第23話 ドリュアデスの集団魔法

 一番深い所へバシリスコスを封印して、その回りを残土で埋めてしまおうという計画。

 ここなら、火山の熱で毒は分解されるかも知れないとの見込みもあるらしい。


 森での工事が済んで、実際の搬入が始まるまでに、私の引き抜いた岩盤を崩して、有用な資源は回収したいとの事なので、それは許可した。


 さて、次は森の災害現場の視察。

 お役人のオジサマは、ここまででもう用は無いのだけど、森の現場も見学したいという事で、一緒に連れて行く事にした。

 私の飛行術で、ほんの数分の距離だしね。






 森へ近づくと、遠目なんだけど、なんか森の木々の間から閃光が発せられているのが見えるよ?

 あの光って、まさか、ね。



 「あれが現場か? ロルフ、あの森で一体今何が起きている?」



 王様がちょっとキョドっているよ。

 あれは、エウリケートさんの仕業だろーなー……

 エルフや魔族達のお勉強はどうなったのかな?



 シュババババ!

 ドドーーーーーーン!! バリバリ!



 物凄い閃光と音がしている。

 まるで、落雷みたいな音がしているんだけど、気のせいかな? 木の精だけどね。

 ちょっとというか、かなり怖いんですけど。

 一体何をやってるのかな?



 私達は、森の現場に着地すると、それに気が付いたドリュアスの一人がエウリケートさんを呼んできた。

 作業を一旦中止して、皆が集まってくる。



 「まあ、大賢者様とソピアさん、封印予定地の目処は付いたのですか?」


 「うん、バッチリだよー。この人達が上手くやってくれたよ。」


 「そうですか、それはよかった。どうも有難うございます。森の住人一同を代表しまして、お礼申し上げます。」



 エウリケートさんに手を握られた、お役人と鉱山管理者のオジサンズが顔を真赤にしているよ。

 オジサマキラーだね、この人。人じゃないけど。

 衣装も、よく見ると挑発的なんだよね。

 お役人のオヤジは、ムッツリスケベと見た。



 「それで、その後ろの方々は?」


 「王都の王様とお妃様と、宮廷魔導師さん。」



 私の適当な紹介に、王様達は嫌な顔もせずにエウリケートさんに挨拶をした。



 「エイダムと申す。」


 「妻のエバです。」


 「宮廷魔導師筆頭を務めております。ヴィヴィと申します。」



 「ちょっとちょっと、ソピアちゃん、この方ってもしかして、森の管理者と呼ばれるドリュアスでは……」


 「はい、ドリュアデスの長を務めます、エウリケートと申します。」



 にっこり。

 王妃様の耳打ちが聞こえたのか、エウリケートさんから挨拶があった。

 人間の王様がエイダムさんだとしたら、エウリケートさんは全ての大森林の王様みたいなものだから、対等だよね。

 特に謙るへりくだる事も無く、かといって礼を失する事の無い、対等な立場として挨拶を交わしている。



 「今ここで行っていた閃光の正体は、あなた達の魔法なのですか?」



 ヴィヴィさんが興味津々でエウリケートさんに尋ねる。



 「はい、そこのソピアちゃんが考案した、熱電撃魔導です。それを私達で集団魔法化させて規模を拡大しました。今お見せしますね。」



 そう言うと、エウリケートさん達が何やら念じ始めた。

 と同時に、台風の様な突風が吹いたかと思うと、巨大な旋風が巻き起こり、見上げるとそれが私達の頭上から、森の木々の更に上空に登って行き、森の上空に赤い球体が出現する。

 それが見る見る巨大化して行き、色も赤からオレンジ、黄色、青と変わって行き、遂に白色に変わり、明るさも増して行く。

 やがて、太陽の様な明るさに到達すると、その巨大な球体は円盤状に押しつぶされ、ゆっくりと回転し始める。

 回転は徐々に加速して行き、中心の密度は薄くなり、およそ100ヤルトはありそうな巨大な円環トーラス状となり、高速回転している。

 まるで、巨大なUFOが下りてきたみたいだ。



 「これはすごいな!」



 エイダム王が呟いた。

 皆も同じ感想だろう。

 どんな魔導か知っている私も、言葉も出ないよ。



 そして、ドリュアデスの作り出した放電の全長はもまた、100ヤルトを越えている。



ヴヴーーーンーーーーーバリバリバリ!!



