第22話 王様とお妃様

 雑談にばかり華が咲いてしまったので、ここに来た本来の目的である、廃坑の譲渡について王を交えて話し合った。



 「金属製品の価格が急上昇していた理由として、鉱山が一時的に閉鎖されていた事は報告を受けていたが、森ではその様な変異が起きていたとはなぁ。」


 「ああ、全部繋がっておる話じゃよ。」


 「それで、バシリスコスの死骸の封印と汚染残土の廃棄場所に、廃坑が丁度良いだろうと思い、お願いに来たわけじゃ。」


 「ふむ、確かに、その災厄を森の中で食い止められたのは僥倖だ。放っておけば、やがて王都までやって来ていた可能性もあるからな。そうでなくても、農地を横切られでもしたら、その損害は莫大なものとなっていただろう。」


 「それでな、廃坑の譲渡の件なんじゃが……」


 「あ、いや、個人にその様な後処理を任せるわけにはいかん、国を治める者として、この件は国の責任に於いて対処しよう。法務大臣、直ぐに書類を用意してくれ。」


 「はっ、しかし、埋蔵物や水脈系の調査をしませんとなんとも……」


 「じゃから、それは現場の管理者に聞けば判る事じゃろうと。」


 「わかりました、ですから私が現地に同行致します。」


 「それは助かる。現地では既に話は付いておるでな、廃坑を廃棄物処理地として使わせてもらう書類上の手続きさえ済めば、直ぐに作業に取りかかれる。」



 やっぱり、偉い人の鶴の一声はすごい威力だ。

 このお役人の人も、悪い人じゃないんだろうけど、お固いんだよね、良い意味でも悪い意味でも、お役所仕事と言うか何と言うか。 あの学園長と似たニオイがするよ。



 「サントラムの学園長は、私の元上司で御座います。」


 「……!! 何? 私って、サトラレか何かなの?」


 「それが何かは知りませんが、顔に良く出ておいでですよ。将来決してギャンブル等為さいません様、ご忠告申し上げます。」



 何皆私の顔を見て笑ってるんだよー!



 「では、私は旅支度をして参りますので、少々お時間を頂きたく存じます。」


 「なに、パーッと飛んで行けば、あっという間じゃよ。帰りも送ってやるから、そのままで良いぞ。」


 「飛行魔法ですか、私は初めての体験なのですが、少々興味がありました。」



 それを聞いていた王様達も身を乗り出してきた。



 「おほん、おほん、いやいや、余も現地を直接この目で確認する必要があろうな。」


 「あ、ずるいですわ、妾も飛んでみたいです。」


 「わたくしも宮廷魔術師として、あの速度の飛行魔術を是非体験してみたいですわ。」


 「え? そんなに?」



 私は、意外と人数の増えてしまった事にちょっと戸惑った。

 王様達に何かあったら、すっげー怒られそうなんですけど。

 まさか、侍従とかも連れて行くとか言わないよね?



