第27話 飛行術
「薬品混ぜて火薬を作っても、それは魔導じゃないよね?」
「う、うむ、ソピアのくせに鋭い所を突いてくるな。」
何だよその、のび太のくせにみたいな言い方は!
大賢者って、知識量と魂の清廉さを併せ持つ、人類最高峰の人格者に与えられる称号じゃないのかよ!
ガキだよ、このジジイの中身はただの中二病のガキだよ!
「ヴィヴィさんが居る間は、ちゃんと魔導のお勉強をしよー。」
「そうですわ。私(わたくし)は王命を受けて新型魔導の勉強に来ているのですから、ソピアちゃんに賛成ですわ。それに、よく考えたら私(わたくし)は、ソピア先生の弟子なのです。」
「あー、はいはい、わかったわかった。で、どの魔導をやる?」
2対1で分が悪くなったお師匠は、渋々といった感じで私達に賛同した。
じゃあ、どれやろうか。長距離砲撃?
「私(わたくし)、魔道具を使わないで空を飛べる、飛行術をやりたいです!」
ああ、あれかー。
お師匠もヴィヴィさんもイマジネーション空間(ソピア呼び)を知覚出来ているみたいだから、何とか出来るかな?
「それでは、転んでも怪我し難い、フカフカの草原地帯へピクニックに行きましょうか。」
「まあ、良いですね、それでは私(わたくし)がサンドイッチを作ります。」
「あ、いや大丈夫、今度は私が作るから。ヴィヴィさんは、その他の準備をして下さい。」
ヴィヴィさんがなんか残念そうにしていたけど、これだけは譲れない!
各自準備が済んだら、玄関前に集合。
私が飛んで運ぶよ。
荒れ地を超えた先の山の中腹に、丁度良い草原の広場があるんだ。
「ではここにフェルトの絨毯を広げて、サンドイッチのバスケットとお茶のポットと、果物を魔導倉庫から取り出して下さい。」
「おいおい、本当にピクニックをするつもりなのか?」
「順番にやってもらうので、待ってる間の手持ち無沙汰解消グッズですよ。二人して何処かへすっ飛んで行かれてしまったら、管理しきれないからね。」
よちよち歩きの赤ちゃんが転ぶ前に抱きとめるお母さんの心境だよ。
「では、お師匠からやってみて。何回か見ているから、なんとなく要領はわかるでしょう?」
「そうじゃな、ヴィヴィよりは一日の長があるからな。」
偉そうに、自分はただ運ばれてただけなのに。
「まず、多次元軸空間へ拡散しているはずの反作用を自身の身体へ戻ってくるようにするんだったな。そして、逆立ちの要領で地面を押す……と。と、と……」
お師匠は、流石に何回も見ているだけあって、覚束無いながらも何とか身体を浮かせる事に成功したが、1ヤルト程度持ち上がった所でバランスを崩して落下した。落下と言うか、逆立ちが横に倒れたみたいな感じか。
私は、咄嗟にそれを空中で受け止め、そっと草原へ降ろす。
「いやー、バランスを取るのがなかなか難しいわい。」
「でも、変態的器用さのお師匠なら、すぐに慣れると思うよ。ちょっと自主練してて。」
私は、お師匠は慣れるだけと見て、その間にヴィヴィさんへ理屈的な部分を解説する。
ヴィヴィさんとお師匠の醜態を笑いながら、それを教材に細かい所も解説してゆく。
実際、上手な人を見るのも手本になるとは思うのだけど、下手な人を見るのも勉強になるのだ。
私は、あそこが良くない、ここは上手だと解説しながら、ヴィヴィさんへ実況解説をしてゆく。
「どう? なんとか出来そうな気がする?」
「はい、イメージでは出来そうな感じがあります。やってみて良いですか?」
「いいよ、お師匠ーー、交代ーーー!」
お師匠が不格好にフヨフヨ飛んで来るのを見て、ヴィヴィさんは手に持っていたカップを置いて、お師匠とタッチ交代。
「ふう、なかなか疲れるわい。じゃが、なんとか掴めそうじゃな。問題点も分かって来た。」
「ヴィヴィいきまーす!」
少し離れた所へ走って行ったヴィヴィさんが、片手を挙げて合図をした。
ヴィヴィさんは、両手を広げると、その姿勢のままスウッと上空へ飛び上がった。
