第21話 王都

 外まで見送ってくれた管理者は、私達が挨拶もそこそこにそのままビュンッと飛んで行ったのを見て、腰を抜かしていた。


 マヴァーラの町から王都までは、道なりに馬車で2日の行程だけど、直線距離なら100キロには満たない。

 時速200キロなら、30分だ。

 だけど、今の私は、その半分で飛んでみせるよ。



 「お師匠、飛ばすから、前方に魔力で風防作って。私は飛行に集中するから。」


 「よし、任せろ。」


 「それから、寒いから暖房も。」


 「わ、わかった。」



 時速400キロ飛行だ。

 王都まで20分程度で着くよ。


 魔法使いは、良く、魔法を付与した道具を使って飛ぶみたいだけど、ミサイルみたいに飛んで行くのは珍しいだろうな。

 ほら、前の方を肘掛け椅子に乗って飛んでいた、どっかの魔術士が目を丸くしていたよ。

 流石、王都だけあって、飛べる魔術士は居るみたいだね。


 王都の外郭城壁が見えて来たので、門前に着陸ーっと。



 「こ、これは何事か! ややっ、これは大賢者様ではありませんか!」



 外郭門の衛兵がびっくりしていたよ。

 身分証を見せて、ちゃっちゃと手続き完了。王都内に入る事が出来ました。

 さて、何処へ行けば良いんだ?

 登記所みたいな所があるのかな?



 「で、何処へ行けばいいの?」



 お師匠に聞いてみると、「さあ?」という返事。

 マジでポンコツか!



 「きっと、王宮に居る役人じゃろう。最悪、国王にでも聞けば判るじゃろ。」


 「ええーーーー…………」



 なんなの、友達にでも会いに来たみたいに国王に会えちゃうの?

 あ、友だちというか、元戦友なんだっけ。

 仲が良かったのかな?



 「たのもー!!」



 門兵に声を掛けても無視された。

 イギリスのバッキンガム宮殿の近衛兵みたいに微動だにしないよ。こっちを一瞥もしない。

 勝手に入ろうとすると、動くんだろうな。


 お師匠が、大門の横にある、小さな通用門っていうの? 職員とか関係者が出入りする門の所にある、地球でいう所の守衛室みたいな詰め所に私を引っ張って行った。

 コンコンと窓を叩くと、横柄そうな上官らしき、ちょっと良さそうな制服を着た恰幅の良い兵士が顔を出して、私達をジロリと見てきた。

 私の顔を一瞥して、お師匠の顔に視線が止まったかと思うと、3秒程硬直し、再起動したかと思ったら、その巨体に似合わないスピードで転がる様に扉から出て来た。



 「こ、これは大賢者ロルフ師では御座いませんか、今日は国王陛下との御会見のお約束でも御座いましたでしょうか?」


 「いや、エイダムとの約束は無いよ。ちょっと、北の鉱山の管理をしている役人に、ちょっとした手続きを頼みたいと思って来たのじゃが。」



 エイダムというのは、国王の名前ね。

 太っちょ兵士は、来賓者予定リストをパラパラと捲りながら、汗を拭いていた。



 「約束も無しにいきなり来てしまってすまんかったのう。無理そうなら日を改めて出直すとするが……」


 「ちょ、ちょっとお待ち下さい、このまま帰したとなったら私が叱られてしまいます! 今、問い合わせますので少々お待ちいただけますか?」



 太っちょさんは、部下の兵士に伝令を申し付けると、城内に走って行かせた。

 暫くして戻ってきた兵士がぽっちゃり系兵士に耳打ちすると、どうやら許可が下りたみたいで、うやうやしく城内に招き入れてくれた。

 私達は、デブちんに丁寧にお礼を言って、案内の兵士の後に付いて行った。


 通されたのは、王城内に幾つも有る応接室の内の一室。

 結構高そうな調度品の数々と、ふっかふかのソファーに高級木材、黒檀とか紫檀とかなのかな? のテーブルが置いてある部屋。


 ふかふかソファーでボヨンボヨンと弾んで遊んでいると、文官らしきお役人が入ってきて、ジロリと睨まれた。



 「鉱山の土地を取得したいとの事ですが。」


 「土地というか、廃坑の一つを譲って欲しいんじゃ。」



 お役人は、地図と書類を見比べながら、何かを書き込んでいる。



 「鉱山というものは、国有の土地でして、それを民間の個人に販売、譲渡するというのは、少々難しいのです。」


 「しかし、現場の方ではもう話は付いていて、後は書類上の許可だけが必要なんじゃがのう……」


 「廃棄物埋設目的ですと、地下水系の調査等の周辺区域への影響も調査しなければなりませんので、1年位の期間を設けて綿密に……」



 あーもう、グダグダうるせー!

 そんなの現場の人間に聞けばすぐ判るだろう!

 早く対処しなければ、森の汚染が広がるんだよ! 1年なんて待ってられるか!


