第11話 新しいクエスト

 お師匠と実地に勉強しながら歩いていると、精錬所に到着。


 受付の人に事情を話して責任者を呼んでもらう。



 「いやー、大賢者様直々にいらして頂いて申し訳御座いません。金属素材を御入り用との事なのですが、生憎こちらではインゴットを箱単位でしか販売していないというか……、お売りして差し上げたい気持ちは、本当に山々なのですが、国の許可証をお持ちで無い方への販売は出来ない決まりでして……」



 汗拭けよ。

 この人、物凄く恐縮してしまっている。

 まあ、生ける伝説の大賢者と直に話をする機会なんて、一般人にはそうそう無いもんね。



 「おう、そうじゃったか、これは残念じゃった。他を当たりますので、頭を上げてくだされ。」


 「何で売ってくれないんだよケチだな。鋼や鉄以外の金属でも駄目なの?」


 「これ! 弁えなさい!」


 「何でよ? 鉄や鋼は武器に成るから、許可制も判るけど、他の金属は何でなの?」


 「何か、事情がおありかな?」


 「はあ、申し訳ございません、大賢者様、お弟子様。少し前までなら小売販売も出来たので御座いますが、実は今、鉱山の方で大型の魔物が出て居座っておりまして、採掘量が激減している訳なんです。ですので、工房の方にも待って貰っているという現状でして……」



 そういう事なら、悪いのはあの鍛冶工房のドワーフの親方じゃん。

 一般人は買えないよと、教えてくれれば良かったのに。

 いや、単に失念していただけか?



 「上の方から急に許可制になったと通達が来た次第なんです。」



 じゃあ、工房の親方も知らなかったパターンか。



 「じゃあさ、その鉱山の魔物とやらを私達でサクッと倒しちゃえば万事解決じゃん。その後でなら売ってもらえるんでしょう?」


 「いや、大賢者様にそんな依頼をする訳には。」



 大賢者に勝手な依頼をして、もし万が一怪我でもされたら、この人の首が飛ぶだけでは済まないのかもね。



 「じゃあさ、私が勝手にやったというのなら大丈夫だよね?」


 「「えっ?」」



 なんだよ、お師匠までびっくりするなよー。



 「いや、しかし、えっ? それなら大丈夫……なのかな? いやいや、駄目なんじゃないかな? でも、えーーーーー??」



 汗拭けよ。

 魔物を倒して貰えるなら願ったり叶ったりなんだけど、大賢者の弟子に頼んでもいいのか、弟子ならセーフ? アウト? みたいな自問自答をこの所長の頭の中でグルグル高速で駆け巡っているんだろうか?



 「だからさ、所長さんからの依頼は受けていません、私が知らずに勝手に魔物を倒しちゃいました。お礼に金貨じゃなくて、金属素材を少し受け取って帰りました、めでたしめでたし。それでいいじゃん?」


 「くれぐれも、くれぐれも、私が依頼したと言う事にはならないようにお願いしますよ。」





 私達は、鉱山の場所を教えてもらい、精錬所を後にした。



 「肝の小さな人だったね。」


 「役人というものはそれ位じゃないと務まらんのかもしれんなぁ。」



 どこの世界も役人って、責任を取りたがらない人達ばかりだ。








◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇








 鉱山に到着。

 道は整備されているので、迷う事無く着く事が出来ました。

 見事に操業が停止していますねー。


 立入禁止を示す綱を潜ったら、何処からともなく警備の兵士が飛んできたよ。



 「こらこら! 勝手に入ってはいかん! あっ!! こ、これは大賢者様!!」


 「魔物が居座っていると聞いてな、ちょっと様子を見に来た。」


 「私等でチョチョイのパってとやっつけちゃうよ。」


 「い、いけません! あれに手を出してはいけません!」


 「「は?」」



 なんなの?

 一体、何が居るっていうの?


 警備兵に案内されて物陰から覗いてみると、そこに居たのは4体のエントだった。

 坑道の入り口を守るように、左右に2体ずつ並んで立っている。



 「あー、確かにこれはー……」



 そう、エントとはエルフの棲む、神聖なる森の番人にして兵士。

 動きはそれ程速くはないのだが、恐ろしいほどの怪力と無限とも錯覚する程の体力を持っている。

 1体と事を構えると、森の奥から延々と仲間がやって来て、果てしない泥仕合にもつれ込まざるを得なくなってしまう。

 余程の変態でも無ければ争いたくない怪物ワースト5には入るに違いない。(ソピア調べ)


 その森の番人が何でこんな所に?

