第19話 お師匠はテロリスト?

 お師匠がベッドに入って暇なので、テーブルの上に置いてある、テキストをパラパラめくってみた。

 へー、簡潔に解り安く纏められていて、良く出来てるじゃん。

 でも、この文字は、お師匠の字じゃ無いな。

 エウリケートさんの字なのかな?


 と、いう事は、一晩中勉強をしていた訳じゃ無くて、理解は途中で完了して、残りの時間はテキスト作成していたって事じゃん。


 分散コンピューター、どんだけだよ!

 私は、テキストを放り投げて、仰向けにひっくり返った。



 「この世界、チートな連中が多すぎ!」


 「お前もな。」


 「うわっ、びっくりした。まだ寝てなかったんかーい!」



 部屋の中でダラダラしていたら、半日位でお師匠が起き出してきた。



 「もういいの? 睡眠は十分なの?」


 「ああ、あまり寝すぎると、却って思考が鈍る。」



 ああ、そういう事もあるか。

 所で、お腹空いたー!



 「なんじゃ、勝手に食ってれば良かったものを。」


 「一緒に食べようと思って、待ってたんだよ!」



 一階の食堂に降りると、料理人のおじさんが、今日は久しぶりにロックドラゴンの肉が入荷したと教えてくれた。

 ああ、あの肉屋さん、一般にも少し販売したのか。

 私達は、ロックシチューと黒パンのセットを注文し、食べながら今日の予定を話し合った。



 「わしは、今日は爆弾の材料を買いたいな。」



 どこのテロリストだよ!



 黒色火薬の材料は、硝石と硫黄と木炭。

 これはなんとか手に入るかも。

 ニトログリセリンの材料は、グリセリンと硫酸と硝酸。

 これは難しいかな、この世界にグリセリンなんて有るのかな。

 綿火薬の材料は、綿と硝酸と硫酸。

 これも何とか手に入りそう。

 テルミット反応は、アルミニウムが手に入らないだろうな。

 粉塵爆発は、小麦粉でも木炭の粉でも、粉末状の可燃性の粉ならなんでもいい。

 ガス爆発は、ガスが手に入らないだろうな。

 核爆発は……魔力で何度か実験すればなんとか出来そうな気もするけど、止めておこう。

 というか、存在自体をお師匠には伏せておこう。


 これらは、安全対策を十二分に確保した上で、お師匠の研究の為だけに留めて、民間には技術を決して流出させないという確約をお師匠と取り交わした。本当に危険な実験なのだ。

 最も、自分の手足を吹き飛ばしてしまった所で、お師匠なら魔導であっという間に治しちゃうんだろうけどね。

 ただ、核爆弾の製造とか、お師匠は知的好奇心に抗えるのかどうか、かなり怪しい。

 科学者って、そういうものだから。



 お師匠と二人で街へ繰り出して、パン屋で小麦粉、道具屋で綿と木炭、錬金術工房で硫酸を購入して、『書架』へ次々と放り込んでいった。

 意外と、硝酸や硝石が手に入らない。

 ここで手に入る材料では、粉塵爆発位しか実験出来そうにないので、ちょっとほっとした。

 硝酸が手に入っちゃったら、ちょっとヤバイかも。


 あ、今気が付いたけど、ガス爆発は出来るぞ。

 しかも、元手無しに。


 どうしよう……これは伏せておくべきか……



 「それも教えなさい。」


 「!!!」



 やっぱり、人の思考読んでるだろジジイ!!



 「いや、読んどらんよ。何か考え込んでいたからカマかけただけじゃ。」



 いやいやいや、今私の思考と会話になってたじゃん!


 そっちがそのつもりなら、『スイーツ食べたい』



 「……」



 スイーツ食べたい。



 「…………」



 スイーツ食べたいんだけど!



 「無視するなよ!!!」


 「え? な、何じゃ急に。」



 ちくしょう!



