第79話 おおきなかぶ

 ぐはっ! 体験してみて初めて解った。ヤバイこれ。

 電撃受けたみたいにビリビリする。



 「み、皆無事?」


 「ふー、なんとか。」


 「今のはちょっと強力だったんじゃない?」


 「この体験は、ちょっと癖になりそうですー。」


 「「「えっ?」」」



 ウルスラおばちゃん、ちょっと変態入ってますか?

 私は、森の奥の方にも確認した。



 「おーい、魔族の人ー! 無事ですかー? 後3本行くからねー!」


 「…………」


 「返事が無いけど、無事だよね?」



 念の為、魔族の少年に確認に行ってもらった。


 慌てて戻って来た少年によると、狩人の少女が一人、巻き込まれたとの事。

 マンドレイク回収は後回しにして、直ちににそちらへ救護へ向かう。

 弓を持った狩人装備の魔族の少女が、恐ろしい表情で横たわっていた。

 一刻を争うので、『人間、近寄るな』と威嚇してくる魔族の大人達を、私は魔力で押し退けて急いで治療に当たった。


 私は、地球の知識を総動員して、救護にあたる。

 魔族も人間も、オロオロしている。この文明レベルだと、人体の構造や救護の知識なんて分からないんだろうな。

 私は、魔力で心臓を掴み、握ったり開いたりして血液を送る。

 そのやり方をヴィヴィさんに教え、交代してもらい、ウルスラさんには呼吸の方を指示する。

 首を後ろに反らし、気道を確保して、肺の中に空気の出し入れをする様に説明するのだが、上手くいかない。しかたないので、アナログだけど、鼻をつまんでマウストゥマウスで人工呼吸をする。

 周囲の大人達からどよめきが巻き起こった。

 呼吸をさせないと、命の危険がある事を説明するのだが、誰も怖気付いて出てこないので、ケイティーに同じ様にやってもらい、私はAEDのイメージを完成させる。


 2000ボルト、50アンペア、通電時間は0.002秒


 私は、魔導リアクターを展開する。



 「「「「「「「「「「おおおおお」」」」」」」」」」



 その場の全員に動揺が広がるが、無視だ無視!

 電極の位置は、右胸上と、左脇腹。



 「皆、手を離して、その子から1ヤルト離れて!」



 皆、理由は分からないけれど私の指示に従ってくれる。



 「いくよ! 3,2,1!」



 ドン!!



 彼女の体が僅かに跳ね上がった。

 直ぐに胸に耳を当ててみると、鼓動が戻っている事が確認出来た。

 げほっと女の子も自発呼吸を開始した様だ。

 私は、魔導リアクターを消し、その場にへたり込んだ。



 「「「「「「「「「「おおおおお、女神よ!」」」」」」」」」」


 「はあ?」



 周囲を見回すと、魔族連中とウルスラさんが跪いて祈っている。

 見ると、魔族の少年も祈っている。

 お前は、魔導リアクター知っているだろうが!!

 お前も使えるんだろうが!?


 面倒臭いなーもう、と思っていたら、女の子が目を覚ましたぞ。

 なんか、私とケイティーを見る目がおかしいんだけど、気のせいか。



 「これからマンドレイクを後3本抜きたいので、一緒に行動してもらっていいかな?」


 「「「「「「「「「「おおおお、承りまして御座います。御心のままに、女神よ。」」」」」」」」」」



 もういいよ、そういうのは!

 疲れたよ、あたしゃ。



 『--ソピア、また信者が増えちゃったね。--』


 『--ソピアちゃん、やるわね。--』



 ヴィヴィさん、なんで親指立ててウインクしてるんだよー。

 ウルスラさんはキラキラした目でこっち見てるし。

 さっき引っこ抜いたマンドレイクを拾いに歩くと、少し間を置いてぞろぞろと行列を出来てしまった。


 お、意外と大きいよ。

 マンドレイクを拾い上げてみると、大きめの練馬大根位の大きさがある。2キロ位有るんじゃないかな。これだけで大金貨8枚以上ありそうだよ。やったね!


 その後、周囲を探索して、同じ位のを一本と、少し小振りなのをもう一本ゲットした。

 でも、4本目が中々見つからないねー。


 テクテク

 ゾロゾロ


 テクテク

 ゾロゾロ


 なんじゃこりゃあああ。


 ちょっと、そこの二人、何声押し殺して笑ってるんだよ!

 気が付くと、ちょっと深い所まで来ちゃったみたい。魔族の人、止めろよ!

