第15話 科学と魔導の融合点
魔導とは、イメージだ。
どういう原理でその現象が起きているのか、そして、それを起こす為にはどういう方法を使えば良いのか、その仕組を明確にイメージしなければならない。
つまり、科学の発達していないこの世界では、その原理や仕組みを明確にイメージする事が出来ないために、多くの魔導師が、お師匠と同じに魔導を使えないのだ。
だから、電気を知らないこっちの世界の人は、電気系の魔法を使えない。
多分、大賢者であるお師匠も電気や電流という概念を知らないが故に電撃の魔導は使えない。
逆に言えば、イメージさえ出来れば何でも出来る。
魔力操作、地球で言う所の念動力は、巨大な重い物を持ち上げるだけが脳じゃない。
小さな物を精密に動かす。
さらに言えば、原子から素粒子に至るまで精密に操作出来る可能性がある。
素粒子操作出来るなら、それはこの世の中のあらゆる現象を作り出す事が出来るでしょう。
何このチート能力。
私は、改めてこの能力の可能性にワクワクしている。
さて、青いプラズマ球を作り出す方法だけど、お師匠は多分、魔導を使ってファイアーボールの熱球に更に熱を加えているんだと思う。
精錬所に行く手前でお師匠がオーク3頭にそれぞれ使って見せてくれた、3つの魔導にヒントが有る。
3つ目のは、1つ目のファイアーボールと2番目に見せてくれたものを組み合わせるんじゃないかと睨んでいるんだよね。
2番めのやつは、多分、マイクロウェーブみたいな物なんじゃないかな。
マイクロウェーブ自体は知らないのだろうけど、熱に関する研究の結果、熱とは分子の振動だという事を突き止めて、それを応用しているんだと思う。
流石、大賢者と呼ばれるだけはあるね。
惜しむらくは、この世界の文明が、お師匠のレベルまで到達していなくて、誰もお師匠の魔導を理解出来ないし、真似出来ないという所。
このままでは、お師匠の魔導はお師匠一代限りで消えてしまうという可能性がある。
きっと、私がこの世界に転生したのも、神様か何かがそれを惜しんだからなのかも知れないね。
「さあ、私の魔導を見るが良い!」
お師匠のやり方に少し手を加えてみよう。
断熱圧縮により、高温になった空気の塊を生成。
そして更に、分子振動を加速、加速、加速、……
分子運動がある一定値を超えると、原子から電子が離れて、それぞれ別個に振動を始める。
これがプラズマ状態。
そして、その原子と電子の状態を荷電粒子という。
ここまでは、お師匠と同じ。
この電子と原子の振動方向を揃える。
今までバラバラに好き勝手に振動していた、荷電粒子の振動方向を全て同じ方向へ揃える。
そして、トーラス状に回転。
ここから、電流を取り出す。
電子だけが一定方向へ流れているのなら、それは即ち電流だ。
この時点でプラズマの温度は2億度を超える。
地球には、これに似た装置が有る。
トカマク型核融合炉という。
しかし、そこから電力を取り出す方法は、一般的な原子炉と同じ、発生する熱を使って水を沸かし、水蒸気でタービンを回す方法しか今の所無い。
だけど、このプラズマの荷電粒子から直接電気を取り出す方法が、理論上存在する。
それが、MHD発電(電磁流体発電)だ。
ただ、高温のプラズマの中に突っ込んでも無事な電極を作れないために、未だに実用化には至っていない。
というか、2億度に耐える物質なんてこの世の中に存在しないのだからしょうがない。
だけど、魔導ならそれが可能だ。
トーラス状に回転する荷電粒子の電子の塊から、電子流だけを取り出す!
ブワゥーーーーーーーン!
私の目の前に、幅5ヤルトの巨大な輝く円弧が現れた。
「アーク放電。」
その温度はおよそ数万度にも及ぶ、巨大な電流のアーチだ。
膨大な電力のエネルギーは、空気をプラズマ化し、昼間の様な光を発している。
温度は青いプラズマ球には及ばない。だけど、青玉の熱エネルギーはすぐに拡散してしまい、長時間維持出来ない。
だから、青玉は電力を作り出す
そこから生み出される巨大な電流を使って、アーク放電を作り出す。
放電は、空気を激しくプラズマ化させ、熱と光を発生する。
温度は数万度に落ちるが、土を溶解するには十分な熱量だ。
エネルギーを作り出すリアクターと、そのエネルギーを使って熱を作るアーク発生電極に分け、継続的に熱発生を維持するための装置だ。
そのアーク放電の電弧が、白化領域の手前から向こう側までを舐めて行く。
電弧の通った跡は、土が融解され、溶岩の様に輝いた後に、冷えて岩床の様に固まって行く。
幅5ヤルトのガラスの道がこちら側から向こう側へ出来上がった。
「こんなもんかな、それで、この後どうすればいい……の……か、な?」
私が振り向くと、そこにはポカーンとだらしなく口を開けて呆けている、お師匠とエウリケートが居た。
「今、一体、何をしたのじゃ?」
「何って?」
「いやいや、今の魔導は一体何じゃ? とんでもない光を放っておった。」
「はい、まだ目がチカチカしてます。」
「お師匠が言った通りに、汚染表土を溶かして固めただけだけど。」
「あー、うん、おほん、ソピアよ、その魔導をわしに説明しなさい。」
ニヤリ。
「さてはお師匠は、今のやり方が分からないんでしょう?」
「うむ、わしの魔導に似ておるのじゃが、何かが違う。何かお前独自の工夫をしておるじゃろう?」
「まあね、そんなとこかな。」
「それを教えてくれ、頼む。」
あれれ? お師匠が素直に頭を下げたよ。
これがこの人の怖い所なんだよね。
どんなに格下だろうと目下だろうと、自分が学ぶべき物を相手が持っていると知れば、躊躇いなく頭を下げることが出来る。
うちのクソババアが惚れるわけだよ。まったく。
カッケーよ、おじいちゃん。
「そうだなー、お師匠の『書架』と交換で教えて、あ・げ・る(はぁと)」
「なんじゃそりゃ、もう。書架は帰ったら教えると言っとったじゃろうが。」
「うん!」
私の満面の笑顔をお見舞いだー!
