第52話 オグル討伐

 「じゃあ、何の為にハンターズギルドに依頼を出したのかな?」


 「多分だけど、戦える若者が外へ流出してしまって、今はゴブリンでさえ討伐するのに十分な戦力が村には居ないのか、もしくは……本当の駆除対象が他にいるか。」


 「つまり、どういう事?」



 つまり、本当はゴブリン以上の強い魔物が居て、それを討伐するには村の戦力では不十分で、しかし、その討伐依頼を出すには資金が足りない。

 ゴブリンは本当に居るのだから、ゴブリン討伐という事で依頼を出せば、あわよくばその強い魔物に遭遇したハンターがついでに討伐してくれるだろう、と。



 「あっきれた! ゴブリン討伐の費用で、もっと強い魔物を倒させようとしてるって事?」


 「村の畑を見たでしょう? この時期に、十分な作物が育っていなかった。それに、村の規模に対して、人も少なく感じた。」


 「じゃあ、最初に言った、戦力が流出の方?」


 「たぶんね、理由はそれ全部が絡み合っている。」



 十分な作物が育たないので、食うに困った若者が村から出ていってしまう。村の防衛力が落ちる。

 働き手が居なければ、村も貧しくなってしまう。そこへ、強い魔物の襲来。

 その強い魔物に恐れを成した人が、更に村を捨てて逃げて行ってしまう。

 多分、強い魔物に追われたゴブリンが、里へ下りて来てしまう。それが村に損害を与える。

 村長は、原因の魔物が判っているが、その強い魔物の討伐依頼を出せる程の資金が村には無い。

 実際にゴブリン被害は出ているのだから、ゴブリン討伐として低費用の依頼を出す。

 討伐数を多めに出せば、ハンターは山の奥側まで入って行くだろう。そこで目論見通り、強い魔物に遭遇すれば、見て見ぬ振りはしないだろう。上手く行けば、倒してくれるかも知れない。



 「と、私は仮説を組み立ててみた。」


 「うーん、卑怯な。その強い魔物って、何だと思う?」


 「ゴブリンと生活圏が被っている魔物。例えば、オークの上位種とか、オグルあたりか。」


 「オークなら私でもなんとかなるかな。オグルはちょっとヤバイかも。ソピアならいける?」


 「実は、オグルって見た事無いんだよね。多分大丈夫だと思うけど。」


 「あーあ、本当にオグルが出てきたら、報酬割に合わないなー。」



 等と探偵紛いの推理を披露しながら探索していると、またゴブリンの集団を発見。



 「ゴブリンなら、特に技使わなくても、普通に倒せちゃうよね。」


 「うん、ハンターじゃなくても、武器さえあれば、特に体力のある若者なら普通は負けない。」


 「とすると、より強い魔物説が有力かなー。」



 私は、魔力サーチを半径300ヤルト程にまで広げ、索敵しながら山の麓をぐるっと回り込む様に進む。

 山の奥? 入りませんよ。だって、依頼はゴブリン20匹の討伐だもん。

 意地悪だと思うなかれ、それなりの敵を狩るのなら、それなりの報酬を頂かなければやるわけにはいかない。というか、善意とかでやってやっちゃう人も居るのかも知れないけれど、これは仕事なんだから、やってはいけないのだ。

 そんな前例を作ってしまうと、他のハンターに迷惑をかけてしまう。それで生活をしている人達なんだからね。

 どんな業界でもそうなんだけど、仕事欲しさで抜け駆けして低料金で受注したりしていると、回り回って身分の首を締める事になってしまうのだ。ギャラが安い、ブラックだと嘆く前に、自分がその状況を作っている、または加担している事を良く考えてみて欲しい。



 麓をぐるっと探索していると、ゴブリンの3匹~5匹程度の集団に3回遭遇し、目的の20匹を達成した。

 正確には21匹だけどね。これでクエストの討伐数完了。



 「さ、村へ帰って、村長のサイン貰って帰ろう。」



 ケイティーが少し複雑な顔をしているけど、私達はプロなんだ、依頼された仕事は完璧に達成した。余計なただ働きは絶対にしちゃいけないのだという事を言い聞かせ、村へ向かう。

