第13話 長距離砲撃

 さて、バシリスコスがやって来るまで、後半日位。

 その間に色々試してみよう。


 火薬を再現できないかな?

 火薬でなくとも、同等の効果が得られれば良いんだけどね。

 つまり、爆轟現象を作り出す。

 なので、ガス爆発でも、粉塵爆発でも、テルミット爆発でも、水蒸気爆発でも構わない。


 火薬やテルミットは、材料が無いので却下。

 ガス爆発も、ガスが無いので却下。


 粉塵爆発では、広い密閉空間が必要なんだけど、これは魔力で囲って出来なくもない。

 その密閉空間の中に可燃性の粉を散布して、それに火を点けるだけ。

 爆発現象を上手い具合に作り出す事が出来たなら、それを一方向へ噴射させて、それでボルトを弾き飛ばす。

 だけど、これも今ここに可燃性の粉なんて物は無いんだよね。

 一旦町に戻って、木炭の粉でも小麦粉でも仕入れてくれば良いのだけど、それじゃ間に合わない。


 水蒸気爆発なら、必要な水も熱も魔法で作り出せるから、一番現実的かな?


 ここまでをお師匠に説明したら、目がキラッキラしてるよ。

 歳取っても知識欲旺盛なんだよね、この人。


 なんか、全部試してみたいとか言ってるよ。

 弾丸が2発しか無いんだから、今は無理だって。

 そう言ったら、これが片付いたら町で材料を買い込んで、また荒れ地でやってみようって言ってる。

 なんなら、火薬も作ってみたいって。

 危ない爺だな。

 テロリストにでも成るつもりか。

 それに、普通に材料で火薬作っちゃったら、それは魔法じゃないよね?


 でも分かる。

 火遊びとか火薬って、何故か中二心を擽るんだよね。

 でもそれをやると、大人に怒られるし、下手すると警察沙汰にも成る。

 それどころか、自分が大怪我しかねない。

 自分が大怪我するだけならまだしも、他人を怪我させたらって考えると、恐ろしいよね。

 だけど、こっちの世界ではそれを規制する法律もモラルも無いし、既に個人で使える攻撃魔法っていう超危険なものが存在するんだから、火薬作るくらいの事は問題は無いのかも。

 火薬が発明されれば、良い方向に利用すれば、土木工事とか、鉱山での採掘とか色々捗るんだよね。


 でもやっぱり、もし火薬を作る事が出来たとしても、お師匠と私で封印確定かなー。

 だって、、戦争に利用される可能性が一番高いんだもん。

 てゆーか、絶対利用される。

 魔法を使えない一般兵士が、魔法使いと同等の攻撃力を持てるんだから。

 使わないわけがない。

 この世界には未だ必要は無いかもね。

 その内、誰かが発明するのを待とう。

 異世界の技術を安易に与えて、世界のバランスを崩しちゃ駄目だよね。



 とりあえず、この場ですぐに作れそうな、水蒸気爆発方式で行く。

 水に高温の物質が接触すると、水から水蒸気への急激な相転移現象が起こる。

 その時の体積の変化は、およそ1700倍だ。

 火薬等の爆発現象と同等の威力があり、これを水蒸気爆発と言う。

 その破壊力は、火山の山体を吹き飛ばしてしまう程の威力だ。


 今、私の目の前には、直径1アルム程度、大体大きな西瓜位の水の球が浮かんでいる。

 これは、お師匠が出したものだ。

 ただ、普通の水の球と違うのは、ふよふよと揺れ動く水の塊ではなくて、まるで占いに使う水晶球の巨大な物みたいに硬質な感じがする事だ。


 実は、これは、私が魔力で作った球形の容器に水が満杯に満たされているからなのだ。

 気泡が少しでも入っていれば、水だと判るのだけど、全く不純物の無い純水が、表面が平滑な球体の中に入っていると、巨大なガラス玉か水晶玉にしか見えない。


 さて、これをどうするのかと言うと、これが大砲の薬室代わりになる。

 魔力の球体が薬室で、水が火薬なわけ。

 その球体から、前方に向けて筒型の通り道を形成してゆく。

 まるで、首の超細長ーい丸フラスコみたいな感じ。

 この魔力の筒の部分が、砲身になる。

 その砲身の中に、丸い石が入れてある。


 まずは、試し撃ち。

 近くに落ちていた拳大の石を拾って、回転させながら削って、球体に成形して行く。

 その石が3個。

 これが砲弾に成る。


 丁度右横方向の1.5リグル程の距離(約2.4キロ)に、山の斜面が見えている。

 あそこまで届けば、威力的には十分じゃないかな。

 砲身の長さは、約10ヤルト。

 山肌に丁度白っぽい岩が見える。

 大きさは、約10ヤルト四方位かな。

 周囲の岩は黒い色をしているので、よく目立つ。

 丁度いい、あれを的にしよう。


 筒の奥中に石の砲弾を入れて、薬室の球体にありったけの圧力をかける。

 お師匠が、青いプラズマ球を生成して準備している。



 「お師匠! いまだ!!」


 「よし!」



 お師匠が、青いプラズマ球を薬室内の水に打ち込むと、瞬間的に水蒸気爆発が起こった。



 ズッドオオオオオオオオオオオオン!!!



