第51話 ゴブリン討伐

 朝目を覚ますと、私の両側をヴィヴィさんとケイティーが挟んで寝ていた。

 寝ぼけ眼で部屋を出ると、丁度起きていたお師匠と廊下で鉢合わせした。



 「なんじゃ? 3人でその部屋で寝たのか?」


 「色々な部屋の寝心地を確かめていただけですわ。」


 「食事の度に4階まで上り下りするのが大変なので、部屋を替えてみたんです。」


 「別に、静かで怖いとか、寂しいとかじゃないんだからね!」


 「……ソピア、台無しだから……」



 結局、私達3人は、2階の隣通しの部屋に住む事になった。

 玄関ホール側から、私、ケイティー、ヴィヴィさんの順。反対側に、お師匠の書斎と寝室。3階と4階は空きとなった。

 自分の部屋のバスルームで、それぞれ朝の身支度を整えて、1階の食堂へ集合。

 既に4人分の朝食が用意されていた。

 勝手に座ろうとすると、執事がさっと椅子を引いてくれる。うむ、苦しゅう無い。



 「ところでさ、ここの食費とか屋敷の維持費みたいなのは何処から出てるの? あと、使用人のお給料とか。」


 「ああ、国から出てるぞ。」


 「えっ! そうだったの? 財産は全部サントラムに寄付したって聞いたんだけど。」


 「ああ、寄付したぞ。でも、わしの魔導の新型術式とか発見発明の類で、莫大なライセンス料が入るでな。それを全部国に譲渡管理とする事で、対価としてわしの生活とサントラムの運営は全部国費から出る事に成っておる。」


 「そうなんですか、こんな大きなお屋敷をポンとくれちゃう位大丈夫な程のライセンス利益って、すごすぎますね。」


 「その辺は、ヴィヴィが上手くやっとる様じゃな。例の魔導倉庫の鍵や、ロイヤルナイツのレプリカ剣なんかもその一貫じゃ。こやつは、ソピー、おまえの知識も金に変えようと張り付いておるんじゃぞ。」


 「おほほほほ、もう、ロルフ様ったら。」



 否定しないんだ。

 まあ、国に貢献出来るなら、それでも良いんだけどね。

 でも、それって、国による囲い込みだよねー。



 「あ、そうだ。ケイティー、後でロックドラゴン売りに行こう!」


 「私、肉が欲しいんだけどなー。」


 「じゃあさ、売る時に背中の良い所少し取っといてもらおう。」


 「そうしよう、そうしよう。」


 「じゃあ、食事終わったら、支度してハンターズね。」


 「了解ー!」






 ハンターズギルド。



 「あー、ここのギルドでは、肉の切り分けはしていないんですよー。」


 「えっ、そうなんですか。どうしよう。私食べたいんだけどな。」


 「じゃあさ、私の1頭はここで売って、もう1頭は肉屋に持っていこう。」


 「えっ!?」



 ハンターズの買い取り係の人がちょっと残念そうな顔をしたけど、しょうが無い。肉食べたいもんね。

 肉以外の素材部分がちょっと無駄になるけど、しょうがない。



 「あっ、ちょっとお待ちください。でしたら、背甲や毒袋、肝臓等の部分に少々色をお付けして査定させていただきますので、それで肉屋で必要な分だけお肉をご購入されてはいかがでしょう?」


 「あー、なるほど、それでもいいかー。」


 「そうだね、肉塊を一抱えも持って居てもしょうがないもんね。お金貰って食べたい時に都度買えばいいか。」



 ロックドラゴンは、それぞれ大金貨55枚になった。

 私は、半分をケイティーに渡そうとしたら、ケイティーに断られた。

 2頭とも私が倒した物だからだって。

 じゃあ、という事で、運び賃という事で15枚を渡した。



 「これでも貰い過ぎな気がするんだよねー。ここの所、分不相応な程色々な物を与えられて、ダメ人間に成ってしまいそう。私はソピアやヴィヴィさんや大賢者様に何も返す事が出来ていないと言うのに……」



 いや、ヴィヴィさんに関しては、その心配は要らないと思うよ……

 モニター兼広告塔として利用されまくっているんだから。

 私に関しては、友達なんだから、友情に与えた与えられたは無いんじゃないかな。相手を思いやって、相手を利用する気持ちが無いのならオールオッケーだよ。



 「う、うん、ありがとう! 私、もっと頑張って、あなたの友達として恥ずかしくない人になるよ!」


 「成る程成る程、では、ケイティー、ハンターズに来た良い機会だから、昇段ランクアップ試験を受けてみようか。」


 「ランクアップ試験!?」



 昇段ランクアップ試験というのは、Bランクから正式ランクへ上がるための試験の事。

 Bランク内は、実績で上がるんだけど、Bランクから正式ランクへは試験が必要なのだ。

 何時までもビギナーレベルでは、まともなクエストは受けられないからね。



 「そう、私の見た所、とっくにBランクは卒業しているはずなんだよねー。」


 「えっ? いや、そんな、まさか。私なんて!」


 「大丈夫だから、良いではないか、良いではないか。減るものでは無し。」


 「あーれーーー。」



 悪代官みたいなセリフを吐きつつ、手続きを済ませ、ケイティーを道場の方へ引っ張っていった。

 試験官は、前回と同じ人だった。私の顔を見て、一瞬びくっとしたけど、こっちですと言うと、ホッとした顔をした。

 剣は木刀なので、不可視の刃(仮)の使用は出来ないけれど、私の魔力による高速斬撃を全部捌き切って、エントの頭を綺麗に刈り込んだ腕前は、正式ランクになる実力十分のはずだ。


