1-31 零課

 それが見つかったのは偶然だった。

 爆破された横浜の倉庫。

 テロリストのアジトと思われていたそこに化学物質を検知する小型のロボットが投入された。

 しかし、これといって危険物は出てこなかった。

 捜査官が帰ろうとした時、倉庫の柱の一部が崩れ落ちた。

 捜査官がその先を確認すると床に穴が空き、設計書にはない地下室が見つかった。

 捜査官がそこに検知ロボットを入れると、すぐに危険を示すアラート音が鳴り響いた。

『危険です。危険です。レベルAの科学防護服を着用していない人は直ちに離れて下さい。繰り返します。危険です』

 ロボットの警告音はその後もNBCの隊員が到着するまでずっと続いた。

 報告を受けた零課の本部は重い空気に包まれていた。

 そこに遅れて臼田が入ってくる。

「すいません。ちょっと一課に話を聞いてました」

「遅い。どこほっつき歩いていた? 後でちゃんとクラウンアイ提出してもらうからな」

「・・・・・・え。それはちょっと・・・・・・」

 臼田は歯切れ悪く言った。その後二人足りないのに気付いた。

「・・・・・・あれ? 吉沢さんと夏音ちゃんは?」

「俺はいるよ」

 吉沢の声がインカムから聞こえた。

「吉沢は今、物を受け取ってこっちに向かってる。夏音は寝てる。後で俺から報告するよ。それよりだ」

 新島はアイスに入った情報を壁のスクリーンに飛ばした。

 そこにはオレンジ色の科学防護服を身につけた男達が何やら大型の装置を囲っている映像が出てきた。

 男の一人が腕の前で手を交差してバツ印を作った。

 すると他の男達は待避し、代わりに亀のような中型四足ロボットが入ってくる。ロボットの背中には四本の腕の様なものが付いており、それは独立して動き、瓦礫を撤去しながら前進した。

 道を作ると亀とは別の小さなロボットがやって来た。

 ウサギ型だ。

 夏音が見れば喜んではしゃぐだろう可愛さを誇っている。ウサギロボットは10匹くらいぴょこぴょこやってきて、鼻をくんすか動かした。

 そしてしばらくして全羽が耳をぴんと立てた。その内一匹が口を開く。

『解析終了。結果は全羽一致しました。99%以上の確率ででこのプラントが作っていた物質は――』

 ウサギロボットは互いに「いい?」「いい?」「いいよ!」と確認した後にハモって言った。

『せーの! サリンです! わーい♪ お手柄だー♪』

 この国にとって、最も禍々しい薬物の名が可愛く発表された。

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