第53話 トリュフ料理

 「ねえ、オグルって、素材的にはどうなの?」


 「うーん、あまり聞かないなー。全部持って帰ってハンターズで聞いてみようか?」



 依頼を達成したので、今度こそサインを貰うぞ。

 それと、トリュフも!








 村へ戻って、オグルを討伐した事を報告。

 山に入って1つ刻(2時間)程度しかかかってないのにと、かなり訝しまれたので、耳を見せる。

 だけど、耳じゃ何の生き物なのか分からないと言われ、倉庫から全身を出してみせる。

 かなり驚かれた。


 約束通り、クエスト完了のサインを貰い、トリュフの件を確約して帰ろうと思ったら、鍋料理を食っていけと引き止められた。

 もちろん、トリュフ入り。

 肉は、……なにこれ? 山で捕れた猪と鶏? オークじゃないね? オークなら食べないよ? と念を押し、食べてみる。



 「「うまい!」」


 「うまいねー、ソピア! こんな美味しい鍋料理は初めてだよー。」



 うーん、私も満足。

 食事が終わって腹も満たされたので、改めてトリュフの件を今回の報酬とする旨を確約してもらい、書面に起こしてそれぞれサインをし、村長と私で1通ずつ保管。

 後日取りに来るという事で、お互いにお礼を言って村を後にする。


 村の広場から空を飛んで去って行く私達を、村人たちは驚愕の目で見送っていた。

 後に、行商人達の噂で、西外れの外郭村に女神が降臨したとかいう噂が広まっていたけど、それはまた後日。



 「今回もまた私は活躍していなかったよー。」


 「そんな事ないよ。オグルの膝裏切ってたし。」


 「あれ、私居なくてもソピアだけで済んだよね。」


 「いやいや、ゴブリン討伐だって、ケイティーが居たからすぐに終わったんだし。」


 「そお?」


 「そうそう!」



 そんな言い合いしていたら、うっかりそのまま西門を通り過ぎそうになったので、引き返してちゃんと門から入場。

 ハンターズでゴブリン討伐完了のサインを見せて、大金貨2枚の報酬を受け取る。

 こんなに早く終わったのかとびっくりされた。


 買い取りカウンターの方へ行って、オグルは買い取れるのか聞いてみた所、なんと、買い取ってくれるとの事だった。

 なんでも、角とか肝臓とかが薬になるらしい。肉も不味いけれど食えない事は無いらしい。

 なんと、オグル1頭で、大銀貨7枚。やっす!

 耳は、村に置いてきましたよ、はい。だって、討伐完了の証拠は村長に見せればいいだけだから。サインさえ貰えれば、耳はもう要らないのさ。倉庫の中には余計な物はなるべく入れておきたくないからね。



 私達は、屋敷に帰って、……うーん、屋敷なんだよねー。良い響き。

 料理長にトリュフのサンプルを渡し、料理に使えないか相談してみる。

 料理長は、薄くスライスしたトリュフを口に含み、目を丸くする。



 「これはいい! 料理の幅が広がりそうです! この食材はもっと手に入りますか?」


 「交渉次第なんだけど、もっと手に入る当てはあります。持ち帰った分が数個ありますので色々研究してみて下さい。その成果を持って産地で交渉すれば、きっと良い商売に成るんじゃないかと思うんですよね。」


 「それは有り難い。これを持って行って、宮廷の方の料理長とも相談してみます。」



 てな具合で、話はトントン拍子で進んだ。

 あの過疎村の良い収入源に成ればいいな。

 軌道に乗ったら、何処かの信用のおける行商人に流通は任せよう。


 その日の晩餐には、トリュフ料理が出た事は言うまでも無い。

 お師匠やヴィヴィさんにも好評でした。








 次の朝……


 食堂へ降りると、入り口でケイティーが立ち竦んでいた。



 「お早う、ケイティー、どうしたの? 中へ入らないの?」


 「あっ、ソピア、あ、あれ……」



 指差す方を見てみると、なんと食堂の席には、王様と王妃様が先に座っていた。

 もちろん、背後には護衛の兵士が控えている。

 そっか、ケイティーは、国王夫妻に会うのは初めてだったよね。

 でも何でうちにいるの?



 「あら、どうしたの? 二人共。そんな所へ突っ立ってないで、早く席にお付きなさいな。」



 エバ王妃が声を掛けてくれる。

 いやいや、何でうちにいるの? 何時来たの?

 そこへ遅れて、お師匠とヴィヴィさんも入って来た。



 「どうしたんじゃ一体おまえら、そんな所で。お、エイダムとエバか! 何時来た?」


 「まあ、国王陛下と王妃様。御機嫌麗しゅう御座います。いらしてた事は全く気が付きませんでした。」



 王宮とは目と鼻の先とはいえ、国王夫妻が堂々と移動して来たら、さぞ目立った事だろう。

 そうだよ、私達の部屋は、2階の玄関ホール側なんだ。気付かないはずは無い。



 「ん、ああ、地下道を通って来たぞ? 何でも、とても美味い食材を手に入れたと聞いてな。」


 「「「「……!!」」」」


 「どんな食材なんでしょう? 妾も楽しみで楽しみで。」


 「いーや、待て待て待て! 今さらっと、とんでもない事を口にしおったぞ!」



 地下道とか言ったよね?

 お師匠も知らない、そんな物があったのか?



