかと思ったの。」


 「ああ、成る程ー。そういう事なら、承知しました。」



 私達は、計画通りに巨大マンドレイクの周囲の木を2本伐採し、上空から見えるように上を開けた。

 魔族の方々が、避難したのを確認し、ヴィヴィさんが私達を持ち上げて上空に飛び上がる。

 約300程上空に上がった所で、ウルスラさんが障壁を展開。私達4人を包む。

 私は、王宮の温室へ移植する事を考えて、巨大マンドレイクの周辺の土ごと、凡そ直径3ヤルト、長さ20ヤルト位の見当で地面を引き抜いた。



 ドドーーーーーーーーーン!!!

 ギュアアアアアアガガガガがガガガァァァァァァァァ!!!

 キイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーン!!!

 バリバリバリバリバリ!!!



 その時、爆音とも言える程の大絶叫が森の中に響き渡った。

 体のすぐ近くに雷が落ちたかと思う様なソニックブームと音量が私達に襲いかかった。

 残響音の後に、襲い来る魔力の波動に、障壁の表面がバリバリと音を立て、火花が散る。



 「ぷはー。すっごい音!」


 「魔族の人達、大丈夫だったかなー……」


 「こんなに深く地面を抉る必要あった?」


 「移植目的だから、出来るだけ傷めないようにしたかったの。細いひげ根が結構深くまで伸びてるから。」


 「じゃあ、これを丸ごとヴィヴィさんの倉庫へ仕舞って、木を修復して、穴を埋めておこう。」



 私達は、深さ20ヤルトの竪穴に誰かが落ちたら危ないので、周囲の土を集めて穴を埋めた。

 切り倒した木は2本なので、私が支えて切断面を合わせて、ヴィヴィさんとウルスラさんでリペアを掛けて繋ぐ。

 2本目を修復している時に、魔族の人達が丁度戻って来た。



 「あ、皆、大丈夫だったー?」


 「はい、少し痺れが残っていますが、全員無事です。森の魔物や動物が広範囲にやられたみたいですが……」


 「あっ、ご免なさい。そこまで考えが至らなかったわ。森の生態系は大丈夫かな。」


 「ご心配には及びません。女神様。実際に命を落としたのは、300ヤルト程度の範囲に偶々居た鳥や魔物位でしょう。殆どの動物は、一時的に麻痺しただけで、時間が経てばそのうち回復して何処かへ行くと思います。」



 命を落とした魔物は、村の者を集めて回収して、食料とするそうだ。せっかくの食材はは無駄にはしないよね。



 「今日は大猟です。村で祭りをしますので、女神様御一行を是非ご招待したいのですが。」


 「どうする?」


 「せっかくだから、ご招待されましょう。人間には知られていない、魔族の文化や風習には興味があるわ。」


 「私も、相互理解のチャンスと心得ます。」


 「じゃあ、招待を受けるで一致ね。お互いに仲良くなるチャンスよ。」


 「では、魔族の皆さん、よろしくお願いします。」



 村へ向かう道中で絶命している動物や、さっき狩った双頭の蛇アンフィスバエナを私とヴィヴィさんとケイティーが手分けして魔導倉庫へ放り込みながら歩いて行く。

 1つ刻(2時間)も森の中を歩いて行くと、小川のほとりに小さな村が見えて来た。

 魔族のリーダーらしき男が、伝令を先に走らせ、女神様と人間の御一行をお連れしたと知らせに行かせた。


 村の建物は、所謂高床式住居で、湿気の多いジャングル内での風通しを考慮した感じだ。

 地球で言うと、東南アジアの建物に近いかな。

 村の入り口に大勢が出てきて出迎えている。初めて見る人間に、興味津々といった感じなんだろうね。

 先頭に居る老人は村長とか長老とか、そんな感じの人なのかな?



 「お前達、何故人間なんぞを連れて来た!」



 おやおや? 歓迎されている訳では無さそうだよ?



