第18話 ドリュアデスとお師匠の勉強会
「ま、こんなもんじゃな。質量からエネルギーを取り出すという発想は実に面白い。」
最も、魔力という便利パワーの無い地球では、プラズマを作る為に投入するエネルギーと、そこから取り出せるエネルギーの収支が割に合わないので、核融合みたいな自発的に莫大な熱を発生して自らをプラズマ化する、核反応からエネルギーを取り出すしか方法は無いんだよね。
しかも、プラズマから直に電流を取り出せないので、『熱エネルギー』の方を利用して、お湯を沸かして水蒸気でタービンを回して発電機を回すという、効率の悪い古い発電方法に頼るしか方法が見つからないという現実。
それを考えると、本当に魔力ヤベーって思わざるを得ない。
だけど、魔力ではシステムの中心をどうしても魔力を持っている人の力に頼らざるを得ない訳で、各家庭に一年中24時間切れ目無く、安定した電力を供給出来る、という様な大規模な社会インフラを作る事は不可能なんだよね。痛し痒し。
さて、お師匠も問題無く使えるようになってよかったよかった。
チッ。
「おまえ、今舌打ちしたろ。」
「べつにー。ちょっと見せただけで、簡単に真似されて、悔しいなんてこれっぽっちも思っていませんよ。(これだから天才はもう! もっと苦労するふりでもしろ!)」
さて、実験も終わったし、そろそろ日も落ちるので、宿に帰ろうと言う所で私は踵を返した。
ガン!! パリーン!!
ガンガン!!! パリンパリーン!!!
私は、実験場にした荒地のガラス化した部分を魔力のパンチで叩き壊した。
お師匠は、その音にびっくりして振り返った。
「どうした? イライラしとるのか?」
「べつにー。……あのままだと、雨水が染み込まないから、環境に悪いでしょ。」
「ほう?」
ごめん、うそ。八つ当たり。
お師匠が、頭ポンポンってしてくるよ。
くそイケメンじじい、やめろ!
日も暮れて、丁度夕飯時には宿に到着した。
フロントに来客が無かったか聞いてみたけど、誰も訪ねて来ては居ない様だ。
私達二人は、宿の1階にある食堂で、食事を摂ってから最上階の私達の部屋へ上がった。
言ったかどうか忘れてたけど、私達の部屋は、この宿で一番良い部屋なんだよね。
とにかく広いし、外出から戻ると、部屋の真ん中のテーブルには新鮮なフルーツが置いてあったりする。
「これは忖度じゃないの?」
「どうじゃろうな、これは宿泊料金に含まれているのではないかな?」
判断が難しいけど、好意を何でもかんでも拒否されたら向こうとしても気が悪いだろうから、果物は有り難く頂いておく事にする。
お風呂に入って今日一日の汚れを落として果物を食べながら寛いでいると、ふと机の上に一枚の木の葉っぱが置いてあるのに気が付いた。
「なんだこれ?」
「オークの木の葉じゃな。ドリュアスが来た様じゃのう。」
オークの木というのは、ドリュアデスにとって神聖な樹木らしい。
魔物のオークとは関係無いよ。偶々同じ呼び名なだけ。
私が、そのオークの木の葉の軸の所を持って、くるくる回していたら、葉っぱが勝手に手から離れて宙を舞い、枝が伸びたかと思うと人の形に絡み合い、一人のドリュアスが現れた。
「あ、エウリケートさん、チース!」
「ち、ちーす!」
私が片手を上げて、中指と薬指の∨サイン、バ○カン式挨拶をすると、エウリケートさんも同じに返してくれた。
この人、理由が分かっていないだろうに、意外とノリのいい人みたいだ。
「これ、人間の挨拶ですの?」
「あー、こやつの真似はせんで良い。きっと、異世界の挨拶なんじゃろ。」
「異世界?」
「言っておらんかったか、こいつは異世界からの転生者じゃ。」
「えっ!? そうでしたの? まあ! でも老師、その様な事実を軽々に他者に話しても良いのですか?」
「えっ? 構わんじゃろ? 何かマズイ事でもあるのか?」
「・・・」
「……」
「まあ、思い付きませんね。」
「じゃろう?」
本当にマズイ事は無いのかな? 国に知られたら拉致られたりしない?
まあ、国王はお師匠の元お仲間だから、大丈夫なのかな?
そういえば、変身ヒーローとか特殊能力者とかが正体を隠すのは、何故なのだ?
単なる様式美って事は無いよね。
あれ、何で皆正体を隠すんだろうね?
何かちゃんとした理由が有って、正体を隠しているんだよね? 何と無くじゃないよね?
人間に混じって、人間社会の中で暮らしていくのには不都合があるから……なのかな?
どんな不都合があるというのかな?
日本じゃ正体を隠すのがデフォだけど、アメリカじゃ正体を隠さないヒーローもいっぱい居たよね。
別に私は、ヒーローじゃないけどな!
