第34話 岩場の魔物
森の中では、剣士のケイティーが先頭で、魔導師の私が後ろを歩く。
魔物とエンカウントした場合に、その方が戦い安いから。
少し開けた所へ出たので、私はケイティーに声をかけた。
「ケイティー、ちょっと止まって。」
「どうしたの?」
「何かが右斜め前方から来る。距離100。2体。」
「何が来ているのか分かる?」
「そこまでは分からないけど、ぴょんぴょん跳ねながら近寄ってくる。これはきっと、王都の女子か、首刈り兎。」
「1頭任せていいかしら?」
「了解。」
私達は、左右に別れて、王都の女子または、首刈り兎の襲撃に備えた。
「距離10。来る!」
10ヤルト先の茂みから2頭の首刈り兎が飛び出して来た。
ケイティは既に剣を抜いていて、飛びかかってくる首刈り兎の頭を、一撃で落とした。
私はというと、魔力で空中でキャッチ。そのまま首をねじ切って落とした。
私は、直ぐ様その2頭の後足を持ってぶら下げて血抜きをする。
内蔵処理は、ケイティに任せて、処理の終わった兎を近くの渓流に沈めて冷やす。
「魔物も王都の女子も、逃げてもしつこく追いかけて来るから、ロックオンされたらその場で対処しないとならないのよね。」
「……ちょっといい? ツッコまないからね。」
「仲良くなれたと思ったのに、イケズ。」
日もそろそろ傾いてきたから、丁度この開けた場所で野営する事にしましょう。
森の木の上の方を見ると、チラチラと光学魔法らしき歪みが見える。プレデターか。
お師匠はしっかり付いて来ているみたいだけど、木の上で眠るのかな?
ケイティは、簡易テントを設営し、私は2本の木の間にロープを渡してハンモックを吊るした。
「ハンモックは寒くないの?」
「森の中ではダニとか刺す虫が居るから、地面に寝るのはお勧めしないよ。」
それを聞いて、ケイティは直ぐにテントを畳んで、私の木の隣にハンモックを吊るし始めた。
「交代で寝るから、ケイティは用意しなくて良いよ。眠る時は、羽虫に刺されない様に寝袋に頭まですっぽり潜ってね。」
私のハンモックのロープは、木から虫が伝って来ない様に木酢液に浸して乾かしてある。虫対策は万全だ。
寝床の用意が出来たら下草を刈って、竈の設置。
首刈り兎を引き上げて、それぞれ自分の狩った方を半身だけ食べる事にした。
半身の更に半分を、ステーキにして、残りを細かく刻んで近くで採って来た野草と一緒にスープにする。
お腹が一杯になったら、じゃんけんをして、1つ刻半(3時間)ずつ、見張りに起きて、交代で眠る。
「ソピアちゃーん、朝ですよー。」
「んー、まだ暗いよー?」
「暗い内から出るんじゃないの? 宿はそうしたよね?」
「宿からは街道だから良いけど、暗い森の中を歩くのは危ないから。」
「えー、そうなんだ。」
色々と、学ぶ事の多い、新米冒険者であった。
「はいこれ、苦茶。」
「なにこれー、真っ黒なんですけど。うえー、苦いー。」
「これを飲むと、目が覚めるのよ。お子ちゃまねー。」
チッ、やり返された。
火の後始末をして、荷物を纏めて出発。
再び、時々方角を確認しながら、ケイティーを先頭にして歩く。
2日目は、代わり映えしない森の中で、特に変化は無かった。
3日目になると、沢を渡った辺りから景色が変わり始めた。殆ど岩場になった。
「ちょっと待って、何か動くものが有る。背後の距離50。近い!」
「つまり、今私達が歩いてきた所って事?」
「うん、じっとして居られると、魔力で探知出来ない。多分、岩か何かに擬態してて気が付かなかったんだと思う。私達が近くを通ったので、反応したのかも。」
「魔物かしら?」
「うーん、亀?」
背後から、幌馬車位の大きさは有りそうな黒い塊がゆっくりと追って来る。
「うわ、ガメラだ。」
「ガメラ? あなたの地方だとそう呼ぶの?」
見た目はワニガメの超でっかいやつ。
動きは遅いけど、どこまでも追ってくる厄介なやつ。これも魔物に分類されている。
「タイラント・バイター。」
「その甲羅は、様々な高級工芸品に利用され、肉は珍味。ただしその巨体ゆえ、1頭丸ごと市場に降ろされる事は稀である。」
「何解説してるのよ。逃げるわよ!」
「えー? 高く売れるのに、勿体無いよ。狩ろうよ。」
「無理無理無理! 剣で太刀打ち出来る相手じゃないわ! 逃げましょう!」
「逃げても無駄だよ。魔物だもん。逃げても寝込み襲われるだけだよ。」
「じゃあ、どうしようっていうのよ!」
「私がやる!」
やるとは言ってみたものの、どうやって倒そう。
そこらに転がっている、大きめの岩を持ち上げて、力いっぱい殴りつけてみる。
ゴーン!!
バッカーン!