そして、10ヤルト程の高さまで上がると、そのまま8の字飛行をして見せた。
やっぱりこの人天才だ。下手すると、お師匠よりもすごいかも。
「というか、ソピアとヴィヴィは感覚派じゃな。理屈先行のわしよりもこういうのは得意なのかもしれん。」
ヴィヴィさんは、私達の頭上まで飛んで来ると、直ぐ側にふわりと着地した。
「どうですか? 私の飛行は。」
「上手上手ー! お師匠よりも上手ー!」
私がてをパチパチ叩いて褒めると、ヴィヴィさん嬉しそう。
お師匠は、ちょっと面白くないという表情。
「私(わたくし)、解っちゃいました。ロルフ様の様に身体の重心を支える様にするのではなく、体全体を面で押し上げる感じにすると上手く行きます。地面を押さえる力も点ではなくこれも面で、大体、身体を頂点とする正三角錐の底面で押す位の感覚でイメージを構築すると安定します。」
すげえ、1を聞いて10知るタイプの人だ。
「じゃが、本来身体へ返らないはずの反動を受けている訳じゃから、これの切り替えを瞬時に出来る様に訓練してからではないと、一般に広めるのは危険じゃろうな。」
そうなんだ、流石にお師匠は、問題点にすぐに気が付いたみたいだ。
このままでは、飛行中に攻撃魔法は使えない。
攻撃の反動がモロに身体に跳ね返ってきてしまうから。
飛行に使う魔力と、その他に使う魔力を完全に分離して別個に使えなければ駄目なんだ。
私は、お師匠達を持ち上げて一緒に飛行しているので、既に出来ている。
お師匠もその問題点に気が付いた程なので、これも大丈夫だろう。
ヴィヴィさんは……出来ちゃうんだろうなー、この人。
お師匠も安定して飛行出来る様になってきた所で、特訓の第二段階。
物を持ち上げながら飛行して、攻撃魔法も撃ってみる。
はい、別個に魔力を運用する特訓です。
まず、私がやってみる。
言い出しっぺが出来なかったら恥ずかしいから。
「よしっ!」
お師匠とヴィヴィさんを持ち上げ、私も空中に飛ぶ。
その状態で、ファイヤーボールを発射。
うん、何とか出来た。ひやひや。
「と、こんな感じ。」
「すごいすごい! ソピアちゃん!」
先生扱いしてくれたり、子供扱いしたり、ちょっと立ち位置を見失いかけています。
「じゃあ、今度は順番にお師匠。」
「よーし。」
一旦地面に降りて、今度はお師匠が私とヴィヴィさんを持ち上げて、飛ぶ。
お師匠は難無く一連の操作をこなせる様だ。
流石、玉の上で一輪車に乗りながらハーモニカ吹いてジャグリングするような魔導が出来る人!
次はヴィヴィさん。
二人を持ち上げる。これは出来る。
だけど、なかなか飛び上がれない。
飛び上がろうとすると、私達のバランスが崩れて落としそうに成る。
すごいグラグラして、酔いそう。
かなり苦労してるみたい。
結局、2人を持ち上げつつ、浮かび上がる所までは出来たのだけど、その状態で自在に飛行するという所までは行かなかった。
攻撃魔法を撃つ所までは行きませんでした。
こういう、マルチタスクは女性の方が得意らしいのだけど、そうでも無いのかな。
「うーむ、これは、単純に魔力量の問題、かのう……」
お師匠の分析によると、マルチタスクは出来ているみたいなんだけど、分散させた分魔力のリソースが足りなくなるという事みたい。
だから、2人を持ち上げるのに魔力を使うと、自分を浮かせる魔力量が足らなくなる。飛ぶ方に必要な量を回すと、私達を落としそうに成る。という事みたい。
では、という事で、私一人を持ち上げてなら、飛行する事は出来た。
しょぼいながら、小さなファイアーボールも撃つ事が出来た。
ヴィヴィさんの今後の課題は、魔力量の増量だね。
お師匠によると、魔力の量はある程度鍛えれば増やす事が出来るみたいなので、ヴィヴィさんには、今後はマナのスタミナアップに力を入れてもらう事になりそうです。
ヴィヴィさん、ちょっと悔しそう。
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