第67話 飛行シャトル
「じゃあ、私はアクセルをエピスティーニに送って来るから、ケイティーは先に屋敷に帰ってて。」
「うん、わかった。じゃあ、後でね。」
そして、アクセルに向き直って
「音速出すからね、気絶しないようにね。」
「音速……ごくっ。」
「古代では、音速で飛ぶ乗り物なんて、珍しくもなかったでしょう?」
「いえいえ、とんでもない。一般の人が乗る乗り物で、音速が出る乗り物なんて無かったですよ。」
「んーー、ん? そういえば、私の記憶の方でもそうだった。音速以上の速度が出るのって、軍用機かロケット位のものか……」
「あなたの記憶って、もしかして……」
「じゃあ、アクセルは音速初体験という事で。舌噛まない様に口閉じててね。いっくよー!」
「…………」
「………」
「……」
5分後。
「げほっ、うー、内臓がひっくり返りそう。特に減速の時のGが……」
「ご搭乗ありがとうございました。アテンションプリーズ。お前はドジでノロマな亀だ!」
「おう、早かったな、もう用事は済んだのか?」
お師匠とヴィヴィさんは、プラットホームに放置されてるバスみたいな物を調べていた。
「これが動かせれば、視察団を運ぶのに丁度良いと思ったの。」
私は、それの操縦席だと思われる場所を見て、本当にバスの運転席みたいだなと思った。
座席の右側を見ると、案の定レバーがあるのでそれを引くと、後ろの方からカチャという音が聞こえた。
その音が聞こえた当たりを見に行くと、外板の一部が丸い蓋になっていた様で、少し開いていた。
それを開いてみると、取っ手が有るので、引っ張ってみるが動かない。
捻って引っ張ってみると、金属の取っ手の付いた、1Lペットボトルよりちょっと長い位の、ガラス管ヒューズのデカイやつみたいな形状の物が引っこ抜けた。その透明の瓶の中には液体が入っていて、
「これ、光って無いね。チャージすれば良いのかな?」
「地下の魔導炉の所へ持っていけば良いのかしら?」
「中の液体は、地下にあった物と同じ、魔導絶縁液みたいじゃのう。」
「アクセルー、わかるー?」
「あ、はい、ちょっと待って下さい。今調べますから。」
アクセルは、近くにあった操作盤の所へ駆け寄り、シャトルバスの燃料チャージ方法を調べ始めた。
「えーと、はい、地下の魔導炉下でチャージされている、
「んじゃ、地下へ行こうかのう。」
「これ、私がここでチャージしちゃってもいい?」
「えっ? ……あ、ああ。」
一瞬ビックリされたけど、なんか、納得された。
私が取っ手の上に手を翳して集中すると、クリスタルが徐々に光り始めた。
「何時見ても驚くなあ、魔導炉並の魔力を一人で生み出す人間が居るなんて。」
「魔力を極限まで抜く訓練をすると、魔力量の底上げが出来るのかもしれぬのう。」
「
なにか、ブツブツ言ってますよ。人体実験は止めてね。
「じゃあ、これを元通りセットして、と。」
元の場所に差し込み、左に捻ってロックし、蓋を閉める。
コクピットへ座り、目の前のスイッチを入れると、音も無く車体がふわりと浮き上がった。
「おお、いけそうじゃな。」
「では、私はこれに乗って一旦王都へ帰ります。ロルフ様はどうされます?」
「わしはもう少しここでアクセル君と一緒に色々調べてみたいと思っとる。」
「分かりましたわ、じゃあ、ソピアちゃん、一緒に帰りましょう。」
ヴィヴィさんが乗り込んだのを確認して、座席左にあるスイッチを操作すると、扉が閉まった。
何でスイッチが分かるのかって? 書いてあるからさ。
機体の操縦は、足のペダルと操縦桿にて行うのだけど、空気の浮力で飛行する飛行機とは挙動がかなり違ってた。
足のペダルで高度、操縦桿の前後で速度、左右で方向だった。フライトシミュレーターとかに慣れていると、結構混乱するかも。
というか、かなりアナログっぽくない? ケイティーの飛行椅子みたいに、手を添えて魔力を流すだけで意識でコントロール出来る様に改造しちゃった方が便利かも。
あ、でも、これは、魔力の無い人が操縦する前提の乗り物なのかー……。
ヤバイなこれ、構造解析して、民間用に販売したら馬鹿売れじゃないの?
