第54話 謎の依頼書

 王様が最初に再起動した。



 「これが、異世界の知識なのか? この歳で凄い子供だな。」


 「ねえねえ、あなた、私達の子供に成りなさいな。そして、国の運営を手伝ってくれない?」


 「いえ、お断りします。まだ遊びたい盛りのガキですので。」



 丁重にお断りした。



 「そうぉー? 残念ねー。でも、諦めないわよ。成人したら、絶対にうちに来なさいね。」



 ケイティーは一人バクバクと食事をしている。

 それを見ていた王妃様が、思い出した様に



 「はっ、そうだわ! こんな会議をするために来たのでは無かったわ! お料理よ!」



 厨房から何時食事を出せば良いのかチラチラこちらを伺っていた給仕の人達が、ホッとした顔をした。

 料理が冷めない様に、タイミングを伺っていたらしい。

 ケイティーの分だけ先に持って来る様に、いつの間にか言ってあったっぽいね。

 皆の前に、メインの肉料理が運ばれて来た。

 牛肉の良い所だ。わーい。

 地球で言う所の、A5ランクってやつ?


 正確に言うと、肉の良し悪しにはアルファベットの方は関係無いらしいけどね。ABCは、歩留まり(骨とか内蔵とかの食べられない部分を差し引いた、食肉部分の割合の事)の良い牛のランクで、食べられる所の沢山取れる牛がAで、少ない牛がBとかCらしい。

 実際の肉質の等級は数字のランクの方で、1から5に分類されていて、5が最高肉という事だそうだ。

 だから、歩留まりの悪いCランクの牛でも、5ランクならサシの程よく入った最高の肉だという事。A5もB5もC5も同じ良い肉という事だそうです。

 最も、マグロのトロが最高だと思っている人が居る半面、赤身の方が好きという人も居る様に、5ランクが誰でも美味しいと思うかどうかは別だそうだけどね。



 「スライスしたトリュフがふんだんに掛けられているよ。うーん、美味しい。」


 「このキノコをソピアとケイティーが見つけて来たというわけか。」


 「うん、正確には、そこの貧しい村では日常的に食べられていた物なんだけど、他の所では殆ど知られていなかったのね。これが王都で評判が良ければ、そこの村の主要産業に成るんじゃないかなと思ったの。」


 「そうか、貴族の間だけではなく、市井にも広めようと考えておるのじゃな?」


 「そう、その国独自の美味しい食文化はね、多くの外国人を引きつけるよ。沢山人が来れば、沢山お金を落としてくれるというわけ。」


 「なんとまあ、賢い子でしょう。ますます養女に欲しくなったわ。」



 そこで作戦会議が行われた。

 まずは、宮廷料理人と様々な料理やスイーツへの応用を考え、サンプルを作成する。

 外国の賓客との晩餐会で出す。味の秘密は厳守。

 貴族のパーティーでも出してみる。貴族間で評判に成ったら、満を持して一般に公開する。

 貴族料理が食べられる店として、一般旅行者へも味を知らしめる。

 国内外で評判に成った所で、料理を出す店をフランチャイズ展開。

 貴族から一般旅行者まで、外貨を料理で呼び込もう作戦(プロジェクト)だ。



 「よし、トリュフは国で一括買い上げる事にしよう。早速、産地へ交渉団を派遣しよう。」



 こうして、プロジェクトはトントン拍子で稼働し始めた。

 値上がりする前に、トリュフの報酬は早めに回収しておこうっと。



 「でもさー、そうすると、値上がりしすぎちゃって、私達一般人の口に入らなくなっちゃうのかなー。」


 「ううん、貴族から市井まで降ろすのは、あまり時間を掛けないつもり。長くても1年計画でやるよ。あと、産地の村では、何時でも安く素朴な料理が食べられる様にはしておきたいね。地方都市毎に産物は作っていきたいと考えてるの。」



 産地の村には、採れる場所の秘密は厳守する様に言っておかないとね。外の人間に荒らされたら大変だもんね。村の貴重な財産なんだから。

 数日後、例の村へ飛んで行き報酬を受け取った後に、後で国の交渉団が来て一括で買い取ってくれる事になったので、他には絶対に売らない様に、取れる場所は、外部の人間には絶対に秘密だという事を伝えて帰った。


 報酬は、ケイティーと半分こ。








◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇








 「さて、今日は、どんなクエストをやろうか?」


 「採集? 討伐? 捕獲が有ればいいなー。」



 依頼ボードの所へ行ってみると、捕獲は無かった。討伐は、オーク3体の討伐が最高で、あまり食指が動かない。今更採集? とも思ったのだけど、一つ奇妙な案件が有る。



 「ねえ、この採集クエストなんだけど、おかしくない?」


 「どれ? んー……、採集物は、太陽石。……ロッククライミングスキル必須。剣士ランク3以上。魔導師不可。報酬、10グラン(10グラム)以上に付き小金貨3枚。重さに応じて増額。」


