第17話 街の散策
「
「今、ドリュアデス達が魔術の使える者を集めている最中なんじゃろ。」
「魔法を教える時間も必要だよね、宿の滞在期間は延長する?」
「そうじゃのう……、まあ、資金の心配はせんでも十分有るから、それ程心配する事は無いとはいえ、早く帰って火薬を作ってみたいのう。」
地球で言ったら、即逮捕されそうな事を言ってるよ。
とりあえず、今日明日って事じゃ無いだろうから、今日は町を散策してみることにしよう。
取り敢えずは、町のスイーツを調査する必要があるな。
地球では、男一人でスイーツ店なんて入る勇気は無かったけど、こっちなら正々堂々とスイーツ店に入る特権を得ている。
なにしろ、今の自分は美少女なんだからな。
「あっ! あの店に入ってみよう! 今町で話題のスイーツ店だよ!」
「甘味かい、若い女子ばかりの店じゃのう。」
「いいからいいから、入ろ入ろ!」
お師匠も、可愛い孫を連れた優しいおじいちゃんという体で入ることが出来るぞ。
実は、お師匠みたいに頭を使う学者さん達には、男でも甘味好きという人は結構居る。
脳はブドウ糖を消費するので、体が求めるのだ。
店に入ったら、案の定店内は若いご婦人方でごった返していた。
外のオープンテラスに空席が一つあったので、そこに座ろうとしたら、店員じゃなくて店長が慌てて飛んできた。
「こ、これは大賢者様、この様な吹き曝しの席では無く、奥の方にVIP席が用意してありますので、そちらへどうぞ。」
「いや、わしはここで良いんじゃが。通りを眺めながらが好きなんじゃよ。」
「し、しかしですね……」
店長さんは困り顔だ。
店長の対応に店内全員の注目を浴びる。
なんか、晒し者になっているみたいで恥ずかしい。
「注文いいですかー?」
近くを通りかかった店員に声を掛けると、ガチガチに緊張した顔でやってきた。
「あのね、このパルフェっていうのを2つ。」
「は、はい! パルフェですね、少々お待ちを。」
この世界のパルフェというスイーツは、地球のパフェとは違って、冷たくは無いんだ。大量の生クリームやカスタードクリームにフルーツやコンポート、ジャムなんかを盛り付けたもの。
アイスを作って保存して置く手段が無いからなんだよね。これに滑らかなソフトクリームが加われば、正に
店員さんは、奥へ走っていった。
と思ったら、他の先に来ていた客の注文を差し置いて、真っ先に持って来た。
しかも、持って来たのは、注文した物よりもグレードが上のやつだ。
「ご注文の品をお持ちしました。」
「わぁい。」
私はお師匠の威光のご相伴に預かって素直に喜んでいたのだけど、お師匠は眉間に皺を寄せて、店員に店長を呼ぶように言いつけた。
「こういう真似はやめて欲しいんじゃが。これは引っ込めてくれんか。」
「し、しかしですね……」
店長は汗ダラダラかいている。
確かに今日は暑いけれど、尋常じゃない汗のかきかただ。
「わし等の注文した品は、これではない。すまんが、交換してくれ。」
「はっ、申し訳御座いませんでした。直ちに。」
その豪華なパルフェを持って引き下がった店長の背中に向かってお師匠が一言。
「迷惑をかけた店内のお客さんの分の代金も、全員分わしに付けておいてくれ。わしのおごりじゃ。」
「「「「「きゃーーーーー!!!」」」」」
店内に湧き上がる女子連中の嬌声。
それと対象的に豪華パルフェを食いそこねてぬか喜びした私のムスーっとした顔。
私達は、そそくさと『普通の』パルフェを平らげて、店を後にした。
「お師匠の、いいかっこしい。」
「すまんかったの。しかし、ああいう忖度は好かぬのじゃ。」
確かに、ああいうのを受け入れてしまうと、どんどんと際限が無く祭り上げられてしまい、やがてそれに慣れてしまうと、自分が偉くなったと勘違いしてしまい、私の嫌いな権力を振りかざす嫌な威張り散らした小物へと成り果ててしまう。
これが人の上に立つ者だったり権力者なら、腐り始めの第一歩だ。
本当に偉い人は決して威張らない。
今、この町には、大賢者ロルフが滞在しているという噂が広まっていて、寄る店寄る店で似たような対応をされるのだが、お師匠はその全てを断っている。
中々かっこいいじゃん。
ちょっと小耳に挟んだところでは、町の婦女子の間では、大賢者ファンクラブまであるそうな。
たまーーに町へやって来るお師匠に出会えたら、幸運が訪れるというジンクスまで有るらしい。
ほら、あそこの女子達も通り過ぎるお師匠に気が付いて、二度見アンドきゃーきゃー言ってるよ。
どこのアイドルだよ。
お師匠絶対気が付いているだろ。