 ふと、前方を見ると、何か戦闘しているみたい。

 あ、何か魔族の男が蛇の魔物と戦ってるよ。

 加勢しようと走り出した所、魔族の二人に前を塞がれてしまった。



 「女神様はこちらでお見守り下さい。」


 「おい! お前らが手間取っているから、女神様に余計な心配をされただろうが!」



 道理で全然魔物に出くわさないと思ったら、魔族の何人かが先行して露払いしてたのか。

 それと、私は女神じゃないからな?


 蛇の魔物は双頭の蛇で、アンフィスバエナとかいう奴らしい。でかいなー。胴の太さが人間の大人位あるんじゃないかな。

 魔族の人達大丈夫なのか? ちょっと旗色悪くない? あ、ほら噛まれた。言わんこっちゃない。



 「ウルスラさん、あの人に解毒してあげて。ケイティー、行くよ!」


 「オッケー!」



 私達は魔導倉庫から剣を取り出すと、通せんぼする魔族の人の脇を掻い潜って蛇へ飛びかかった。

 毒を受けた人を魔力で掴んでウルスラさんの所へ投げる。



 「ケイティー、反対側の頭をお願い!」


 「わかったわ!」



 私達は二手に分かれて、それぞれ一人一つの頭を相手にする。

 ケイティーは、噛み付こうと口を開けて迫ってくる頭を、くるりと体を回転させて避け、顎の下の鱗の無い部分に下から剣を突き刺した。そして、そのまま首元まで引き裂く。



 「なんという切れ味の剣だ。」



 魔族の男達が感嘆する。

 粉末冶金パウダースチールの剣は、恐ろしいほどの切れ味と硬度、耐摩耗性、不錆性を誇る。夢の金属なのだ。しかも、芯にミスリルの糸を通してあり、魔力を通す事が出来る。

 ケイティーは、突き刺すと同時に剣の先から魔力の剣(仮)を伸ばし、蛇の目の間から後頭部にかけてを切り裂いた。

 素晴らしい早業で一つの頭の命を刈り取った。


 私の方はというと、ケイティーみたいにカッコいい所を見せようと、突進して来たもう一つの頭を魔力の祖力で受け止め、さあ切り裂いてやろうと剣を振りかぶる間も無く、近くに居た魔族の男十数人が一斉に蛇の頭に飛びかかり、剣やら槍やらを突き刺し、ハリネズミにしてしまった。私は、申し訳程度にチョンと頭の一部をつついただけだった。



 「お怪我は御座いませんでしたか、女神様。」



 魔族の連中は、私の前に片膝を着いて、恭しくそう言った。

 いや、もう勘弁してー。私も活躍したかったよ。

 蛇は地に倒れ伏し、もう動かなくなっていた。

 この獲物は、魔族が村へ持って帰って皆で分けて食料にするそうだ。女神の下賜物とか言っている。もう止めて。

 ウルスラさんの所へ投げた人は、きちんと解毒と治療が施されていた。

 ウルスラさんの国では、こういう治療術とか、防御とか、ディフェンス面の魔法が発達しているみたいで、うちの国とはそういう面で技術交換が行われるみたいなんだよね。


 それにしても、ケイティー強かったな。特に体術と動体視力が凄いよ。実際は、ランク4か5位行くんじゃないのかな。



 さて、後一本のマンドレイクを見つけたら帰ろう。

 周辺を手分けして探した。魔族の人達も手伝ってくれて探したのだが、中々見つからない。

 なかなか無いもんだねーと、一本の木の下の寄りかかって座ったら、皆が変な顔をしてこっちに注目している。

 ケイティーもヴィヴィさんもウルスラさんもこっちを見ている。



 「ん? どうしたの?」


 「ソピア、あなたが寄りかかっている、それ。」



 皆が指差すので、振り返ってみ見てみたら、それは木じゃなくて、ぶっといマンドレイクの茎だった。

 根だけで直径2ヤルトはありそう。重さだけで、地球での単位で1トン以上はあるんじゃないかな。



 「うわ、でっか! なにこれ!」



 こんなの、どうやって引き抜いたら良いのだろう?

 ていうか、麻痺絶叫パラライズシャウトの致死範囲はどの位に成るんだろう?

 ロシア民話の「おおきなかぶ」みたいに、「うんとこしょ、どっこいしょ。」って皆で連なって引っ張るのか?

 そんな事したら、全員死ぬよね。



 「これって、引き抜いちゃってもいいの?」


 「はい、女神様の仰せのままに。」



 だーかーらー、って、もういいや、面倒臭い。



 「森の主とか、守り神って訳では無いよね?」


 「はい、我々もこんなのが有るのを知りませんでしたから。」


 「よし、じゃあ、引き抜いて持って帰ろう。」


 「これだけ大きいのは、宮廷の温室で育てたいわー。」


 「あ、うん、そうしようか。なんか、枯らしちゃうのは勿体無いよね。」



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