 白化領域の端から端まで、一回で撫でてしまえる巨大さだ。

 発電電力量は、落雷に匹敵する、いや、凌駕する、10億ボルト、30万アンペアの出力は出ているであろうと思われる。



 「こりゃあ、凄いわい。これならエルフや魔族達を駆り出さなくても、ドリュアデスだけで何とかなりそうじゃわい。」



 目も眩む明るさが辺りを照らす。

 オゾンのニオイが鼻を付く。

 本当はこれ、オゾン臭じゃないらしいけど、まあいいや。っていうか、何臭なの本当は?



 「あ、言い忘れたけど、この光はなるべく直視しないでね。目に悪いから。」


 「「「「「えっ!!? そういう事は早く言って下さいー!!!」」」」」



 ドリュアデス達から抗議の声が聞こえるよ。



 「んとね、この光は、太陽と同じ種類の光だから、直接見ると目を痛めるし、日にも焼けるよ。」


 「「「「「あらあら、たいへん! どうしましょ。」」」」」



 おばちゃんかよ。



 「早く言って下さい。もう、ずいぶん見ちゃったわ。」


 「だって、もう勝手に作業しているなんて思わなかったもん。まだ座学の段階だと思ってたんだもん。あなたたち、習得早いよ!」


 私、ちょっとふくれっ面。



 「そんなに心配しなくても、ちょっと位は大丈夫だって。太陽と同じに焼けるから、なるべく素肌は出さないようにね。」



 目に関してはどうしようかな?

 UVカットのガラスなんて無さそうだしなー。

 溶接用マスクなんて物も無いし。

 魔導で再現できるイメージも湧かないし。

 そうだ!

 私は、腰のポーチから小さなナイフを取り出すと、薄い木の皮に細いスリットを刻んだ。

 その場に有るもので即席で作ってみた。

 これをね、こうやって、目の所に当てるの。

 エウリケートさんに渡して、顔に付けてみてもらう。



 「でも、これでは暗くてよく見えませんわ。」


 「閃光が凄すぎるから、それで作業中は丁度良く見えるはずだよ。」



 確か、アラスカのイヌイットが使っている、スリット型の遮光器サングラスなんだよね。

 そう、遮光器型土偶の目の所のあれです。

 雪原で反射する太陽光の強い光を緩和するための道具です。

 これでも無いよりはマシでしょう。

 今度、UVカットサングラスなんて作ったら、王都で売れるかな?