全く表情に出さないのな、すげーな。
「そうじゃ、鍛冶工房をちょっと様子見しに行こうか?」
「そうだね、あいつらちゃんと働いているかなー?」
鍛冶工房へやって来たよ。
「親方ー、居るー!!」
奥に向かって大声で呼ぶと、親方が走って出てきた。
「大賢者様とお弟子さんかい。あいつらの様子見ですかい?」
「どうじゃ? しっかり働いておるかの。」
「へい、真面目に修行しております。呼びますか?」
「いや、いい。5日後に来ると言ったしな。今日寄ったのは別の用事があったんじゃ。」
そう言うと、お師匠は書架から大量の金属インゴットを取り出した。
親方はその量に目を丸くしている。
「材料が足りないと言っておったじゃろう? これを引き取って貰えんじゃろうかと思ってのう。」
「こんなにですかい? じゃあ、鋼と鉄と銅と錫を……」
「それだけで良いのか? 全部やるぞ?」
「へ? ただでですかい?!」
「あの少年達を引き取ってもらった恩があるでのう、お礼の印じゃ。腐るものでもないし、必要なだけ持っていってくれ。わし等はそれぞれの種類のインゴットが1~2本ずつ有れば済むからのう。」
「こりゃあまた、豪気な事で。助かりますです。これを普通に売れば一財産でしょうに。」
「少年達をよろしく頼むよ。それじゃ、わしらはこれで。」
「会って行かないので?」
お師匠は去り際に、人差し指を口に当てて、内緒のジェスチャーをした。
一々かっけーな、この好き好き爺め!
「さて、この後は、例の魔法の練習に当てて良いか?」
「そうだね、ちゃんと理解できているかどうか確認しないとね。」
私達は、北門近くの飲食店でお弁当を作ってもらい、北門を出た。
その飲食店でも例によって忖度があったが、丁重にお断りして普通のお弁当を作ってもらったよ。
練習の為になるべく人気の無い場所を探して1時間程歩いていると、丁度良い荒れ地があった。
「ここでいいか。」
「そうじゃな、では早速。」
お師匠は、溜めの動作も無しに、呼吸でもするが如くの自然さで青玉を出してみせた。
「ここからが問題じゃな。一応イメージラーニングは済ませておるんじゃが。」
「そうそう、電子と原子がてんでバラバラに振動しているから、それを全部同じ方向に揃えるの。」
実際は、強力な磁界をかけて行う所だけど、こっちには魔力があるので粒子操作など想いのままだ。
「全て同じ方向へ揃えたら、それを川の流れの様に1方向へ流す。そして、円環状にぐるぐる回すの。」
「こうか!」
「そう、そして、その中から電子流だけを取り出して……」
ジジジジ……ブオーーーーーー!!!!
凄まじい閃光を伴って巨大なアークが現れた。
「制御しっかり。そのアーク放電で地面を均す様に動かせる?」
「ああ、こうじゃな?」
お師匠の前方に、幅6ヤルト、長さ10ヤルト程の面積でガラス化した地面を作り上げてみせた。
「どうじゃ! みたか!」
なんだこの自慢げな顔は。
私がやったのよりちょっと幅が広いのは対抗意識かな?
思ったより大人げないぞ、このじじい。
地面が冷えたのを見計らって、処理面を確認してみる。
「ふむ、凡そ1パルム程度の厚さに、ほぼ均一に処理されておるな。こりゃすごい。」
「当時の人達がやってた方法ってどんなのなの?」
「うむ、やってみせようか。」
お師匠は隣のスペースへ移動すると、一抱え程もありそうな青玉を一気に十数個作り出した。
うわー、器用だなーと思った。
それを規則正しい間隔で、地面に叩き込む。
隙間が開いたら、ご丁寧に小さめの青玉を作って間を埋める様に叩き込んで行く。
およそ、10ヤルト四方程度の面積を処理するのに、200発以上の青玉を打ち込んだだろうか。
「こんな感じでやっておったな。個々人で少し工夫はしとったようじゃが。さて、処理面を確認してみようか。」
冷えた頃を見計らって確認してみると、ガラス化の厚みは均一では無いし、細かい未処理の隙間があちらこちらに見受けられる。
「わしがやってこれじゃからな。慣れない未熟な魔術士だともっと荒い感じじゃった。それでも国中から集めた魔術士全員でとりかかって、全部処理し終わるまでに10数年はかかったかのう。もっとも、汚染範囲は比べ物にならないくらい広かったがの」
うん、魔力の消費も処理精度もスピードも、私の方法が段違いみたいだね。
後は、これを他人に教える為のマニュアルを作らないといけないんだけど。
そこはお師匠に丸投げだ。
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