第57話 太陽石

 私は元気で、ここに居るよ。

 そう、いくら言ってみても、外には全然伝わらない。

 まるで、幽霊になったみたいな気分だ。


 んーーー、私の元気な姿を見せるには、この空間から出ないとならない。

 前の時は、どうやって出たんだっけ?

 思い出せ、思い出せ私!


 あ、そうだ、確か空間の特性が円錐コーン状態に収束しているので、向こうからはこぶしの様な面で叩けば良かったけど、こちら側からは点で突かなければ駄目なんだ。


 私は、右手の人差指に全力の魔力を集中させて、目の前の空間を力一杯付いた。



 ビシッ!!!



 「びしっ!?」



 ケイティーが振り返る。

 お師匠もヴィヴィさんも空間に走ったヒビを凝視している。



 「もう一丁!! てーい!!!」



 ガシャーーーーーーン!!!



 空間にポッカリと穴が開き、ずぶ濡れの私が、よいしょっと出て来た。



 「ふう、ただいま。」



 固まる一同。

 あれ? 反応が無いんだけど。

 皆、幽霊でも見るような目でこっちを眺めている。



 「……」


 「………」


 「…………」


 「!!!!!」



 遅れて湧き上がる、悲鳴にも似た歓声。


 私は、ヴィヴィさんとケイティーの同時突進を喰らい、2人に挟まれてもみくちゃにされてしまった。

 お師匠は……見ると、涙を流して笑ってた。


 固まっていた救助隊の人達も再起動して、私が戻った事を崖下に伝えていた。

 場の全体が安堵感で包まれた。


 ロープで降りた人が戻ってきた所で、崖上から離れ、森の中でお師匠が書架から全員分のお弁当を出してくれた。

 ヴィヴィさんも書架の空間にアクセス出来るので、手伝って、騎士団の人に配ってた。

 お屋敷の料理人総出で作らせたらしい、トリュフを使った豪華版のお弁当だ。

 たった1昼夜で、良く何百人分も用意出来たものだと感心した。


 今回の事で、多くの人に迷惑を掛けちゃったなー……。


 5つ刻(朝の10時)頃には、もう雨も止んで、青空に虹がかかっている。

 空気が洗われて、澄んで、透明度が高い。

 渓谷の素晴らしい景色が見える。



 「ところで、ソピーよ。お前、ここに立っていても何も感じなかったのか?」


 「ん? 別にー……特に何も?」


 「呆れた奴じゃな、わし等、立って居るのもしんどいと言うのに。」


 「お師匠、歳なんじゃない?」


 「こら!」


 「あははは。」


 「さあ、冗談はさておき、私達魔導師にはこの場所はキツイわ。早く帰りましょう。」



 さあ、帰ろうかという所で、騎士団の人達が、ちょっと名残惜しそうに崖下を覗いている。



 「どうしたの? さあ、帰る準備しなさい。」


 「あのう、ヴィヴィ様、我々はもう少しこの辺りで素材の採集をしてから帰っても宜しいでしょうか?」


 「ふう、ああ、太陽石ですか。通常の軍事行動では全く許可出来ない所ですが、今回に限っては、休日の所を無理を言って来て貰った訳ですし、今日はここで解散とし、以後は2日の休日を与えます。休日の自由行動の範囲でその余録は認めましょう。くれぐれも、王国軍人として、欲に目が眩む事無く、危険の無い範囲でお願いしますよ。」


 「その石って、これの事?」



 私は、倉庫からさっき拾った小さめの小石を1個取り出し、おじさんに手渡した。



 「「「「「「おおおおおお!」」」」」



 救助のおじさん達が色めき立った。



 「こ、この様な大きな太陽席が、この下に沢山あるのですか?」


 「え? これは、小さめの小石だよ。私の居た突州にはもっと大きなのがゴロゴロしてたけど……」


 「「「「「おおおおおお!!」」」」」


 「よし! 1番、2番、3番、4番隊、降下準備急げ! 水位が下がったら、太陽石は全部回収するぞ!」


 「「「「「おう!!!」」」」」


 「あ、でも、私が全部回収しちゃった……って、聞いてないか。」



 げに恐ろしきは人の欲なり。






 私とケイティーとお師匠は、森に入って、太陽石の影響が無くなってから飛んで王都へ向かった。

 ヴィヴィさんは、川側探索班にミッション終了と帰還命令を出す為に、そちらへ向けて飛んで行った。



 「ねえねえ、お師匠、この太陽石って、そんなに高価な物なの?」


 「ああ、金と同じ重量で、その2倍程の価格で取引されておるな。」


 「えっ!!」



 あっちゃー! やってもうたー!

 あの50トン近い太陽石!!


