第35話 獲物の査定金額
「着いた! カナルパ山!」
「この山の五合目付近に、洞窟が有るはずなんだけど。」
「あっ、あれじゃないかしら?」
ケイティーの指差す方向を見てみると、今私達が居る所より少し低い位置に洞窟が見える。
そこまで降りて行って、洞窟の中を覗くと、中は結構広い様だ。
「暗いね、ソピアちゃんは明かりの魔法が使えないの?」
「使えないの……」
しょんぼりしていると、背中をパンパンと軽く叩かれた。
「松明を作りましょう。」
一旦外に出て、近くの木の枝に、松っぽいの木の皮を剥いだ物を巻き付けて、即席で松明を作った。
松明に火を点けて、洞窟に再入場すると、結構人が入っているっぽい形跡が見て取れる。
「ほら、この壁の穴は、松明を刺す為の物よ。」
「下の地面には、人の足跡らしき物も有るね。」
「私、硝石って見た事が無いんだけどさ、ソピアちゃんはわかるの?」
ごもっともな意見を言われて、はっとなった。私も硝石がどんな物なのか、知らない。
もっと奥を調べてみようと思った時、背後から急に声をかけられた。
「こらっ! お前達、何処から入り込んだ?」
振り向くと、洞窟の入り口に一人の男が立っていた。
話を聞くと、この洞窟の管理者だと言う。錬金術工房の職員だそうだ。
「私達、ハンターズギルドから、採掘の依頼を受けて来ました。」
首に下げた水晶のライセンスを見せると、話を聞いてくれるそうだ。
案内されて付いて行くと、来た方とは逆側の死角になった位置に、管理棟らしき建物があった。
管理棟から見ていたら人影が見えたので、様子を見に来たとの事。
私は、そこの責任者に依頼書を見せて、正式な依頼できた旨を説明した。
「ほう、ハンターズギルドから。しかし、ここは錬金工房の管轄で、部外者は採掘出来ないのですが、ここの事は誰から聞いて、だれの依頼なのですか?」
困ったな、お師匠の事を話さないと駄目なのかな……と言い淀んでいると、ケイティーが先に言ってくれた。
「ハンターは、依頼者の情報を知らされていません。また、例え知っていたとしても、話すことは守秘義務違反になります。」
「おお、それだ!」
「それもそうですよねー。困ったな。」
「この正式な依頼を、あなたの一存で拒否したと成ると、後で責任問題になるんじゃないですか?」
「せ、責任問題!?」
出た、こういう人達が一番嫌がる伝家の宝刀、『責任問題』。
よし、畳み掛けよう。
「ここの場所は、錬金術工房の人しか知らない訳ですよね? それを依頼されたという事は?」
「事は~?」
「わ、わかりました! わかりましたよ! 採掘は許可できませんが、要は採掘物が手に入れば良いのでしょう?ここの保管庫に、硝石と硝酸がありますから、それをお分けします!」
やった! 譲歩を引き出したぞ。
何か何処かの権力を匂わせた作戦、大成功。
責任者らしき男は、保管庫へ行って、2つの瓶を持って帰ってきた。
「これですね。こっちの液体が、硝酸。こっちの粉末が硝石です。持ち運びには、くれぐれも注意して下さい。冷暗所で、光をなるべく当てない、振動も駄目です。出来ますか?」
「大丈夫です。」
私は、再び魔導鍵を取り出して、魔導倉庫を開いてみせた。そこへ2つの役瓶を収納すると、鍵を抜いて仕舞った。
「これでハンターズへ納めれば、任務完了ですね。」
「今の魔法は一体……、あの紋章は、サントラム学園の物ですよね? という事は、大賢者様が関わっているとか? そういう事ですか……」
「私達は何も言っていませんよ。この事はご内密に。」
勝手に納得してくれた様だ。
ケイティーも『勝手に勘違いして納得してくれちゃったね、そのままにしておこう。イヒヒ。』って耳打ちしてきたけど、ど正解なんだよなーこれ。
「所で、あなた達は何処からあそこへ登りました? ここの建物の前を通った様には見えなかったのですが?」
「あ、反対側の岩場の方から。」
「えっ? あっちにはタイラントバイターが出るって聞いてますけど、出くわさなかったのはラッキーでしたね。」
いやー、出たんだけどね。
「道も険しかったでしょう? こちら側から来れば、街道が整備されてましたのに。」
「「えっ!?」」
窓の外を見ると、ちゃんと街道があったよ。
王都まで一直線っぽいよ。途中に旅籠もあるみたいだよ。
私達のあの苦労は何だったんだよ。
帰り道は、整備された道を快適に歩いて帰りました。
「でも、まあ、良い経験になったよ。森の中のキャンプや魔物との戦闘経験も出来たし。色々勉強になりました。」
ケイティーさんがそう言ってくれるなら、良かったよ。
私も違った意味で勉強になったよ。
ところでさ、ケイティー、髪もお肌もツヤッツヤのぷるんとしてない?