 そんな事を考えていたら、お師匠がふらっとエント達の前に出て行ってしまった。



 「立ち去れ、小さき者よ……」

  「立ち去れ、小さき者よ……」

   「立ち去れ、小さき者よ……」

    「立ち去れ、小さき者よ……」


 「よう、わしじゃ、わしじゃ。久しいの。」


 「その声は、ロルフ老師……」

  「その声は、ロルフ老師……」

   「その声は、ロルフ老師……」

    「その声は、ロルフ老師……」


 「おぬし等は、こんな所で何をしておるのじゃ?」


 「姫を守っている……」

  「姫を守っている……」

   「姫を守っている……」

    「姫を守っている……」


 「お師匠、エントとも知り合いだったんだ?」


 「ロルフ老師は、森の恩人……」

  「ロルフ老師は、森の恩人……」

   「ロルフ老師は、森の恩人……」

    「ロルフ老師は、森の恩人……」


 「マジか。」


 「邪竜はあらゆる生き物、森にとっても災厄じゃったからのう。正直な所は、わしも森に住まわせて貰って居るでの、森の番人とは仲良くしておきたいんじゃよ。」


 「あー、確かにー。あの家追い出されたら露頭に迷ってしまうよねー。その歳で家なき子は困っちゃうよね。」


 「して、その姫とやらは、どういった訳でこんな木も生えていない所へ隠れているのじゃ? もし、困った事情があるなら、わしが手を貸そう。話してみい。」



 エント達はお互いに意思疎通するかの様に体を揺らした後



 「姫は、とても困っている……」

   「姫は、酷い怪我……」

     「姫は、動く事が出来ない……」

       「ロルフ老師、姫を助けて……」



 今度はセリフを割ってきたぞ。

 なかなか芸達者だな。



 「ロルフ老師、付いて来て……」

  「ロルフ老師、付いて行って……」

   「ロルフ老師、姫を治して……」

    「ロルフ老師、姫をお願い……」



 実際、エント同士は喋らなくても意思疎通出来ているというか、全体で一つの意識体なんだろうね。

 分身の術みたいでかっけー!

 忍法、分身四つ身の術! な~んてな。



 「何をボーっとしておる、行くぞ。」



 いかんいかん、私は妄想に耽る癖があるみたいだ。


 一体のエントに案内されて、坑道の奥へ進むと、そこに居たのは一人の傷ついたドリュアスだった。

 森全体を守護し、加護を与える、森の精霊である。



 「これはたまげたわい、ドリュアスか。」



 ドリュアスの少女は、足を怪我していた。

 怪我と言っていいのか、左足が白化し、一部は石化している様に見える。



 「これは、ヒールやリペアではダメそうね。」


 「うむ、まずは石化の解除からじゃな。」



 そう、石化の解除は意外と難しい。

 一部欠けたり、ヒビが入っていたりすると、解除した途端にそこは欠損したり骨折したりといった酷い怪我として残る。

 石化中は痛みを感じていなかったのに、解除した途端にひどい痛みに襲われて、ショック死してしまう事もあり得るのだ。


 お師匠は、石化の状態を注意深く調べている。

 最悪な事に、足指や踵の欠損と、土踏まずからスネに向けて大きなヒビも入っている。

 このままでは解除できない。



 「ロルフ老師、お願い申し上げます。どうか、森を守って……」



 ドリュアスの少女は弱々しく懇願した。



 「まあまて、まずはこの足を治療してからだわい。」


 「足の状態が良くないのは、よく分かっています。石化した足を引き摺って岩場を必死に逃げて来たため、とても悪い状態になってしまっています。このまま石化解除したら、私はその痛みに耐えられないでしょう。」



 こんな小さな子供では、解除後に襲ってくる激痛を想像して恐怖するのも止むを得ないのかも知れない。

 この世界には麻酔薬という物は、無いのだろうか?



 「まあ、安心して任せなさい。」




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