 私は、どよーんとした気持ちのまま、帰途に着いた。

 健康の確認の為、私は2日間の絶対安静を言いつけられた。

 ベッドから出て遊びに行こうとすると、メイド長とケイティーにすごい形相で睨まれた。

 人間って、あんなに怖い顔が出来るんだね。トラウマになりそう。


 2日の休養が開けた後、お師匠の健康チェックでOKを貰い、やっと開放された。


 私は、広間で倉庫に入れておいた太陽石を全部出してお師匠に見せた。



 「なんという量じゃ。しかも、全部フルチャージされとるではないか。」


 「フルチャージって?」


 「この石の特性でな、魔力を蓄える性質があるのじゃよ。じゃから、この石の鉱脈の近くへ行くと、魔導師はマナを吸い取られてしまい、気分が悪くなったり、身体の調子を崩したりするのじゃ。」



 そこへ、ヴィヴィさんが帰って来た。



 「ただいまー。って、うわぉ!! 何この大量の太陽石! しかも全部フルチャージって!」


 「そういえば、谷底へ降りた時には石は光ってなかったよ。夜に石が光りだしてからは、力が抜ける感じは無く成ったけど。」


 「そうじゃろう。これだけの量の石にマナを吸い取られ続けたら、相当脱力したはずじゃぞ。」


 「んー、そうでも無かったよ。少し魔力の回復が遅いなと思った程度。」


 「なんとまあ、呆れた奴じゃ……」


 「普通、この拳大の石でもフルチャージするには、宮廷魔導師で1ヵ月はかかるわね。こちらの大きい石だと、1年は懸かるんじゃないかしら。それをこれ全部たった一晩でなんて……」



 ヴィヴィさんが漬物石大の石を指差してそう言った。



 「それにしても、これだけの太陽石がフルチャージ状態で揃っていたら、一体いくらになるのかしらねぇ……」


 「明日ね、ハンターズへ行って、クエスト報酬を貰うんだ。」


 「止めておきなさい。これ、そのまま売った方が高いわよ。」


 「え? そうなの?」


 「クエストの納品なら、これを納めればいいわ。」



 ヴィヴィさんは、太陽石の中から、うずらの卵大の石を2つ手に取ると、私とケイティーに1個ずつ手渡した。



 「他の大きい石は、全部国で買い取ります。ソピーちゃんとケイティーちゃんの財産として、ロルフ様の財産同様に私が管理しておいてあげるわ。お金が必要になった時には、遠慮無く私に言いなさい。」


 「これで、いくら位になるの?」


 「そうねー、大凡だけど、ダルク80万ってとこかしら?」


 「ケイティー、ダルクって、何だっけ?」


 「大金貨よ、大金貨!」



 なんか、ガタガタ震えている。



 (ふーん……、と、言う事は、地球の価値に直すと、800億円かー…………800億!!?)


 「ヴィ、ヴィヴィさん、そ、それは、2人で?」


 「いいえ、一人80万枚よ。」



 ドターっと音がしたので見ると、ケイティーがひっくり返って目を回していた。

 お金って言うよりも、ゲームか何かのポイントみたいな感じになっちゃう。

 フリーザ様の戦闘力みたいに、あまりにでかすぎて、私は凄いんだか何だか実感が沸かないや。


 ……とか思ってたんだけど、時間が経って善く善く考えてみると、やっぱヤバイか。ヤバイよね。

 やっばいわー、もう。

 こんなん、もう人生ダメになる金額じゃん!


 もうさ、こんだけの大金に成っちゃうと、放っとくだけで増えちゃうんだよね。

 私まだ12歳だよ? 色々冒険したいじゃん? 夢とかあるじゃん?

 それがさー、努力する意味が消え失せるんだよね。

 だって、何でも金の力で労せずして手に入っちゃうんだから。

 この金は、歳取るまで封印かな。

 何か、社会的に有意義な投資先とか無いものかな。ヴィヴィさんに丸投げでいいか。


 それよりも心配なのは、ケイティーだよね。この人この先どうするのかな。

 なんか、人生のプランをしっかりしておかないと、変な男にでも引っかかって、巻き上げられたりしちゃうんじゃないかな。

 詐欺に遭わない様に、私がしっかりしててあげなくちゃ。


 その時ケイティーも、私がしっかりしてなくちゃ、ソピアが駄目になっちゃう。と同じ事を考えていたのを私は知らない。



 「あ、そうそう、明後日にあなたの救出作戦に参加してくれた騎士団の皆さんに報奨金を出さなければならないの。あなた達の太陽石の収入から出させてもらうけれど、良いわよね?」


 「「はいっ!」」


 「はい、良い返事です。良く出来ました。あなた達2人の不祥事なのだから、連帯責任として、2人から均等に出させてもらうわね。」



 最初は、私が国宝だという事で、国のお金から出す予定だったみたい。でも、私達に払えるお金が有る今となっては、私達の不祥事なんだから、私達が出すのが筋ってもんだよね。



 こんなに価値の有る石なら、救助の人達が目の色変えるのも当然だよね。

 危険な場所だったから、無茶してなきゃ良いけどな。

 どの位の石を回収出来たかな。


 あの50トンの石、勿体無かったな、後で拾ってこようかしらん。


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