帰りは2日で安全に王都へ到着しました。なんだかなー。
さて、ハンターズギルドへ納品だ。
ケイティーと、二人で大金貨4枚の報酬。2枚ずつ分ける。
それじゃまた、と帰ろうとするので、私は引き止める。
「まって!」
「えっ? 何か用かしら?」
「まだあるでしょう? タイラントが。」
ハンターズのお姉さんに聞くと、肉屋で売るよりも高く買い取ってくれるとの事。
何故ならば、肉屋だと肉の値段にしか査定がつかないけれど、ハンターズでなら、肉、甲羅、爪、牙、等の部位毎に値段が付くからなんだって。
査定窓口の方へ行くと、ちょっと狭いかな。ここで取り出すのは無理そうだ。だって、幌かけた荷馬車位の大きさが有るんだもん。
そう言うと、はあ? と怪訝そうな顔をされた。
「本当にそれ位の大きさが有るんだよ。」
「この子の言っている事は本当よ。」
ケイティにも証言して貰って、係の人に半信半疑という感じで解体場の広いスペースに案内して貰った。
何事かと他の作業をしている人達も集まって来る。
「じゃあ、出しますから、ちょっと離れててね。」
私は魔導鍵を取り出すと、以下略。
でーんと、巨大なタイラントバイターが出現する。
係の人や作業員の人達が目を白黒させてるよ。何度やっても面白いね。
切り取った頭も添えて。ソピア風。
「こりゃあたまげたな。マジかよ。」
「お嬢ちゃん、これはどんな魔法なんだい? さっきの紋章は、マヴァーラにある学校の校章だろう?」
うーん、魔導倉庫の方のインパクトが強すぎて、タイラントの大きさとか、それを冒険初心者の私達二人で倒したとか言う方が霞んでしまったぞ。
魔導倉庫の鍵の件は、今度王都に新設される、サントラム学園の上級学校の卒業時に貰えるアイテムで、私はそれの宣伝デモンストレーションをしているのだと言っておいた。皆欲しそう。まあ、欲しいよね。
さて、タイラントの査定が終わるまで、ケイティーと一緒にラウンジでお茶でも飲んで待っていよう。
「あの鍵さ、魔導師しか貰えないんだよね? ああいうアイテムは、剣士こそ必要だと思うんだけどなー。」
「そうかな? 体力の無い魔導師の方が必要な物じゃない?」
「あー、そうかー。私も魔力あったらなー……いいなー。」
「そうなんだよね、これ、魔力を流して起動させるアイテムだから、魔力の無い人には扱えないんだよね。」
ヴィヴィさんの考えでは、この付加価値をもって学園の受験者数を獲得しようと思っているらしいから、誰彼にも販売するつもりはないらしい。学校を卒業しないと手に入らないのだ。」
「ケイティーはその内、誰かとパーティーを組んで活動して行くつもりなんでしょう? だったら、パーティー内の魔導師の誰かが持っていれば事足りるんじゃない?」
「それはそうなんだけどねー。やっぱり自分でも欲しいじゃない?」
「まあ、欲しいよねー。」
「ねえ、ソピアちゃん、私とパーティー組まない?」
「ああ、私は冒険者をやるつもりは無いんだ。採集採掘と国境越えのライセンスのつもりで取得しただけだから。」
「なーんだ、そうかー。良いコンビニなれると思ったのにな。」
そんな話をしていたら、あっという間に時間が過ぎて、査定が終わったと係の人に呼ばれた。
「えーと、タイラントバイターの査定結果が出ました。」
私は、ロックドラゴン程度の金額に成れば嬉しいかな。
「肉の買取値段は、血抜きがしっかり出来ているので、大金貨32枚。」
あれ? 思ったより少ないぞ。
「牙や爪、骨等の買取価格で大金貨12枚。」
「「おお!」」
「甲羅がまるごと一頭分で、大金貨120枚。」
「「120枚!? え? 本当に!?」」
「ええ、甲羅は色々な道具や工芸品に利用出来るので、価値が高いのですよ。対して、肉の方は、少々硬くて滋養強壮の薬膳的な使い方しか出来ないので、少し値段が落ちます。」
甲羅はべっ甲細工みたいな感じなのか。肉はすっぽん的な?
「そして、血抜きは完璧だったのですが、その肝心の血が殆ど採集出来なくて、その分の査定は、金貨5枚です。血を密閉容器で持ってきて下さっていれば、一番値段が付いたんですがねー。美容効果が高いので、貴族の御婦人達に高価で売れるのですよ。」
「「なんと!!」」
私はケイティーを凝視した。
これか! あの時全身で浴びたから!
髪はつやつや、お肌はまだ10代だから殆ど老化は無いにしても、赤ん坊のようにプルンプルンだ。
「「ああーしくったー!!!」」
私達は、買取金額を2分して、大金貨84枚と小金貨2枚ずつに分け、ハンターズを後にした。
「「しくったー!!!」」
私達は、思わぬ大金を得たと言う喜びよりも、大金を逃した方のショックの方が大きくて、二人して落ち込んでいた。
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