 「ん? 地下道の事か? この屋敷を建てる時に最初から掘ってあったぞ? ロルフが何時でも遊びに来れる様にな。」


 「なのに、せっかくお屋敷が完成したというのに、あなたは森に引き篭もってしまって、全然住んでくれないんだもの。」


 「わしは、端からこの様な生活は好かんと言っておったじゃろうが。無駄な税金を使いおって。」


 「あら? このお屋敷の建設費も維持費も、あなたの財産から支払われているのよ? 言ってなかったかしら?」


 「はあ?」



 確か、お師匠の財産は全部サントラム学園の前身の孤児院に寄付したって聞いていたけど?



 「サントラムの建設費も運営費も職員のお給料も、全部あなたの財産から捻出されているのよ? 知らなかったの?」


 「ちょっとまてー! わしの財産って何の事じゃ? 知らんぞ?」


 「あらやだ、ヴィヴィ、ちゃんとロルフに説明してなかったの? あなたを付けたのは、そういう面のフォローもあるのよ?」」


 「は、王妃様、まさか大賢者様ともあろうお方が、ご自身の財産について全く関知していない等という事は想像もしていませんでした。」



 でたよ。この爺さん、自分の生活面に関しては本当にポンコツなんだから。



 「サントラムの運営は、全部国が面倒を見てくれておるものとばかり思っとった……すごく感謝しておったのに。」


 「あら、御免なさいねー。全部あなたの財産なのよー。」


 「何でそんな事になっとるんじゃ……? 邪竜の討伐報奨なんて、たかが知れとったじゃろう?」



 たかが知れたと言っても、一般人からしてみれば、莫大な金額だったって聞くけどね。



 「あれは、ロルフ様が全てご寄付されてしまわれましたね。現在の財産は、ロルフ様の知的財産から発生する、権利収入という事になります。そして、それは、今現在でも増え続けております。」


 「そうなのよー。まるで、天から金塊が降ってくるみたいに増え続けているわ。」


 「サントラムの建設費、運営費、職員の給料、全寮制学生の生活費、そして、この屋敷の建設費や維持費、使用人達の給料……一体、どれだけ莫大な財産があるというんじゃ?」


 「そうねー、国家予算の4割を少し超えるかしら?」


 「はい、正確には、4割2分程度です。」


 「今じゃ俺達夫婦よりもお金持ちだぞ。」



 マジか、権利収入ハンパねー。



 --説明しよう! 権利収入とは、それを持っている人だけが自動的に得ることが出来る、不労所得の事である。

 特許料、著作権料、歌などのライセンス料等が有名だが、土地や建物を貸して得る事が出来る賃貸料やアパートの家賃収入なんかもそうだぞ。

 特許や著作権は、それを作るまでの努力はあるので、完全に不労とは言えないが、完成後も収入が発生するという点では準不労所得と言えるだろう。--



 「国王よりもか? そんな馬鹿な!」


 「本当だぞ。まあ、国の全てが国王の物という建前はあるので、単純に比較は出来ないが、直ぐに使える金銭で比較したら、ロルフ、お前の方が何倍も金持ちだぞ。」


 「しかも、国家予算の2割を超えた辺りから、このまま溜め込んでいても仕様が無いと思って、土地買ったり投資したりしてたらね、もう、手がつけられない程増えちゃって、この有様なのよ。」



 この人達、本人の了承も無しに、勝手に人の財産を運用しているんだな。

 最も、こういう面に置いてはポンコツなお師匠になんて任せていたら、とんでもない使い方するのが落ちだけどね。地球だったら犯罪だよね。

 財産の管理が有能で正直な人で良かったよ。お師匠の財産が増えれば、自動的に税収も増えるのだから、完全に欲が無いとは言えないのかもしれないけどさ。私腹を肥やす目的ではなくて、お師匠の為に良かれと思ってやってくれている人達なんだから、まあ、増やしている訳だし、大目に見てやろう。仮に減らして無くなっていたとしても、お師匠は知らない財産だったのだから、誰も困まらない訳だしね。このままこの人達に任せて居た方が絶対に安全だよね。



 「今度新しく創設されるサントラムの上級学園も、貯め込むばかりのあなたの財産を少しでも市井に回そうと考えられたものなのです。」


 「貧しい家庭に援助してやったらどうなんじゃ?」


 「それは駄目。働かない無気力な人間を増産するだけだから。」


 「あら」


 「ほう」



 私が急に喋ったので、皆が驚いた様だ。

 12歳の小娘だと思っているのだろうが、中身は19歳の大学生だからな。

 あっちの世界では、そういうバラマキは失敗するのは経験済みなのだ。



 「もう、公共事業でも何でも、好きに使えばよいじゃろう。」


 「それも駄目、意味の無い建物や必要性の低い道路なんか作りまくって維持費ばかり嵩んで無駄金になる。」


 「だったら、何か良いアイデアでも有るのか?」


 「教育は大事。子供は将来の国の財産だから。各町各村にも最低限の教育を施せる施設を建設する。子供の健康を守るための防疫や栄養面の補助をし、子供の死亡率を減らす。作物の研究をする機関を設立し、農業の生産性を上げる。公益の望めそうな外国との間の街道を整備し、航路も整備して、貿易を活発にする。等々……一つのプランは、全体を見通して完成形をデザイン出来る、有能な複数の人間に競わせて、その人に任せるべき。しかし、閉鎖した組織は必ず腐るので、外部のチェック機関は必ず設置しなければならない。」



 皆固まっちゃった。

 ケイティーは既に話題に付いて行けないのか、一人黙々と食事をしていた。


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