 「全部で6人か、ソピア、大丈夫か?」


 「うん、まあ、この位なら余裕だね。」



 その会話を聞いていた王様が、私達の会話に割り込んできた。



 「えっと、どういう事?」


 「ああ、言っておらんかったな、飛行術はこのソピアのオリジナルじゃ。」


 「「「「!」」」」」


 「まあ、なんという事でしょう。この歳でオリジナル魔導を考案出来るなんて。」


 「ここへ来る途中にわしも理論を教えてもらったばかりでな、未だ実践はしとらん。」


 「え、安全なの?」


 「心配は要らん、わしとソピアでコントロールを分担しておるからのう、安全面はわしが保証するよ。」


 「な、なら大丈夫か。」



 え、なにそれ、感じ悪ー。



 「じゃあ、少し時間をくれ。支度をしてくるから、中庭に集合という事で。」






 中庭でお師匠の飛行術の実践を見ていたら、最初に宮廷魔導師のおばさんがやって来た。

 魔道具を使う飛行術との違いを体験出来るのは、すごくワクワクすると言う。

 万が一に備えて、というか、まあ大丈夫だろうけど、ヴィヴィさんには、王様達の魔道具でのサポートをお願いしておいた。

 大丈夫とは言っても、安全策は念には念を入れて、何重にも施しておくに越した事はないからね。


 次にやって来たのは、法務大臣のおっさん。

 この人は顔色一つ変えないけど、緊張してるんだろうな、ちょっと顔が青白い。


 最後に、王様と王妃様夫妻がやって来た。

 軽装の冒険者みたいな革メインの装備をしている。

 森の中で動き安そうで良いかもね。



 「では、出発するとしよう。」


 「いくよー!」



 お師匠の掛け声で、皆一瞬身体を固くするが、お構いなしに私は魔力で持ち上げてみせた。



 「ねえ、重くないかしら? 妾、重くない?」


 「軽い軽い! この10倍だっていけるよ。お師匠、また風防と空調お願いね。」


 「おう、まかせとけ。」



 王妃様が心配そうに聞いて来た。

 やはり、お師匠がどんなに安全を保証してくれたとしても、私みたいな子供に命を預けるのは心配なのだろう。


 私が、地面を軽く蹴ると、ふわりと身体が浮き上がる。

 建物の高さよりも高く上昇してから、水平飛行に切り替える。

 年寄りが多いので、身体の負担を考えて、加速は徐々に加える様にする。

 時速400キロ到達まで、1Gの加速で凡そ40秒。

 およそ20分の飛行して、今度は1Gの減速で停止、鉱山の管理棟前の空き地にふわりと着地した。



 「なんと、これはたまげた。この様な短時間で鉱山へ到着してしまうとは。」


 「妾もこれ程快適に飛べるとは思いもよりませんでした。」


 「こ、この魔法は、習えばわたくしでも出来るのでしょうか?」


 「……」



 4者4様の反応で面白い。

 役人のおっさんだけは、顔色一つ変えないけどね。

 騒いでいると、管理棟の扉が勢いよく開いて鉱山の管理主任が飛び出してきた。



 「こ、これはお早いお着きで、大賢者様。それと……ぎゃああ、こ、国王様と王妃様まで!」



 やかましい人だな。



 「書類は、役人を連れてきたので、現地調査の後に直ぐに書類は書いてくれるって。候補地すぐに見せて。」


 「ははっ! この様に早く戻られるとは思いもしなかったので、まだ選考段階だったのですが、3箇所ばかり候補は考えております。ささ、足元にお気を付け下さい。」



 鉱山のおっさんに廃坑の一つに案内された。

 かなり古い時代に廃棄された坑道らしく、岩の掘り方も雑だし、周辺は樹木に覆われている。



 「ここは駄目ですね。樹木に覆われているという事は、地下水脈が近いのでしょう。汚染が流出する懸念があります。」


 「成る程、では、次へ。」



 次は、木の生えていない岩場で、比較的新しい坑道だ。



 「岩盤で、地下水脈は無し、立坑の深さは900ヤルトで理想的です。が、何故ここは廃坑になっているのですか? 他の坑道が近い様ですが。」


 「はい、岩盤が異常に硬く、これ以上掘り進むのは困難と判断しまして、廃棄されました。」


 「では、資源は未だ在りそう? 将来技術が進めば、再び掘る可能性はあるのでは?」


 「その可能性は無くは無いですが、廃棄と決めたらもう掘らないでしょう。」


 「近くの坑道から資源が在るとなれば、こちら方向へ坑道が伸びてくる可能性は無くは無いですね。ここは保留としましょう。」



 3番目は、火山に近い岩場。



 「ここは、地熱の問題で、掘り進める事の出来なくなった坑道です。硫黄を掘っていました。あまり深さは無いのですが……」


 「ふむ、ここなら問題は無さそうではあります。ただ、深さが足りなくて、残土を全部搬入できるかどうかの懸念はありますが。」

 「最悪、バシリスコスだけをここに封印して、残土は他の所を探すかのう。」



 全部の条件を満たす所って、探すのは難しいのかもね。

 どれかを妥協するしかないのかな?



 「諦めるのはまだ早いぞ? 坑道の周囲も特に問題は無いな? ソピア。」



 私は無言で頷くと、地面から斜めに地下へ伸びる坑道を覗き込んだ。



 「ちょっと皆離れてて。」



 皆が離れるのを見計らって、坑道の先へ魔力を込めると、地震の様な振動と共に、巨大な岩盤をくり抜いた。

 坑道の穴を中心にその回りを直径20ヤルト、長さ100ヤルトの巨大な円筒形にくり抜いた感じだ。


 その場に居た皆が、白目を向いた。



 「また魔力が増した様じゃな。もう一丁奥へ掘れるか?」


 「出来るよ。」



 穴の奥へもう100ヤルト追加。



 「もう一丁……」


 「ストップ! ストーップ!! マグマに突き当たりそうで怖いです。その辺でやめておいて下さい。」



 法務大臣のおっさんが慌てて止めてきた。

 鉱山管理者のおじさんは、私に近寄って来て、鉱山掘削者のスカウトを始めた。


 やらねーよ?


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