1-60 零課

 それは戦争だった。

 機械の人間と機械に乗った人間との戦争だ。

 大きさは渡利の兜が上回るが、リミッターを外した青鷲と出力はほぼ互角だった。

 体が大きく、小細工もしにくい為、必然的に技よりも力の戦いとなる。

 殴り、蹴り、打ち、頭突きさえも行う死闘。

 互いに機械だが、渡利は搭乗している事と、それまでの戦闘で精神的に疲れているという弱点があった。

 特に板見との壮絶な壊し合いは圧巻だった。

 結果、板見は渡利のクローンマリオネットを大破させ、勝利を得るが、代償として右腕を骨折している。

 今日三度目の格闘戦。

 肉体的疲労はないが、精神的疲労はピークに達していた。

「・・・・・・なら」

 大きさの利を使う。

 兜は青鷲より渡利の体重と併せて150キロも重い。

 グラウンド、寝技に持ち込めばその差が出る事を渡利は知っていた。重心が少し低くなる。

「何が目的なんですか?」

 圭人の問いに渡利は答えない。

 答えた瞬間襲われるかもしれない。今は隙がカバーしきれない程疲れていた。

 圭人は続ける。

「証券会社を襲って、サリンを作って、政治家を撃って。あなたは何がしたいんですかっ!?」

 渡利は答えない。集中力を圭人の動きだけに向ける。

「あの体。写真から成長予想して作った僕の体。お気に入りだったんですよ!? なのに粉々になっちゃって。またしばらく女の子のボディで暮らさないといけなくなる。どうしてくれるんですかっ!?」

 渡利はただ圭人の重心だけを、足だけを見ていた。黙って見ていた。

「しまいにあさくんは僕がAIとか言い出すし! ほんと何なんですか!? あなた達は――」

 圭人が不用意に一歩を踏み出した。

 その時、渡利は姿勢を低くして素早く圭人へ突進した。

 胴タックル。

 理想は両膝を抱きかかえてからのマウントだ。

 のし掛かり、体重差を利用して圧倒する。

 だが――

「それ、知ってます」

 夏音がデノクシー本社で渡利と戦った映像を圭人は何度も見ていた。

 圭人がそう言うと同時に青鷲の膝に内蔵された砲撃が兜に炸裂した。

「ぐむっ・・・・・・」

 顔に直撃しながらも、渡利は無理矢理圭人を押し倒した。すぐに殴ろうとするが、右、左の順に拳を受け止められる。

 奇しくもまた手四つの形となった。

 またも渡利が上。状況は有利なはずだった。

「これも知ってる」

 力勝負になるはずだったが、青鷲には新たにバックパックが追加装備されていた。

 背中から腕が二本伸びてくる。その手には大きなハンドガンが持たれ、圭人はそれを兜の胸元。

 つまり渡利の頭部がある場所に押しつけた。

「貫通弾です。ゼロ距離なら兜でも戦車でも関係なしに打ち破れる。大人しく投降して下さい」

 確保完了。

 二人はほぼ同時に被疑者を確保した。

 新島の言いつけをしっかりと守った。

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