 この子、良い子なんだけど、人情だけで考え無しに動きがちなのでちょっと心配なんだよね。








 村へ帰って、村長に依頼達成のサインを貰おうとしたら、こんなに早く終わったのかとビックリされた。

 証拠の耳をケイティーが見せたら、なんかゴニョゴニョ言って署名するのを渋っている。

 何か他の魔物に出くわさなかったかとか、どの当たりまで奥へ行ったのかとか、色々聞いてくる。

 何もやましい所は無いので、正直に話すと、山のあそこから向こうは村の領域ではないから、そちらで駆除したゴブリンの数は無効だとか言い出した。



 「こんなナメた仕事をしやがって! こんなのじゃ、依頼料は銅貨一枚払えんわい!」



 やれやれ、恫喝モードに入りましたよ。

 もう一回、もっと奥地まで入って倒してこいなんて言い出す始末。


 女子供だと思って舐められているな、と感じた。まあ、女で子供なんですけどね。

 再度、依頼内容は過不足無く達成した事。サインを貰え無ければ、ハンターズへ帰って詐欺依頼だったと報告する事。そうなれば、以降この村から、または村長の名前での依頼は一切受け付けられなく成る事を説明すると、今度は泣き落としモードに入る。



 「本当に困っているんですよ。村の女も子供も外へ出る事も出来ない。可愛そうで仕方が無い。そう思うじゃろう?もうちょっと奥地のゴブリンも駆除して、他にも危険そうなのが居たら、ちょこちょこっとやっつけて来てくれたら、それでいいんじゃが……」



 恫喝が効かなければ泣き落としって、小物臭い嫌らしい大人の典型だな。

 私達が本当に女子供なので、村で用意した色仕掛けも通用しないだろうし、本当に困っているというのは伝わってきたが、言い方ってものあるよね。それに、詐欺依頼はちゃんとハンターズギルドに報告する義務があるから。



 「オグルがちょこちょこっと倒せる魔物だとは思えませんが?」


 「……!」



 こいつ、バレてるって顔しやがった。

 これが男のハンターだったりしたら、色仕掛け接待でオグルをちょこちょこっと討伐しちゃったり、するのかな?



 「この通り、この通りお願いします! どうかオグル討伐を、どうかー!」



 いきなり土下座だよ。こんな女子供に対して。

 でも、なりふり構ってられないんだろうな。プライドなんて糞食らえって位、切羽詰まっているのだろう。

 それを窓の隙間から覗いていた村人が、ぞろぞろと家々から出来て来た。



 「村長、もうよしてくれ、我々はもうこの土地を捨てよう。」


 「今まで頑張ってきてくれた村長に、そこまでさせる気は私達にはもう無いわ。」



 村人が口々に村長を気遣う。

 うーん、私達、悪役気分。

 この人、これでも人望があるのか。



 私はその時、一軒の家の外に干してある、有る物に気が付いた。



 「村長、ちょっと聞きたいのだけど、あそこの家の前に置いてある土の塊みたいな物って、もしかして……」


 「ああ、あの山で沢山採れるキノコじゃよ。見た目が悪いので売れはしないのじゃが、良い香りがするので、村では鍋物に入れたりして食っておるが、興味があるのか?」



 近くに行って、手に取って匂いを嗅いで見る。

 間違いない、トリュフじゃん! しかも、でかい! メロン位の大きさがあるよ!? これが沢山採れるだって?



 「あー、おほん、村長さん、私達、オグル討伐の依頼を引き受けようと思います。」


 「し、しかし、その対価が支払えんのじゃが……」


 「このキノコを私の体重分集められるなら、それを対価として受け取ります。」


 「本当か! それならお安い御用じゃ! オグルさえ居なく成れば、村人総出で集めてさせますわい。」



 やった! しめしめ。トリュフの価値を知らない村人を騙している様で、多少気が引けるけど、錬金工房の白金と同じで、他の場所ではどんなに価値があるとしても、知らない人達にとっては全くの無価値だもんね。