という事は、飛行椅子の方が売れなくならない? まだ発売もされてない内に、既に時代遅れに成り下がるのか?
「そうよねえ……どうしましょ。」
やべ、また声に出して喋ってたみたい。
ヴィヴィさんに相槌打たれるまで気が付かなかったよ。
さーて、どの位のスピードが出るのかなっと。
操縦桿を思いっきり前へ倒してみる。
うーん、なんか、加速がもっさりしているな。
お年寄りとかも乗ってたのだろうし、一般人を乗せるシャトルだとこんなもんなのかなー。
最高速度は、時速200キロ位かな。この速度だと、王都までは1時間半ってとこだね。
「改造しちゃう?」
「色々遊んでみてからね。今度は私に操縦させて貰えないかしら?」
「いいよー、どうぞ。」
運転中に座席を離れたり、普通だったら乗客に激怒される所だけど、私達しか乗って居ないし、いざと成ったら自分で飛べばいいので危険意識全然無いよねー。
「操縦桿の前後が速度で、左右が方向。足のペダルは、つま先側に踏み込むと上がって、かかと側に踏むと降りるよ。」
「ほお、ふんふん、なるほどねー。」
ヴィヴィさん、楽しそう。
そうか、意識で操作出来るのと違って、何かをマニュアル操作して機体を操る感じは楽しいんだね。
そういえば、魔導鍵も、考えただけで倉庫が開くのと違って、鍵で開ける、操作感が有る方が楽しいよ。
このシャトルは、このままでいいかもしれないね。
王都にそのまま侵入して、王城の中庭に着陸したら、衛兵と騎士団と近衛兵の集団に取り囲まれた。
「あ、あーら、おほほほ、ごめんなさいねー。」
私達は、そのあと小一時間みっちりと怒られた。
出入国記録も、入入出出出入入みたいになってて、ちゃんと門から出入りする様にとこわーい入管のお役人さんに怒られた。
他人事みたいに隣で笑っていたヴィヴィさんも、あなたもです! って怒られてた。
王様と王妃様が来てくれて、なんとか開放された時には、すっかり外も暗くなってた。
「ソピアちゃーん、今日は王宮に泊まっていきなさいよー。」
「いえ、家の者が心配しますので。」
「いいじゃないのー? お屋敷は目と鼻の先なんだから。」
「いえ、だからこそ、けじめはしっかりしませんと。」
「いけずねー。ヴィヴィだけずるいわー。」
王妃様は、ヴィヴィさんから私の抱き枕具合を聞いて、虎視眈々と狙っているのが丸わかりなのだ。
さあ、早く帰らないとケイティーが心配するぞ。
私は、中庭から飛んで、屋敷に帰った。
下の方で『もーう、今度来た時はちゃんと泊まっていくのよー!』という声が聞こえて来たけど、聞こえなかった振りだ。
あ、お城の門から出なかったけど……、ま、いいか。
公園の反対側に在るお屋敷の玄関前に降り立つと、勢い良く扉を開けた。
「ただいまー!」
「おかえりなさーい!」
出迎えてくれたのは、ケイティー。
「夕御飯はもう食べちゃった?」
「ううん、一緒に食べようと思って待ってた。」
「遅くなって御免ねー。」
二人は、食堂で二人きりで食事を取った。
「ふーん、大賢者様はエピスティーニに泊まり込みで、ヴィヴィさんは王宮かー。」
「うん、二人共、あそこの文物に興味津々でさー。お師匠は暫らく帰ってこないと思うよ。ヴィヴィさんも飛行シャトルの操縦が楽しいみたいだったし。視察団の派遣とか、これから忙しいかも。」
「ふうん……」
「私達も、今後は何かとあそこに関わる事になっちゃいそう。」
「あっち方面に行くクエストとか今後出てくるのかな。」
「今回みたいに、皆バラバラに行動しちゃうと連絡取り難く成っちゃうよね。……スマホとかあればなー。」
「スマホ?」
「うん、此位の手のひらサイズのツールで、遠く離れた人とお話出来る機械なんだけど……」
「それなら……」
「それなら!」
「絶対エピスティーニで検索すれば出てくるはず!」
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