「ところで、お前さんが来たという事は、術者が集まったという事かな?」
「はい、エルフ600人、魔族200人、森の亡霊50体、リッチー1人程です。」
「えー!? 魔族やリッチーまで居るの? 大丈夫?」
「はい、人間と敵対しているのは知っています。けど、今回は人間の為では無く、皆の済む森を守る為という事で確執を越えて手を貸して貰える様に頼みました。」
「じゃがのう、やってみて解ったのじゃが、これを全員に習得させるには、最低でも数ヶ月はかかりそうじゃ。」
「えっ? そうなんですか?」
「全く学問を齧った事の無い者に対して、ゼロから教えるには、良くて座学で一月、実践で数ヶ月といった所じゃのう。」
「そんなに……」
「じゃから、集まって貰った者達の中から、座学から学ぶつもりの有る有志を選抜して来て貰いたい。残りは土砂の搬出要員として働いてもらえると有り難い。」
「それから、それだけの人数が入る建物も必要だね、最悪、青空教室でもしょうが無いけど。」
「それなら、神殿が使えますよ。そこにしましょう。」
ではそういう事で、とエウリケートさんが帰りかけたので、それをお師匠が引き止めた。
「ちょっと待ちなさい。お前さんは今から勉強じゃ。」
「「へ?」」
私とエウリケート、2人して変な声が出た。私は昨晩徹夜してるんですけど?
「心配するな、ソピアは先に寝ておれ。人に教える事は、わしの復習にもなるからのう。」
そうですか、勉強熱心な事でよろしゅうございますね。
私は美容に悪いので、ここでお休みさせて頂きます。
では、エウリケートさん、頑張って。ご愁傷様。
「え? あ、はい! よろしくお願いいたします。」
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「アーサーーーーーー!!!!」
小鳥がちゅんちゅん鳴いてます。
うーん、よく寝た。
新しい朝だ。
お師匠はあれから勉強会だったみたいだけど、ちゃんと寝れたかな。
エウリケートも、初めて触れる概念に戸惑ったんじゃないかな。
まあ、一月かかる勉強の初日なんだから、最初は理解するのに苦労するかもね。
エウリケートは、夜道ちゃんと帰れたかな。
あっ、そうか、精霊だもんね、関係無いか。
普通に若い女性のつもりで見てたよ。
やれやれ、私、未だ寝ぼけてるね。
お師匠は2日徹夜で疲れているだろうから、起こさない様にそっと……
って、未だ勉強会してたよ! コイツラ!
完徹ですか! 底なしの体力か、このじじい!
「おう、ソピア、起きたか、お早う。」
「お早うございます!」
「ええーーーー……」
二人共、勉強が楽しくて、寝る間も惜しいってか?
何二人共、顔テカテカさせちゃって、爽やかな笑顔だよ!
二人の手元を見ると、いつの間に用意したのか、テキストブックまで有るよ。
何時の間に作ったんだよ!
魔法か? 魔法でなのか!?
「何何、二人共、一晩中お勉強してたの? さわりだけ解説するのかと思ってたよ。てゆーか、そこまでみっちりやるなら、全員集めた場でやったほうが良かったじゃん。」
「人数が多いから、ドリュアデスも教える側に回って貰おうと思ってな。ドリュアデスは、意識が共有しておるから、誰か一人が習得できれば、全員が使えるようになるんじゃ。」
「大規模な集団魔法で一気に処理してしまえば、結構捗ると思うんですよね。」
なにそれ、よく知らないけど、ネットワーク・コンピューティングとか、クラウド・コンピューティングみたいな感じなの? 分散コンピューター的な?
それ、ずるくない?
誰かに勉強してもらえば、私は遊んでても高度な知識を労せずゲット! って、ヤバイでしょ。
しかも、自分は理解出来る力が無かったとしても、繋がってる誰かが頭が良くて理解できれば、それがフィードバックして来て、自分の理解もアップデートされるとか、無敵じゃん!?
あー、でも、個人の恥ずかしい思い出も全員で共有されちゃうのかー……
「では、私は森へ帰って、皆で実践出来るかを検証してみますね。」
「おう、頼んだぞ。」
「え? ちょっと待って、まさか、エウリケートさんも、たった一晩で習得しちゃったの!?」
「はい、理解出来たと思います。」
ネットワーク分散処理、恐るべし。
大天才大賢者といい、ネットワークコンピューターのドリュアデスといい、ここに地球の文明を持ってきたら、あっという間に追い越されそうなんですけど。
私の戦慄をよそに、エウリケートは、小さな旋風と木の葉数枚を残して去って行った。
「お師匠、何顔テカテカさせてるんだよ。臭いから早くお風呂入ってきなさい。」
「え? そうかのう? そんなに臭うか?」
「早く、お風呂に入ってきなさい! あと、ちゃんと睡眠も取る事!」
「わかったわかった、そうギャーギャー言うでない。」
ほんっと子供みたい。じじいのくせに。
スポンジみたいに新しい知識をどんどん吸い込んで行くよ。
課題や仕事が立て込んでいる時に、徹夜ってやりがちなんだけど、実際それ程仕事は捗らないんだよね。
経験則だけど、体感的には、昼間の絶好調の時の半分位じゃないかな。
脳のパフォーマンスが落ちるっていうの?
絶対に仮眠するなりして、脳をスッキリさせてから取り組んだ方が捗るし、時短だと思います。
これも大学生あるあるかな?
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