 私がこれをその他の地域で広めて、社会的に価値がある物という認識が広まれば、村の収入源にも成りうる。Win-Winの関係じゃないかな。



 「まさかこいつの味を知っている者が村の外にもおったとは!」








 私達は、村人達の期待の眼差しを背に、再び森の中へ入って行った。

 山の麓の森なので、今度は斜面に沿って登って行ってみる。コナラの群生している場所に出た。多分、トリュフの採れるのはこの辺りなんだろうな。

 と、いう事は、オグルが出るのもこのあたりか。

 下向いて黒いダイヤばかり探していて、本来の目的を忘れちゃってたよ。

 さて、と、魔力サーチを展開するが、周辺に動く物の気配はない……かな。


 その時、上を見ていたケイティーが、私の背中を激しくバンバンと叩く。

 ケイティーはトリュフを知らないので、私が下を向いていたのとは逆に、上を向いて歩いていたんだ。



 「痛っ、え? 何?」


 「いた」


 「痛?」


 「居た!」



 ケイティーの目線の先を追うと、身の丈5ヤルト(約5メートル)もありそうなオグルが、突っ立ってこちらをじーっと眺めていた。

 前も言ったけど、魔力サーチでは動く物の気配しか分からないんだ。じっとして居られると、たとえ目の前に居たとしても察知出来ない。

 ビビった、マジでビビった!

 地球で言うと、森の中でいきなりでかいヒグマと遭遇したみたいな感じだろうか。

 逃げる? 無理。戦う? 無理。死んだふり? 無理ー! どうすれば良いのか分からなくてパニックになる感じ。

 でも、京介ではなく、ソピアには戦闘力があるんだ。戦える!

 森の中で急に遭遇して、お互いにどう動くか様子を見ている感じで膠着状態に陥っているが、どちらかが動けばすぐに動くだろう。


 「ケイティー、固まっていると一度にやられる。正面で私が相手するから、あいつが動いたら常に背後に回り込む様にして。」


 「了解したわ。気を付けて。」



 私とケイティーが左右に別れて走ると、こちらへ向けてオグルも走り出した。

 私が倉庫から、大人の拳大の鉄球を3個取り出すと、身体の回りを半径1ヤルト、回転数は秒間54回転で回転させる。

 半径1ヤルトなら、54回転を超えた辺りで音速に到達するはずだ。



 ブオーーーーーーン!

 バーーーーーーーン!!



 ソニックブーム発生。鉄球の速度は音速を越えた。

 私の攻防一体の鉄球サテライトだ。

 オグルが渾身の力を込めた棍棒を5ヤルトの身長から振り下ろす。



 ガーーーーーーーン!!



 しかし、棍棒は音速の鉄球に触れて、木っ端微塵に砕け散る。

 その反動と音にびっくりしたのか、オグルは体勢を崩す。

 すかさず、ケイティーがオグルの膝の裏に向けて剣を薙ぎ、腱を断ち切る。上手い!

 片足の自由を失ったオグルは、たまらず膝を付く。

 私は、一つの鉄球の半径を倍に広げ、オグルの脇腹が円周に入る位置まで前へ出る。

 オグルは、鉄球の威力が分かったらしく、腕で胴を庇うが、右手首は吹き飛び、左腕は二の腕の骨を貫通して肋骨もへし折り、心臓をいとも容易く潰して、反対側の脇腹から飛び出した。

 心臓を一瞬で潰したため、それ程血は吹き出さなかった。



 「相変わらず、エグい威力ねー。」


 「私もそう思うー。」



 おそらく3キログラムは有りそうな、音速で飛翔する鉄球の運動エネルギーを防ぐ手立ては、この世界には無いだろう。

 大型帆船の船板だって貫通するに違いない。

 この前のエントとの模擬戦で使わなかったのは、加減が難しくて殺してしまいかねなかったからだ。

 鉄球のサイズを調節すれば、対人でも使えるのかな? とは思ったのだが、多分、豆粒程度の弾丸でも駄目かも……うーん。

 スピードを調節して? ……うーん。


 私が余計な事を考えて自問自答している間に、ケイティーはオグルの左耳を切り取っていた。



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