 鼓膜を劈く様な轟音と共に、石の砲弾が飛んで行く。

 いや、正確には飛んで行く砲弾は見えない。

 筒の先から吹き出した白い水蒸気の煙幕が視界を阻んでいるから。


 1泊置いて、遠くの方から着弾音が聞こえた。



 ターン…………



 私は、遠眼鏡を腰のポーチから取り出して、覗いてみる。

 ……的には当たっていなかった。

 でも、届いてはいる。

 白い岩のずいぶん下側に、小さな土埃が上がっているのが見えた。


 もう一度、同様の条件と狙いで撃ってみる。

 今度は、右斜め下に外れた。

 第三射は、左横に逸れた。

 多分、砲弾が球形なので、弾道が安定しない。

 これは、回転を加えても誤差程度の違いしか無かった。



 「どうしよう、届くには届くのだけど、当たらない。あの大きさの的に当たらないんじゃ、どうしようも無いよ。これじゃ、1リグル先の1アルムサイズの的には到底当てる事が出来ない。」


 「やはり、鉄の棒を使うべきじゃろうな。空気抵抗と直進性が違うじゃろう?」


 「そうなんだけど、後2本しか無いし、試し撃ち出来ないなー……」





 薬室のサイズを変えてみたり、砲身の長さを変えてみたりと試行錯誤していたら、朝日が昇り始めてしまった。



 「来た!」



 遠眼鏡で谷の先を覗いていた私は、遥か遠くに見える森の木と下草が、白化して枯れてゆくのを見た。

 バシリスコスの身体は未だ見えない。


 いや、居る!

 想像していたよりも少し大きいかも知れない。

 だけど、1リグル(約1.6キロ)先では多少のサイズ違い程度では、ほぼ点にしか見えない。


 試行錯誤の結果、薬室のサイズは最初の半分、弾丸は、先を尖らせた鉄の棒。

 そして、銃身バレルの長さは100ヤルト。

 銃身の長さは長い方が加速距離が長くなって、初速が増す。

 だけど、あまり長すぎてもガス圧は距離が長くなる程低下してくるし、摩擦抵抗で減速する方が大きくなる。

 砲身の途中に複数の火薬を仕込んで、弾体が通過するタイミングで順次爆発させて行き、弾体を押し出す圧力をかせごうというアイデアは第1次世界大戦の頃から有ったようだけど、今それを再現して試している時間は無い。

 幸い、魔力の砲身なので、摩擦抵抗も熱損失も無いのだけど、逆に真っ直ぐなバレルを形成維持するのが難しくなってくるんだよね。

 なので、私は薬室が圧力に耐えられるように力を込めるだけに専念して、バレルの維持と照準とプラズマ球の打ち込みは、お師匠にまかせた。



 「いやいやいや、わしだけ仕事が大変じゃろう。せめて、鉄棒の回転はソピーが担当してくれ。」


 「しかたないなー、もう!」


 「こやつめ!」



 私は、薬室が爆発の圧力に耐えられる様に外側からガッチリと締め付け、バレル内の鉄棒を高速でドリル回転させる。



 「お師匠! 銃身が真っ直ぐじゃない!」


 「分かっておるわい、狙いをつけている最中じゃ、少し黙っておれ!」


 「重力に惹かれて少し落ちるから、狙いはバシリスコスの半パルム上位。」


 「よし! 狙いバッチリじゃ! 発射用意! 対ショック、対閃光防御! 3、2、1……」



 キュドオオオオオオオォォォォォン!!!



 私は直ぐ様遠眼鏡を取り出して的を注視する。



 「だんちゃーーーーーく、今!」



……ゴオオオオオオオオオオオオン!


 1泊置いて、弾着音が聞こえてくる。



 「やったか!」



 あ、いけね、やってないフラグ立てちゃった。

 思わず口に出しちゃったよ。


 土煙が晴れて、的の状況が視認できるようになった。

 確かに当たるには当たったのだけど、身体の正中線から僅かに外れたため、右半身の肉を1/4位抉っただけで致命傷とはならなかった様だ。



 「ギャー! い、生きてる! 怒ってるよ! こっちに向けて走り出した!!」


 「ソピー落ち着け! 第二射急げ!」



 一瞬慌てたけど、直ぐに立て直して、第二射の準備に入る。

 水球生成、薬室形成、バレル形成、弾丸装填、弾体回転開始。



 「照準よーし! 発射カウントダウン、3、2、1……ファイア!」



 キュドオオオオオオオォォォォォン!!!



 …………ゴオオオオオオオン



 今度は迂闊なセリフは言わないぞ言わないぞ……

 土埃が晴れるのをじっと待つ。

 遠眼鏡を恐る恐る除くと


 バシリスコスは、頭が無かった。



 「ぎゃーーー!! やったーーー!!」



 お師匠にハイタッチし、思わずエウリケートに抱きついちゃった。


 見ると、私達の足元2ヤルト前まで石化領域は迫っていた。

 あぶなかったー。




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