第66話 核融合炉

 「ま、いいや、分からない事は、後で考えよう。」



 必殺、先送りの術ー!

 明日出来る事は、明日やろうの精神です。


 まず、タンクに蓄えられているトリチウム水を電解槽の中に入れる。

 これは、タンクから伸びるパイプにバルブが付いているので、捻って開ける。

 本来は、中央制御で自動で電動バルブを操作して注水も自動なんだろうね。

 水酸化ナトリウムのタンクのバルブも開け、適量を投入する。

 うーん、適当な濃度が分からないので、このへんは適当だ。


 注水が完了したら、電極に直接電流を流す。赤い方がプラスだね。ここは、地球と同じだと信じたい。

 空気圧縮から、青玉生成、そして、プラズマ流をトーラスに回転。そこからMHD発電で電流を取り出す。

 電圧計なんか無いから、ザッパだ。大体1万ボルト出ていれば良いだろう。失敗したらしたで、諦めよう。

 確か、京介の方の記憶で、高校の時の物理の先生が、大体1万ボルトの電圧で空気中を10センチ放電するとか言ってたぞ。

 10センチ位を放電する出力を目安に、電力を調節し、電極に流し込む。


 直ぐに両方の電極から細かい気泡が上り始める。

 マイナス極側から発生しているのが、水素ガスだ。トリチウムのと普通の水素の混合ガス。

 これが、電解槽の上にあるタンクに溜められていく。

 混合比は、水の段階で適切になっていると信じたい。



 「ちょっと、電力足りなくなる。お師匠、バトンタッチ!」


 「おう、任せろ。」



 お師匠と交代で電力を供給し続け、タンク内のトリチウム・水素混合ガス量は運転可能量に達した。

 ここから、リアクターへ続くバルブを開け、リアクター内をガスで満たす。

 リアクター制御室へ移動し、内部圧力を確認。

 さーて、色々目分量で適当だけど、何とか起動出来る様に神に祈る!

 ここからは、電力供給係と制御係で分担作業だ。

 上手く電力が発生すれば、跡はアクセルがなんとか上手くコントロールしてくれるだろう。



 「リアクター起動電力15万ボルト投入! マイクロウェーブ照射! 運転開始!」


 「こっちは準備OKですわ! 全力で発電開始!」



 お師匠がプラズマの加熱係、私とヴィヴィさんが、電力供給係だ。

 運転が開始されれば、その電力で諸々の機械を動かし、AIが勝手に運転を制御するだろう。自分で発電した電力で自分を動かし始めれば、システムが安定する。私達は、そこまでの少しの間だけ、手助けをする感じだ。

 核融合発電は、原子力発電とは違って、核廃棄物は生まれない。莫大な電力を生み出す、クリーンな夢の発電なのだ。京介の居た時代では、未だ実用段階には至らなかったが、ここには現物がある。早く動いている所をこの目で見たい。


 ヒュイーーンという、機械音と共に、制御パネルに明かりが灯り始め、魔導炉も輝き始める。

 リアクター下の魔導キャパシタも輝き始め、部屋の内部は目も眩む程の明るさに満たされた。

 制御室の窓は、自動的に調光され、光がカットされ、リアクター室内の様子が良く見える様に成った。



 「運転成功です!」


 「「「「やったー!!!」」」」



 私達は全員でハイタッチしてハグしあった。

 ふと、冷静になると、アクセルとは敵対していたのを思い出し、気まずい雰囲気が流れた。



 「さて、ここの施設のメインホールへ行きましょう。」


 「そうじゃな。」



 施設のエネルギーが復活したので、エレベーターも動き出している。

 制御室の後ろのドアを抜けると、そこはエレベーターホールに成っていて、エレベーターに入り、メインホール階のボタンを押すと、凄い勢いで上昇し始めた。


 高度1.8リグル(3000メートル)、それがこの施設のメインホール。

 直径100ヤルト(100メートル)はありそうな円形ドームの空間で、窓一つ無い。

 アクセルが、施設のスイッチを入れると、全天フルスクリーンで外の景色が映し出された。

 高所恐怖症の人だったら、気絶しそうな景色だけど、成層圏まで行ってきた私とヴィヴィさんは、もちろん、平気な顔をしていた。


 「これは、いい景色だねー。」


 「うーん、今日は快晴だからね。」


 「王都はどっちかな?」


 「アルマーの向こう側だから、多分見えないよ。」



 アクセルが、操作パネルをいじると、クリスタルの部屋で見たのと同じホログラムが部屋の中央へ現れた。



 「ここが、古代文明の所謂いわゆる図書館。ここが本当の閲覧室なんです。」



 クリスタル部屋は、コンピュータールームみたいな感じかな。本当は、ここで操作するものみたいだ。



 「ああ、僕はこれを夢見て十数年間を過ごしてきた。目的のためなら、汚い事だって、人を犠牲にしたって構わないとまで思ってた。でも、この施設が復活した今となっては、あんなに渇望した目的が、急に無くなってしまったみたいに虚しい……」



 うーん、なんか分かるかも。大学入るまでは必死に勉強してきたのに、いつしか大学合格が目標になってしまって、いざ受かってしまったら、あれ? この次は……って思う人って少なからず居るみたいね。



 「ここさえあれば、僕は何時でもやり直せる。そんな気がします。」



 アクセルは、膝を着いて私達の方へ腕を差し出した。



 「罪を償って出直したいと思います。」


 「……」


 「んー、あー、その事なんだけどね。実際に被害に遭ったのは、私とケイティーだけだし、私達が許せばそれで無かった事になるんじゃないかなーと、……ケイティー、どう?」


 「ソピアがそれでいいなら、私もいいよ。」


 「いいえ、駄目です!」



 ヴィヴィさん、空気読んでー。



 「国の再建というのは全く認められません。何故なら、ここは王国の領土内だからです。だけど、ここの施設を私達にも開放してくれるというのなら、特別にあなたをここの管理者として雇い入れましょう。この周辺に町を起こして、国家の発展に寄与するというのなら、特別に資金援助もしますが、その条件でいかが?」