 と、切れそうになっていると、ドアの向こうの廊下をバタバタ走る足音が聞こえて来た、と思ったら、勢いよくドアが開かれて



 「み、見つけました! やっぱりロルフ様だ! ぐはっ!」



 魔術士の服を来た女性が飛び込んできて、更にその彼女が突き飛ばされて、お師匠と同じくらいの歳の男女が飛び込んで来た。



 「ロルフ! 王宮に来たのなら、何故余に最初に挨拶に来ない!」


 「そうですよ! 水臭いじゃないの。」


 「よお! エイダムとエバか、久しぶりじゃな、息災か?」


 「息災か? じゃねーし、それはこっちのセリフだ! なかなか会いにも来ないで、寂しかったぞ。」


 「いや、すまんすまん、この様な堅苦しい所は苦手でな。ところで、お前さんらが突き飛ばしてそこで伸びておる女性は大丈夫なのかな?」



 最初に飛び込んで来た魔導師の女性は、ここへ来る途中に空で追い越したあの人らしい。

 秘書らしき人に助け起こされて、よろよろとこっちへやって来た。



 「わ、わたくしは、宮廷魔導師筆頭を務めております、ヴィヴィ・バイオレットと申します。あの、大戦の時には、リーン姉様の下で見習いをしていました。王宮の外で飛行魔道具を使って空から市街地の調査をしていました所、矢の様な速度で飛来するお姿をお見受けしまして、こんな事が出来るのはもしやと思い、駆けつけた次第で御座います。」


 「ほう、リーンの弟子とな……」



 この人、結構若そうに見えるけど、そこそこの歳みたいだな。

 しかし、よく喋るおばさんだな。



 「私余達は、門衛からロルフが訪れたと聞いて来賓室で待っていたのに、全然来ないから案内した兵士を呼びつけて問い質したら、一般来客用の応接室に通したと言うではないか、それで慌てて……」



 一般来客用でこの豪華さなのか、王宮すげー。



 「ところで、こちらの可愛らしいお嬢さんは?」


 「ああ、紹介がまだじゃったな、こいつはリーンの孫じゃ。」


 「おお!」


 「まあ!」


 「リーン姉様のお孫さん!」



 え、ばあちゃんって、そんなに有名な感じなの?



 「あらあら、まあまあ、じゃあ、この子はロルフのお孫さんなのね!」



 王妃様、それを暴露しちゃうのか。



 「いやいや、あやつは田舎へ帰って、結婚したはずじゃぞ? なあ、ソピアよ。」


 「そうかしら? あの子の性格からして、他の男と結婚するなんて考えられないわ。」


 「そうなのか? だって現に、なあ?」



 お師匠が私に同意を求めるように見てくるけど、無視だ!



 「あらー? だって、あなた達二人、恋仲だったじゃないのー? この子、よく見ると、若い頃のあなたの面影が有るような気がするわよ。」



 うーん、ジジババの恋バナに突入しそうでちょっと嫌かもー。



 「そうだ! 良いこと思いついたわ。ちょっと待って、妾が血脈鑑定してあげるわ。」



 王妃エバが変わった形の眼鏡を、豪華そうな装飾が施された小箱から取り出し、顔に装着した。

 装着と表現したのは、この眼鏡は所謂ピンチ眼鏡というやつで、地球の我々が知っている、つるを耳に掛けて使う眼鏡とは形状が異なるのだ。

 丸いレンズの、つるの無い眼鏡を想像して貰えると、その形が大体分かるだろう。

 では、どうやって掛けるのかと言うと、2つのレンズの間がクリップになっていて、目の間の鼻の所を挟んで固定する様になっている。鼻梁の所が高い欧米人顔ならではの構造なのだ。


 エバがその眼鏡を装着すると、レンズの部分が赤く光った。魔力の流れを感じる。

 どうやら特殊な術式を組み込まれた魔道具らしい。

 これで、血脈関係を見破る事が出来るのだという。

 なにそれ、そんなのでDNA鑑定みたいな事が出来ちゃうの?

 凄いけど、なんか、あまり使い道の無さそうな魔導だなー。



 「そうでも無いわよ。貴族の跡継ぎ問題とか、そこそこ需要はあるの。」



 ……! あんたもか!

 こわいよもう、この世界の老人達。

 人の心読みすぎだよ!



 「間違い無いわね、この子はあなたとリーンの孫よ。」


 「なんと……」


 「ロルフ、お前、知らないでこの子を引き取っていたのか?」


 「いや、あいつ、何にも言って来なかったし、てっきり、向こうで結婚したものとばかり……おい、ソピア、お前知っておったな? 何故言わなんだ!」


 「まあまあ、良いじゃないの。ところで、リーンは元気にしてる?」


 「あ、おばあちゃんは去年死にました。」


 「まあ!」


 「では、親御さんは?」


 「両親は、私が幼い頃に魔物に襲われて死にました。私はリーンおばあちゃんと二人で暮らしていたんです。」


 「……そうか、それでロルフがこの子を引き取ったというわけか。」


 「いや、こやつ、わしの隠遁結界をあっさり破りおってな、餓死寸前だったので、飯食わせたらそのまま居付いたんじゃ。リーンの孫というのは、つい6日程前に知ったばかりじゃ。」



 お師匠と私の出会った経緯いきさつを国王と王妃達に説明する羽目になった。

 お師匠は、知らなかった事とはいえ、親の責任を何一つ果たせなかった事に落ち込んでいた。


 それはそうと、私達がここに来たのって、廃坑の譲渡手続きの為なんじゃなかったっけ?



 それと、ヴィヴィさんとお役人さんが、ずっと蚊帳の外ですよー。



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