 確か、紫外線吸収剤は、酸化チタンとか、酸化亜鉛だったはず。

 チタンはともかく、亜鉛なら手に入りそう。あ、その前にガラスが無いや。でも、砂浜とかで珪砂が見つかれば……



 「ソ、ソピアちゃん? あなたのその知識は一体……」



 なんか、私の独り言を聞いて、王様達がなんか不審がってるよ。

 人間って、自分の理解を超える事象に遭遇した時って、思考を停止しちゃうらしいよ。

 聞き漏らさない様に聞き耳を立ててるのは、お師匠と、ヴィヴィさんと、エウリケートさんだけだ。



 エウリケートさんが処理した白化領域の地面は、綺麗な鏡の様な水面よろしく、平面ガラスの様に真っ平らな床になっていた。


 これが透明ならなー。

 白砂でやったら、透明ガラス出来ないかなー。


 出来上がった板を1ヤルト四方程度のサイズに切断していって、そのタイル状の板を廃棄処分場へ運び込むのだ。



 「あっそうだ、バシリスコスの死体はどうなりました?」


 「それは未だ手付かずです。どうしたものかと思いまして。」


 「切り出したタイル6枚で箱を作って、その中に入れて封入してしまえばいいよ。」


 「それは名案です。では早速。」


 「お、おい、ロルフ。あの子一体どうなっているんだ?」



 エイダムが最もな疑問を呈して来た。



 「あいつは、異世界からの転生者なんじゃよ。元々は科学者だったらしいぞ。」


 「はーん、それで、っておい! それが本当なら、大変な事だぞ!」


 「そうよ! その知的財産は、国での保護対象に成るはずよ。」


 「そうじゃったか? まあ、わしが保護しておるんじゃから大丈夫じゃろう。この事は内緒で頼む。」


 「わかった、管理はロルフ、オマエに任せる。お前達も決して口外するでないぞ。」


 「ははっ!」


 「御意に御座います。」



 王様、眉間を抑えて考え込んじゃったよ。

 お師匠と関わると、頭痛いよねー。



 「こりゃ、お前の事じゃぞ!」


 「てへ、ごめんちゃい。」



 ぺろっと舌をだしてみせるも、誰も古いとツッコんでくれない。悲しい。



 「あ、あのー。」



 ヴィヴィさんが何か言いたそう。



 「飛行魔法とか、この熱電撃魔法とか、私でも習得は可能なんでしょうかー?」


 「おお、そうだ! 王宮の魔導師が出来ない事を森の精霊やエルフ達だけが出来るっていうのは、大問題だぞ。色々な意味で。」


 「まずは、このヴィヴィを弟子入りさせてくれ。」


 「ソピアにか? まだ12歳の小娘じゃぞ? その小娘に宮廷魔導師筆頭が弟子入りって、かっこ悪くないか?」


 「で、では、名目上だけ、ロルフ師の弟子という事で。」


 「なんだか、面倒臭いのう。ソピアがそれで良いなら構わぬが?」


 「別に構わないよ。ヴィヴィさんさえ良いなら。」


 「やった! やった!」



 なんか、小躍りしてる。

 良い歳したおばちゃんのくせに、なんだか可愛いぞ、この人。



 「ヴィヴィよ、必ず習得してくるのだぞ。これは王命である。」


 「はっ! 畏まりました! 必ずや物にして帰って参ります!」



 よっし! 炊事掃除洗濯雑用担当ゲットだぜ!





 ここでの作業は、ドリュアデスが巨大魔法で均し、魔導習得組が小さくカットして、その他のエルフや魔族達が搬出作業をする、という役割分担で行くことになった。

 人間側は、埋設地の提供と、その他必要物資等の提供、必要ならば、魔導師部隊の貸与という事で落ち着いた。

 ドリュアデスの集団魔法怖いわー。



 私達は、やる事が無くなってしまったので、鉱山管理者さんや王様達を送り届けてから帰る事に決めた。

 王様達を王宮に送った所で、王妃様に引き止められてしまった。

 年寄り連中は、旧交を温め、私は彼等のおもちゃになり、ヴィヴィさんはそんな私から何でも学んでやろうと、一挙手一投足に至るまでガン見されて過ごした。怖いよ。

 お風呂にまで付いてくるんだから、参ったよ。恥ずかしいよ。

 頭を洗ってもらっちゃって、嬉しかったけど。

 カーチャン……


 帰る時に、お土産のお菓子をいっぱい持たされた。王様達が食べてる様な超高級菓子だよ。

 またちょくちょく遊びに来る事を約束させられ、というか、確約させられ、帰途に付く。

 王妃様にぎゅーっと抱きしめられて、ちょっと涙が出た。

 ママン……



 「さあ、懐かしい、森の我が家へ帰ろう!」



 そう宣言して、私は、お師匠とヴィヴィさんを持ち上げ、飛行体制に入ると



 「あ、宿をチェックアウトするのを忘れとった。」



 お師匠ー!



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