岩が砕け散った。硬すぎるでしょこいつの甲羅。
「頭狙わないと駄目だよ! 頭頭!」
ケイティーが傍の岩に隠れながら、アドバイスをくれる。
取り敢えず、魔力で頭を鷲掴みにして、クルンと捻ってみる。
体ごとひっくり返った。
「カメって、ひっくり返すと起き上がれないんだっけ?」
「そんな訳無いでしょ! そんな生物が居たら、とっくに絶滅しているわよ。」
ひっくり返ったタイラントは、首をニューっと伸ばして体を起こした。
そして、意外な程伸びる首を、ひゅっと伸ばしてがチンと噛み付こうとしてくる。
私の祖力バリアは突破されないとは思うけど、でっかい口が間近に迫ってくるのは結構怖い。
結構首の動きは速く、ちょっと危ない場面も何回かあった。これは、首の射程の外に逃げるしか無いか。
「うわっキモ! 結構首伸びるんだね。じゃあ、これならどうだ!」
もう一度ひっくり返して、頭を掴んで引っ張って首を伸ばした。
このまま引きちぎるか、ねじ切ってやろうかとも思ったけど、ケイティーに何もさせないのでは彼女の経験にならないと考え、手伝ってもらう事にした。
「ケイティー! ケイティー! 私が押さえつけてるから、首を切って!」
「やだやだ! こわい!」
「それでもハンターか! 私を見捨てて逃げるの!?」
「そんな!! う、うん! わかったよ! 絶対に放さないでよ!」
ケイティーは、岩陰から飛び出すと剣を抜いて、亀の所まで走って行って、剣を振りかぶった。そして、思いっきり渾身の力を込めて、伸び切った首に叩きつけた。
まるで分厚いゴム板でも叩いているみたいに、剣が跳ね返される。
タイラントも逃れようと、前足を振って、鋭い爪でケイティーを引っ掛けようとする。
私は、暴れるタイラントを逃さない様に必死に頭と甲羅を押さえつけた。もしも、頭を離してしまったら、ケイティーが噛まれちゃう!
ケイティーは、爪を避けながら、それでも必死に何度も剣を首に叩きつけている。
その内に、僅かながら傷が出来始め、血が吹き出して来た。
ケイティーは、一番大きそうな傷口に、剣を縦に突き刺す。
何度も刺していると、剣が半分ほどぐいっと入った。多分、首の骨の間に上手く刺さったのだと思う。
ケイティーがその剣の柄を、思いっきりガンガンと蹴ると、剣は柄元まで刺さり、ブシューっと勢いよく血が吹き出した。
「やった!」
「うえー、やったのは嬉しいけど、ドロドロだよー。」
ケイティーは、頭から全身に血を浴びて、ドロドロの体でその場に座り込んでしまった。
血の海の中に血まみれの少女が座り込んでいる光景は、なかなかシュールだ。
私は、ジタバタ暴れるタイラントを動かなくなるまで押さえつけ、その間にケイティーは、沢まで引き返して汚れた服と体を洗いに行った。
ケイティーが戻ってくる頃には、亀はすっかり動かなくなっていたので、ケイティーの剣を借りて首を完全に切断し、斜面を利用して血抜きを行う。
「あのさー、ちょっといい? これ、血抜きしても持って帰れないでしょう?」
「いや? 持って帰るつもりだけど?」
「どうやって!?」
「魔導倉庫。」
私は、ヴィヴィさんから貰った魔導鍵を取り出すと、右手に持って魔力を込めた。
すると、目の前の空間に、光るサントラム学園の校章が浮かび上がり、真ん中の鍵穴に鍵を差し込んで右に撚ると、校章に縦に線が走り、両開きの扉の様に左右に開いた。
タイラントバイターを指定すると、その空間に吸い込まれ、扉が閉まって、鍵を引き抜くと光る校章も消えた。
「えっ!? 今のが魔導倉庫? 試験の時に言ってたやつよね? 試験官は意味が判らなかったみたいだけど、凄過ぎない!? それに、今空間に現れたのって、サントラム学園の校章よね? どういう事?」
ケイティー、なんかすごく興奮している。自分の母校の校章だもんね、そりゃそうか。
「うん、あの学校の校章だね。」
「ちょっと、その鍵、どうやって手に入れたのよ! 教えなさいよ!」
うーん、なんて説明したらいいのかな。
今度新設される、サントラム学園の上級学校の卒業証代わりのアイテムだって言えば良いのかな?
そう言うと、あなた一体何者? 何で12歳のあなたがそれを持っているのよ、って話になる。
それは、宮廷魔導師筆頭のヴィヴィさんに試作品を貰ったからだと言えば、宮廷魔導師とあなたとの関係は? とツッコまれる。
友達だと言えば、どうやって知り合った?
私のお祖母ちゃんの弟子だと言えば、あなたの祖母は誰だと、根掘り葉掘り。
「へー、あなた、魔導師リーンの孫だったんだー!」
「お祖母ちゃんを知ってるの?」
「知ってるも何も、超有名人よ。私の母が体を悪くして、リーンの村を訪ねようと思ってたんだけどね。旅費を溜めている最中に、去年死んじゃった……間に合わなかったの。」
「そうなんだ。私のお祖母ちゃんも去年死んじゃったんだよ。」
「えー! そうだったんだ! それじゃあ、私の母はどっちにしろ助からなかった訳か。」
「うん、ごめんね。」
「ううん、あなたのせいじゃ無いわよ。」
しょんぼりしている私をケイティーが慰めてくれた。
なんか、それ、立場が逆じゃんと思ったら、なんだか可笑しくなってきた。
「うふふ……」
「あははは……」
なんか、二人でしばらく笑いあった。
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