 「どゆこと? 何故魔導師不可なの?」


 「さあ? 聞いてみよう。」



 私達は、クエストの依頼書を剥がして、カウンターに持って行った。

 受付のお姉さんに聞くと、私達のハンター証の色を見て溜息をついた。


 「これはね、剣士向きの依頼なのよ。それに、あなた達のハンターランクではこれは受注出来ないわ。」


 「どうしてですか? 私達、タイラントバイターも、身長5ヤルトもあるオグルだって倒しました。あれもランク5に指定されてたでしょう?」



 お姉さんは、奥へ行って偉い人を呼びに行った。

 出てきたのはギルド長だった。



 「何だ何だぁ? 受注案件でゴネている奴が居ると聞いて来てみれば、お前達か。」


 「ゴネてません、私達なら出来るって言ってるだけです!」


 「どれどれ? ふむ、これかー。この案件はなー、錬金術ギルドからの依頼なんだが、もうずいぶん長い間、誰も成功していないんだよなー。」



 ギルド長は、頭を掻きながらそう教えてくれた。

 なんでも、かなり特殊な場所で、岩山の上の洞窟なので、クライミングのスキルがどうしても必要なんだって。



 「それだったら、私達は飛んで行けるので問題無いです。」


 「そこなんだよなー。ここに、魔導師不可って書いてあるだろう? あそこは魔導師は近寄れないんだ。」


 「どういう事なんですか?」


 「あのな、太陽石を知らないのか?」



 私とケイティーは顔を見合わせて、お互いに知らないという風に首を横に振った。



 「マナ吸収素材でな、あそこでは魔法は使えないんだ。」


 「だったら、魔導を使わなければ良いのでは?」


 「いやいや、使わなくても、マナは奪い取られる。剣士なら問題ないが、魔導師だと限界まで奪われて命を落とすぞ。」



 ギルド長の真剣な目に、ちょっとゾッとした。

 ケイティーがこの案件は止めておこうと言ったので、私も同意した。



 「じゃあさ、大人しくオークでも狩っておこうか。」


 「うーん、オークねー。報酬しょっぱいよねー。でも、仕方ないか。」



 私達は、オーク10頭討伐の依頼を受けて、よく出ると言われる森へやって来た。

 もちろん、ちゃんと都市の門から出てから飛んできましたよ。


 森に入って、魔力サーチ展開。

 ふむ、居るね。3時の方向、距離80に3頭。

 オークって、3頭ずつ行動するのがデフォなのかな?


 そーっと近付いて行って、藪の陰から覗いてみると、確かに3頭居る。

 その内の1頭が、こちらを振り向いて、じーっと見ている。

 あれ? バレてるかな? あ、そうだった。あいつら視力は弱いけど、鼻は豚並みに良いんだ。

 確か、豚って犬よりも鼻が良いんだよね。

 トリュフを犬じゃなくて豚で探したりするくらいだし。

 あ、そうだ、オークを飼い慣らして、トリュフ探させられないかな? 駄目かな。魔物だしね。生まれつき人間には懐かない生き物らしいからね。

 そうだ、あの村に、豚でトリュフ探す方法を教えてあげよう。


 とか、余計な事を考えていたら、3頭ともこっちに気が付いちゃったみたい。

 ケイティーに目で合図をすると、背を低くして藪から飛び出し、先頭のオークの心臓の位置へ突きを食らわす。剣を引き抜きつつ、前のめりに倒れて来るオークの首へ、下から掬い上げる様に剣を走らせる。

 頸動脈を断ち切り、一瞬でケイティーは1頭のオークを倒した。

 強くなったよねー。今じゃ一流の剣士って風格が出てきた。


 私の方は、肉をあまり傷つけたくないので、やはり、のびーる剣(仮)でオークの首を、チョンと跳ねた。

 私、もうオーク程度は、狩りと言うよりも食材を捕ってる感覚になってるんだなー……私は食べないけどね。

 なるべく、食肉用に歩留まりが良くなる様に気を付けて狩ってる。

 腹を切って、消化管の内容物をぶちまけちゃうと、大腸菌に汚染されて大部分が食べれれなく成っちゃうんだよね。O-157怖いよね。頸動脈をスパッとやれば、血抜きも兼ねて都合がいいってわけ。

 3頭目はケイティーが、私よりも素早く接近し、ジャンプして不可視剣(仮)で横一閃、首を落とした。



 「オーク相手だと、私達、もう危なげ無いよねー。」


 「ねー。」



 血抜きが完了したら、倉庫へ放り込む。

 近辺を探索して、あと15頭を狩って、今日はオーク狩りは終了する事にした。



 回りを見回すと、結構遠くまで来てしまった様だ。

 でも、私達なら飛んで帰れるから無問題もーまんたい


 森の切れ間に、青空が見えている。

 そこまで行ってみると、すごい広大な景色が目の前に現れた。



 「ねえ、ここってさあ、例のあそこじゃない?」


 「うん、太陽石のでしょう? 確かに岩壁だねー。例の洞窟って何処なんだろう?」



 目の前には、かなり大きな渓谷になっていた。

 地球で言うと、アメリカのグランドキャニオンみたいな、何万年もかけて川が岩山を削ってできたみたいな感じの巨大な渓谷だった。


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