第25話 魔導倉庫

 「この魔導倉庫は、一般公開しようと思っている。」



 お師匠がそう宣言した。

 ただし、問題が有る。そう、セキュリティー問題。

 皆が同じ空間にアクセス出来る様になると、盗難問題とかが気になる。

 気になると言うか、絶対に発生する。

 それをどうするか。



 「はい、空間を一定範囲、魔法で囲ってしまえば良いのでは無いでしょうか?」



 ヴィヴィさんが、手を挙げて発言をした。



 「でも、それだと常時魔法を発動していなければならないから、難しくない? それに、悪用しようと思えば、自分だけ囲わないで、他人の領域を解除したりしてしまったりも出来るよ。」


 「こういう、決まり事の裏をかく悪巧みは、ソピアの得意とする所じゃろうな。わしとヴィヴィで色々アイデアを出して行って、それ破る、裏をかくアイデアをソピアに出して貰うとしようか。」


 「まあまあ、ソピアちゃん、悪巧み出来ちゃうのねー。頭が良くないと出来ない事よー。」



 え、何? ヴィヴィさんって、褒めて伸ばすタイプの人?

 下手すると、男を駄目にするタイプの女だ。



 「はい、では、免許制にして、信用できる人格者にだけ公開するというのはどうでしょう。」


 「人間、完全に信用出来る人なんて居ないよ。それに、人格者というのは、裏を返すと人に甘い人でもあるし、身内にも甘いかも知れない。その人が自分の家族や友人にこっそり教えてしまう可能性は無いとは言えないし、その教えられた人が他の人に、そしてその人が悪い人にって感じに、結局は無制限に拡散してしまう危険性は避けられないと思います。」


 「では、物理的な倉庫をその空間に入れてしまって、その空間にしかアクセス出来ない様な魔導鍵と錠を組み込んでおくと言うのは?」



 うーん、レンタル倉庫的な感じかー。

 レンタル倉庫を空間に置いて、契約した個人しかその特定の倉庫を開けられない様にすれば……って、出来るのかな?



 「それも、魔導解析出来る人なら、鍵外しなんて出来てしまうのでは無いでしょうか? それに、その魔導鍵を維持するのに、結局は魔力の常時発動は避けられないのでは?」


 「うー、ソピアちゃん、ああ言えばこう言うっていうのは女の子として可愛くないですよ! どんなセキュリティを施したって、破れる人は破っちゃうんです! 金庫破りが居るからって、大事な物を金庫に仕舞うのはよそうとはならないでしょう?」


 「まあなー、そうそう破れない鍵をかける位しか思い付かんなぁ。」



 お師匠もヴィヴィさんも私が何でもかんでも否定するので、アイデアに行き詰まってしまった様だ。

 まるで、政権与党のやる事成す事を全否定する、野党の反対政党になったみたいで気分が悪いぞ。

 でも、ツッコミポイントが有るって事も事実なんだよなー。

 私、どんなアイデアが出てきてもツッコむ自信あるもん。



 「はい、私からアイデアがあります。物理倉庫を空間に入れてしまうというのは、有りだと思います。多分、それしか解決方法は無いかも。それで、魔導鍵の件なんだけど、魔導付与の鍵と錠の物理アイテムを使う様にしたら良いと思います。これなら魔力の常時発動で消耗するリスクは避けられます。魔法付与の物理鍵を契約した本人にだけ貸与するようにしたら良いのではないでしょうか?」


 「鍵の盗難対策はどうするつもりじゃ?」


 「うーん、あ、大丈夫です。本人しか使えないような仕掛けを施します。」


 「本人しか使えない鍵じゃと? そんな事ができるのか?」


 「出来ます。本人認証です。例えば、目の黒目の所、虹彩と言いますが、ここの模様は、一人一人で違っていて、同じ模様の人は一人も居ません。他、指の先の渦巻き模様も同じですこれを指紋と言います。掌の紋、掌紋も同じ。手の甲の血管の模様も同じ人は居ません。究極的には、身体の細胞を構成するDNAが最高の個人認証アイテムになります。」


