1-62 渡利
それは渡利が日本政府から命じられ、ネパールから帰る準備をしていた時だった。
一つの無人輸送機が近くの山に落ちた。
乱気流のせいだった。
それには中共周辺で使用するはずのクローンマリオネットの試作品が乗っていた。
軍事兵器に知識があった渡利はすぐにそれがどんなものか分かった。
しかし分かっても何も出来ない。AIを教育する為の高度なコンピューターは持ち合わせていなかったし、そもそもそんな物を動かす為の電気がここには満足になかった。
だから渡利はそれを隠した。
近くの山林にブルーシートをかけ、土と木の葉をかけて急いで隠した。
二度目の渡航の際、渡利はその当時は高かったアイスを持ち、あの時隠した場所に戻った。
辺りは見るも無惨に荒廃していた。美しかった景色は戦争の激化で吹き飛んでいた。
やはり、駄目か。
そう思った時、山肌に青いシートが見えた。
急いでそこに駆け寄ると、彼らは無傷で渡利を待っていた。
ひっそりと、主の帰還を待っていた。
渡利は荒廃した山と、川と、村を見つめた。
その時、自分が何をする為にこの世に生を受けたのか、それが分かった気がした。
黒で塗りつぶされたキャンパスを見て、渡利は少しでも元の絵が、美しい絵があった事を世界に知らせたかった。
もう二度とこんなことを起こさない為に生きたいと願った。
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