「ちょっとその前に、お師匠の魔導をもう一度やってみせてくれない?」
「おう、良いぞ。」
お師匠は、オークの時と同じ様に、青いプラズマ球、通称『青玉』を作り出した。。
そして、白化領域へ近づくと、何を思ったのか、それを横方向へ引き伸ばして、地面に下ろした。
プラズマは、地面を溶解するが、その熱量をあっという間に奪われ、精々処理できた地面の面積は2ヤルト四方程度だった。
「その、熱量を失わずに、向こうの端まで連続で処理出来るだけのパワーの秘密が知りたい。」
「いいよー、理論から説明すると、ここで立ったまま解説するのは難しいから、宿に帰ってから座学の時間だ!」
「よし、約束じゃぞ、ワクワクするのぅ。」
なんだよ、キラッキラしてるよ。ゲーム買ってもらった少年かよ!
勉強が楽しみでしょうがないって顔してるよ。変態じじいめ!
そんな、内輪の話で盛り上がっていたら、蚊帳の外のエウリケートが申し訳なさそうに割り込んで来たよ。
「あ、あの~……お話中申し訳ないのですが……あの、石化したエント達を復活させる事は出来ないものでしょうか?」
「おっと、すまん、石化してからどの位の時間が経っておるかの。」
「はい、およそ3昼夜といった所です。」
考え込むお師匠。
そう、石化してから復活できるか否かは、経過時間に左右されてしまうんだ。
およそ、72時間がリミットだと謂われている。
ギリギリだ。
「よし、急ごう。ソピアは石化したエント達を一旦、地面から持ち上げてくれ。」
私が白化領域内のエント12体を、魔力で釣り上げると、お師匠が水球を生成して体表面に付着しているであろう毒を洗い流す。
そして、その毒が溶け込んだ水を蒸発させて行き、最後に残った小石程度の毒の塊を下に落とし、そこに青玉を当てて融解したガラス状の土で包み込む。
私は、エント達を領域外に運び出し、地面にそっと置いた。
「復活可能時間がギリギリじゃが、エントの生命力にかけてみよう。」
お師匠はそう言うと、エウリケートに施したのと同様の呪文を唱えた。
エントは痛覚を持っているのかどうかは不明なんだけど、一応ね。
もしかしたら、石化解除だけでも良かったのかも知れないけれど。
はい、見事に12体のエントは、1体も欠けること無く無事に復活出来ました。
さて、エウリケートの方も魔法を使える者を集めるのに時間がかかるだろうし、私達はこれで一旦宿へ帰りますかね。
もう、お腹ペコペコだよー。
「あれ? 何か忘れている様な気がするぞ?」
「それはきっと、精錬所じゃろう。」
あ! そうだった!
そうだよ、精錬所だよ。
金属素材を買いに来たんじゃないか。
なんかさ、一つのクエストを開始したら、サブクエストが次々と発生して、全部こなさないと最初のクエストが完了出来ない、みたいな?
なんか、そんなクソゲーが有ったような気がするぞー。面倒臭い。
私達は、エウリケートに侵入防止結界の展開と森の魔術師の招集をお願いして、宿に帰る前に精錬所へ寄ってみた。
「これはこれは、大賢者様。先程無事に鉱山が再開出来る様になったと報告が届きました。」
そうでしょそうでしょう。私達、良い仕事したよね。
「つきましては、表向き正式な依頼とはなっていませんので、金銭のやり取りは帳簿上不味いわけでして、現物をお礼という形で差し上げたいと考えました次第です。」
「はいはい、いいですよー。」
「どうぞ、これをお収め下さい。」
そこには山の様な、銅、錫、鉄、鉛、亜鉛、等の各種金属のインゴットが、堆く積まれていた。
「こんなに要らない。」
どうやって持って帰ると思ってんだよ!
私は、そう心の中で所長にツッコんだ。
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