 記録係の女性の合図で、試合開始。

 試験官は盾有り、ケイティは盾無しのスタイルだけど、なんとかなる……よね。

 試験官は、今日は短槍じゃなくて剣を持っている。左手に盾を持っているので、剣は片手持ち。普通よりも軽めの片手剣ワンハンドソードだ。

 そのせいで、試験官の斬撃は軽いので、ケイティーは危なげなく捌いて行ける。だけど、盾のせいでこちらの攻撃が全く通らない。しかも、盾で視界の一部を隠して、その死角から剣を突き出すという、いやらしい戦い方だ。

 ケイティーが盾の無い右側へ回り込もうとしても、巧妙なフットワークでそれをさせない。

 うーん、本当に嫌らしい。この人、私と戦った時に、錯乱して『きええええぇぇぇぇ!!!』とか言ってたキモい人だよねー。大丈夫なんだろうか。


 暫らく膠着状態が続いていたのだけど、ケイティーが相手の動きを観察して何かに気が付いたみたい。

 試験官がススっと近付いて来て、視界を遮ろうと盾を持ち上げた時、ケイティーはそれに合わせる様に身を屈めると、素早く左側に回り込み、がら空きの脇の下へ短く突きを入れた。

 そして、痛さにうっと前かがみになった試験官の足を引っ掛けてうつ伏せに転ばすと、尻を踏みつけて木刀を頚椎の間に当てる。

 審判兼記録係のお姉さんがピーっと笛を吹いて、試合終了。



 「結果はロビーのカウンターで通知しますので、ラウンジの方でお待ち下さい。」



 ラウンジでお茶を飲んで時間を潰す。



 「試験官やっつけちゃうなんて、凄い上達したよね。」


 「そ、そうかなー、うふふ。」


 「試験官やっつけたんだから、私と同じランク2かな?」


 「それは無いと思う。ソピアはあの時、2人倒しちゃったからね。」



 とか話していたら呼ばれて、案の定ランクは1だった。

 まあ、そんな上手くは行かないか。



 「取り敢えず、昇段おめでとう。次からは、討伐クエストも受けられるね。」


 「うん、嬉しい。これもソピアやヴィヴィさんのおかげ。」



 いつも忘れられるお師匠であった。ちょっと不憫。



 「今日、未だ時間が有るから何か討伐クエ受けてみる?」


 「そうね、何か軽いやつ有るかなー。あっ、ゴブリン討伐クエがあるよ。大金貨2枚だって。」」


 「討伐数は、20体か、10体で大金貨1枚、5体で小金貨2枚って計算ね。」


 「場所はー、マヴァーラの隣町の外村。王都からだと、徒歩3日って所かな。」


 「私達は飛んで行っちゃう訳だけどね。さあ、受注っと。」


 「お弁当は、2日分。それ以上かかった時の為に、干し肉少々と飲料水。これだけは買って行こう。他の物は倉庫に入っているわね。」



 私達は、ハンターズの向かいの食堂でお弁当を作って貰い、その間に干し肉と水を買いに行く。私の分は、少々値が張るけれど牛肉の干し肉だ。

 買い物が終わって食堂へ行くと、お弁当が出来上がっていた。それを受け取って、倉庫へ放り込むと、そのまま飛び上がろうとする私の肩を抑えてケイティーが首を横に振る。

 ちゃんと門から一旦出ないと記録上面倒な事になるって。

 なので、一番近い西門から外に出て、そこから飛んで行く。徒歩3日の距離だって、私達ならほんの四半刻(30分)の更に半分も掛からない。

 村へ着いて、村長にクエストを受注した事を告げる。村長は、私達の姿をみると一瞬眉をひそめたが、私達のハンターランクを見ると、渋々といった感じで情報を教えてくれる。

 私達は、すぐにゴブリンが出ると言う森へ入った。



 「ねえ、ケイティー、あの村、ちょっとおかしいよね。」


 「え? どこが?」


 「畑が荒らされるそうだけど、殆ど魔物よけの柵も何も無かったでしょう? 普通、こういう森に近い外郭の村は、魔物に襲われる事が前提で、襲われてもすぐに対応できる様に屈強な若者とかハンターが入植しているわけ。」


 「そっか、ゴブリン討伐程度でハンターズに依頼を出す筈は無いって事か。」



 森に入って少し歩くと、ゴブリン5匹の集団にすぐ遭遇した。

 私は、相手に気付かれる間も無く延長剣(仮)で3体の首を跳ねた。森の木も1本犠牲になった。



 「あ、またドリュアスに怒られちゃう!」



 とか、余計な事を考えている間に、ケイティーも危なげ無く2体を屠った。



 「ゴブリンの討伐の証拠はね、こうやって左耳を切り取って持っていくの。」


 「うげー……」


 「ソピアはこういうのも駄目なのかー。いいわ、この仕事は私がやるから。」



 ケイティーは、手慣れた手付きで5匹の耳を集めていった。



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