 「こちらは人間の女神様とその従者達であらせられます。」



 ケイティー、ヴィヴィさん、ウルスラさんは、従者に成ってしまいました。



 「はんっ、こんな小便臭いガキと今にもくたばりそうなババアがか?」



 はい、全員の逆鱗に触れました。この村は滅ぼしちゃっていいよね?

 そっちから招待しておいて、この仕打は、死んで償う他は無いであろう。



 「女神様! どうかお鎮まり下さい! 長老! この糞馬鹿野郎! 謝りやがれ! 今ここで縊り殺して捧げ物にするぞ!」



 おっと、また考え事が口から出ていましたか。

 でも、こんな老人をお供えされても嬉しくもなんともない。



 「女神様は、一度死したこのクーマイルマを、未だ天に召されるには早すぎるとお嘆きに成り、その魂を再び呼び戻されたのです。」


 「そんな馬鹿な……」


 「本当の事です! 女神様がご自身の息をクーマイルマの口から吹き込まれると、不思議な光と共に魂がその躯に戻り、驚くべき事に、息を吹き返したのです。私達は、しかとこの目で奇跡の瞬間を見ましたぞ。」



 あー、うん、この世界では心臓の停止イコール死なんだね。地球でも近代までそういう認識だったよ。でも、現代地球では心停止してすぐは未だ脳は死んでいない。心臓を電気ショックで再び動かせば、蘇生する可能性は高いんだ。

 そっかー、奇跡に見えちゃうかー……。だから、電撃の魔導を知っているはずの案内の少年も跪いていたわけか。でも、不思議な光のくだりは盛ってるよね?

 これ、誤解解くの難しそう。



 「なんと! そんな事が! ははー、わしはなんという御無礼を働いてしまったのか。かくなる上はこの生命を持って……」


 「やーめーろー!」



 何だよ爺! 素直すぎるだろ。もっと疑えよ! 否定しろよ! 私は女神なんかじゃないよ!



 「まあまあ、ソピアちゃん、そういう事にしておいたあげましょう。」


 「私は人を騙すのは嫌いなんだ!」


 「おお、女神様が疑った長老にお怒りだ!」


 「……もう、誰かボスケテ……」


 「ソピアちゃん、他人の信仰を無碍に否定してしまってはいけないのよー。おほほ。」



 もう、否定するのは諦めたよ。

 魔導倉庫から双頭の蛇アンフィスバエナと道中拾ってきた獲物を取り出して積んだ。



 「女神様からの下賜品である!」


 「「「「「「「「「「おおおおおお!」」」」」」」」」」



 もう、誰か私を殺して。






 私は、一段高い所に儲けられた、多分豪華な椅子に座らせられ、目の前に果物やら肉やらのお供え物を置かれ、崇められた。

 目の前の大きな焚き火を囲んで、太鼓や笛の音に合わせて男女が踊りまくっている。

 うん、漫画でこういうの見た事あるよ……ステレオタイプの原住民だよ。

 ケイティー達は、私の両脇の一段低い所で料理を楽しんでいる。



 『!--どうすりゃいいの、これ?--!』


 『--諦めて、飲み食いしていればいいのよ。--』


 『--そうよー、おほほほほほ。--』


 「あのー、何か、皆さんで内緒話していません?」


 「ウルスラさん、鋭いね。帰ったらこれも練習しないとね。」



 料理に手を付けて踊りを眺めていたら、その輪の中から一人の少女が出てきて、私の目の前に傅いた。



 「女神様、命を助けていただいた、クーマイルマです。」


 「何か体に不調な所は無い? 少しでもおかしな所が有ったら言ってね。」


 「はい、あれ以来、胸のドキドキが止まりません。」



 うん、そうだよね、止まったら死んでいるもんね。

 そんで何でちょっと頬を染めてるんだよ。恋する乙女かよ。



 「あたいは、後の一生を女神様に捧げると決めました!」


 「はあ?!」



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