 「スイーツ食べたい!」


 「…………」


 「おい!」


 「え?」


 「今、声に出して言ったんだぞ!」


 「おお、すまん、最近とんと耳が遠くてな。」



 ぐぎぎぎぎ。

 やっぱり火薬の製法は教えるの止めよう。巫山戯た人間に教えちゃいけない物だよ、あれは。



 「お、こんな所にパンケーキ屋があるぞい。入ってみようかの。今王都で話題と書いてあるぞ。」


 「なんなのよ、もう……」



 当然、この店でも忖度が有ったので、ご丁重にお断りして、店内のお客さんの代金も引き受けて、普通のパンケーキを頂きました。 うめーな、ちくしょう



 「ねえ、お師匠。店に入る度に、店内のお客の代金も払ってたら、そのうち破産するよ。」


 「じゃから、わしはスイーツ店なんぞに入りたくはなかったんじゃ。」



 私に忖度してくれたわけか。



 「買い物は、他に何か必要な物はあったかのう。」


 「うーん、買いたい物は有るんだけど、この町では手に入らない物が幾つか有るね。特に硝酸。」


 「王都の錬金術工房へ行くしか無いかのう。」


 「どこかの洞窟で自然に出来たものを偶然見つけるか、あまり気が進まないんだけど、古い家のトイレの土から採取出来るみたいよ。」


 「なんと! それは本当か。よーし!」


 「いやいやいや、それは探してみて、どうしても見つからなかった場合の最終手段にしようよー。」



 じじい、本気でトイレ掘る気だっただろ。勘弁してー。



 「人工的に作るなら、アンモニアと空気の混合物に白金の触媒を入れて、800度に熱すると出来るよ。」


 「マジか! では、錬金術工房へ引き返そう!」



 私は、ため息混じりに言うと、今度は白金を買いに行こうと言い出した。

 うーん、この。トイレを掘るのを手伝わされるよりはマシか。

 白金、高いだろうなー。






◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇






 「えっ? こんなに安いの? 白金だよ!? プラチナだよ!?」



 白金は、幸い錬金術工房に少し置いてあった。

 値段を聞くと、驚嘆する程に安かった。

 何故だ?



 「はい、偽銀ですからね、使い道があまり無いんですよ。銀の様に貨幣に成る訳でも無いし、かといって武器にするには柔らかすぎる。何かの合成に使えるかと、少し置いていたけなんです。この量で良ければお譲りしますよ。」



 そうなんだよ。昔、白金は、銀と似て非なる金属として考えられていた時代があったんだ。

 銀の様な金銭的価値は無く、物理的には柔らかすぎて利用価値の無い金属として、偽銀(にせぎん)と呼ばれていたんだった。


 小指の爪程も無い小さな物だったけど、なんと、小銀貨1枚で譲ってもらえた。

 触媒に使うだけだから、この量で十分です。

 なんというラッキーでしょう。

 これを地球に持って行けるなら、買い占めて、大金持ちになれるのになー。



 「ほっほ、残念じゃったのう。」


 「うん……、って、おい!」



 お師匠への疑惑は増すばかり。



 「今日は1日、あちらこちら、よう歩き回ったのう。」


 「そうだね、疲れたよ。」


 「もう夕飯時じゃから、何処かで外食しようかの。」


 「やったー! 肉食べよ、肉!」


 「お前は何時も肉じゃのう。」


 「育ち盛りなもんで。」



 大通り沿いの公園前に屋台が出ていた。

 街のレストランも良いけど、こういう所で食べるのも良いね。

 セルフステーキの屋台が有るよ。

 石畳の上に、バーベキューコンロが幾つか出してあって、お客がそれを囲んでいる。

 肉は、屋台である程度の大きさに切りそろえられたスライス肉や野菜が売っている。

 それを必要な分だけ買って、コンロへ持っていって、自分で焼いて食べる方式だ。

 安く肉を食べられると言うので、仕事上がりの労働者達に人気の様だ。

 屋台の店主もただ肉や野菜を切るだけで、調理は客が勝手にやるので楽だし利益率も高いのだろうね。



 「なんとも上手い商売を考えたものじゃな。」


 「これに似た形式のお店は、あっちの世界にもあったよ。」



 肉と野菜を盛った皿を持って、空いているコンロへ行こうとしたら、一つのコンロの集団から声をかけられた。



 「大賢者様とお弟子さんじゃございやせんか!」


 「えっ? あっ! 鍛冶屋の親方!」


 「おお、よく見れば、鍛冶工房の面々か。」


 「ガキ達も居ますよ。ほらっ、ちゃんと挨拶しろ。」


 「ど、どうも、大賢者様、お弟子さん、今晩はー。」


 「何だお前ら、もうちょっとシャキッとしろ!」


 「良い良い、しごかれている様じゃな、しっかり働いておるか?」


 「へい、こいつら中々筋が良いですよ。」


 「そうかそうか、では、今日はわしのおごりじゃ。好きなだけ飲み食いして良いからの。」


 「えっ! まじですか! やったー!!」



 まーた、奢っちゃったよ。

 ドワーフ達に酒飲ませたら、底無しなんじゃないのかな。

 お師匠が私の顔を見て、一瞬しまったって顔をしたけれど、しーらない。



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