 「でたな、異世界の知識。」


 「鍵は手に持って使うものなので、親指の所の指紋で認証するようにしたら良いのではないでしょうか?」


 「だったら、鍵は要らないのではないかしら? 鍵で認証し、その鍵で開けるという2段階セキュリティでは、使い勝手が悪くないかしら。倉庫の扉が指紋認証で開くようにすれば良いだけでは?」


 「ぐぬぬ、それもそうでしたね。」



 くそ、否定された。

 私って、人のアラを探すのは得意でも、自分の意見が否定されるのは弱いんだなー。今気がついたよ。凹んだよ。

 これからは、人の意見は尊重することにしようと心に決めた私であった。



 お師匠とソピアと私で色々詰めた結果、使用を認めた人には、空間内倉庫にアクセスする権限を与える。

 その倉庫の扉は、掌紋で開く事が出来る。

 使用を認めるのは、王都に新しく設立する、サントラムの上級学府卒業生に限る。

 それ以外の者が空間にアクセスする事は制限しないが、セキュリティに関しては保証しない。

 というか、倉庫以外に物が置いてあったら、回収して拾得物として扱う。

 取扱に関しては、王都で法整備してもらう。公開はその後とする。



 「こんな感じじゃろうかのう。」


 「運営上の抜けや穴や裏技は、適宜塞いでいきましょう。」


 「うーん、空間なんて、誰の物でも無いんじゃから、皆の好きな様に利用して貰いたいんじゃが、結構堅苦しい事になってしまいそうじゃのう。」


 「そこに戻っちゃうの? 今まで話し合ってたのを全否定ですか?」


 「いや、まあ、すまん。そうじゃな。」


 「最も、その空間を知覚出来る様になる者がどれだけ現れるかに寄りますからね。悪事に利用可能な性質上、最初から厳しくしておくに越した事は無いと思いますよ。」



 まあ、お師匠が渋るのも分からなくはないよ。

 海だって南極だって月だって宇宙空間だって、誰の所有物でも無いのだから、誰がどう使ってもいいじゃんってのは分かる。

 でも、どうしても使える人と使えない人が出てきてしまう以上、税金逃れの隠し場所になってしまったり、密輸とかの悪事に利用されたりしてしまう可能性があるし、とんでもない価値の資源が発見されてしまって奪い合いになってしまうという可能性も無くはないわけで、国単位の管理が必要となるのは仕方がないのかもしれない。



 「その様な面倒な部分は、宮廷魔導師のヴィヴィに任せてしまっても良いかのう。王都のエイダムや法務担当役人等とよく話し合って詰めてくれ。わしゃ疲れたよ。」



 お師匠は、好きな研究や勉強なら2日貫徹も厭わないくせに、面倒な決めごとは数十分で音を上げるんだな。

 まるでガキですよ。



 「こら、そういうお前は。」


 「へい、ガキです。」


 「へい、おばちゃんです。」



 仕事のできるおばちゃんが、お師匠と私の戯れに乗ってきたよ。

 やっぱりこの人好き。





 「それはそうと、ソピアちゃんが未だ魔法倉庫を使えてないわ。」



 おばちゃんがパンッと手を叩いて、話題を切り替えた。

 そうだった。私も忘れてたよ。

 私が使いたがってたのに。



 「ぐぬぬぬぬぬ……」


 「ソピアは空間は認識出来ておるんじゃろう? どうなっとるんじゃ?」



 魔力四方八方に放射して、イマジネーション空間(ソピア命名)を探ってみるも手がかりを掴めない。

 イマジネーション空間の反作用を持ってくる事は出来たのに、何故だ?

 認識する事は出来ているのに、そこに手を突っ込めるイメージが湧かない。

 触れる気もしない。

 どうなってんの? と一番思っているのは私だよ!



 「ぐぬぬぬぬ……ハァハァ……」


 「だめか?」


 「うーー! くやしーー!!」



 何故私だけ触れないんだー!!!

 悔しくて、右手の拳にありったけの魔力を纏わせて、目の前の空間を殴りつけた。



バンッ!!! ……ビキッ!



 「ビキ?」


 「あらやだ。」



 目の前の空間にヒビが入った。




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