 「えっ? ヴィヴィさんが勝手にそんな事決めちゃっていいの?」


 「大丈夫よ、新しい開拓地を作って、入植者を募るのは、推奨ですから。もちろん、ここで新しく生まれた技術や知識は、王国へフィードバックさせて頂きますが。」


 「ほ、本当に良いんですか?」


 「ええ、ここの設備は、あなたしか操作出来ないし。国の発展になりそうな案件をみすみす取り逃してなるものですか。後で国王他有力貴族や役人を引き連れて、視察に来ますわ。」


 「ありがとうございます!!」



 おお、ジャンピング土下座、初めて見た。



 「精々頑張って頂戴。」


 「もし、悪い事考えたりしたら、黒玉でズドンだから。」



 ブルブルブル。首が捩じ切れそうな勢いで首を左右に振ってる。


 なんか、全方位丸く収まって大団円って感じかな。

 あえて言えば、一番痛い思いをしたケイティーが割りを食った感じだけども。いや、一番酷い目に有ったのは、私なんだろうけどさ、私はただ、寝てただけだしなー。


 ケイティーがアクセルの肩をトントンと叩き、一枚の紙を見せる。



 「クエストの完了サインと、護衛料金の小金貨6枚掛ける3日分掛ける2人分、よろしく。」


 「ケイティー、しっかりしてるねー。」


 「私がしっかりしないと、皆すぐに知識欲に溺れて他をそっちのけにするんだから。それに、立て続けに簡単なクエストを失敗なんて事になったら、ハンターランクも降格になるわよ。」


 「あ、それはヤバイね。」



 新しく出来た……いや、出来る予定の都市というか、最初は開拓村だと思うんだけど、ここの地名は、科学都市エピスティーニ。

 未だ都市というか、開拓村どころかただの荒れ地でしか無いのだけどね。

 最初は地質調査団とかを入れて、、未だ眠っている他の遺跡が無いかどうかという調査から始まるみたい。

 周辺の地形を確認してみないと分からないのだけど、山脈に囲まれた閉鎖地、俗に言う陸の孤島なので、出口が見つかれば街道を整備するし、無ければ移動は飛行のみとなるかもしれない。


 エネルギー問題は解決したので、太陽石のチャージ問題も魔導師に頼らなくてもここの魔導炉で出来るし、太陽石の結晶スーナ・クリスターロを利用できるなら、大型の大量輸送飛行船も建造出来るかもしれない。何かと捗る拠点が出来たよね。まあ、そのへんの管理は、ヴィヴィさんがきっと上手くやる事でしょう。



 「ちょっと、ヴィヴィさんの仕事量、物凄い事になってない?」


 「大丈夫よー。軌道に乗った案件から順次部下に丸投げしてるからー。」



 だそうです。社長脳を持った学者さんって、貴重な人材だよね。この国はヴィヴィさんで回っていると言っても過言では無いのかもしれない。


 それはそうと、早くハンターズへ帰ってクエストの完了をしないと!

 というわけで、アクセルを引っ掴んでエレベーターに乗ろうとしたら、中階層にプラットホームが有るというので、そこで降りてみた。中腹の山肌に結構大きな洞窟みたいに開口部が開いているみたい。中は、だだっ広い駐機場みたいな? ああ、これは映画で見たこと有るよ。スター・ウォーズで、宇宙船が出入りする出入り口みたいな感じなんだ。周囲を良く見てみると、車輪の無いバスみたいな物が幾つかあるよ? あれ、火入れれば飛ぶんじゃね? とか思ったんだけどけど、あちこちに興味を引く物体があってキリが無いので、アクセルとケイティーを掴んで私がマッハ2で飛んで行った方が早いよね。王都までたったの5分だ。



 「あ、あのね、ソピア。私自分の椅子で飛んで行っちゃ駄目かな……」


 「あ、うん、そうだね、乗りたいよね。」



 別にそんなに急ぐ必要も無かったよ。

 ゆっくり時間を掛けて飛んで行こう。ゆっくりとね、四半刻以上も掛けてゆっくりとね。

 毎刻500リグル(時速400キロ)だけどね。速いよね、速いけどゆっくりだね。

 あ、ケイティーが泣きそうな顔してる。

 ごめんよー、500で行こうね。



 「では、魔導倉庫! 飛行椅子!」



 ケイティーは、倉庫から椅子を取り出し、嬉しそうに座る。

 肘掛けに手を置くと、足元にサントラムの校章が現れ、宙へ浮き、プラットホームの出入り口からゆっくりと出て行く。

 私は、アクセルと持ち上げて、ゆっくりと地面を蹴って飛び上がり、その後に着いて行く。

 山から十分離れた所で、加速開始。



 「ケイティー、最高速度でぶっ飛ばして行っちゃって!」


 「OK!」



ヒュイイイイイィィィィィィィン……ドーン!!



 「キャアアアアアアァァァァァァーーーーアハハハハハ」



 やべー。スピード狂かもしれない、この人。



 「この、飛び出す時の加速が、もう、カ・イ・カ・ン!」


 「あ、はい、そうっすか……」



 私達は、45分で王都へ到着した。

 クエスト報酬の大金貨3枚と小金貨2枚プラス、護衛費用の大金貨4枚と小金貨2枚で、合計大金貨8枚を受け取った。2人で4枚ずつ分けた。



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