1-26 零課
日本庭園にひかれ整備された白い小石。青年達が綺麗に整備した庭を新島は踏みにじり、アイスで谷岡と話をしていた。
「うん。そうか・・・・・・。大丈夫なんだな。うん。・・・・・・うん。分かったよ」
谷岡から夏音の状況を聞き、早く帰って来いと言われた新島は心配の色を少し見せた。
連絡を切り、端末を胸ポケットに差すと、どこか不安げな表情になる。しかしそれも振り返った時にはもう消えていた。
「どうした?」ジンが尋ねる。
新島は黙って自分の左肩をとんとんと人差し指で叩いた。
ジンは「ああ」と納得する。
「戻らなくていいのか?」
「今は眠ってる。起きるまでに帰ってやればいいさ」
新島は庭から部屋に上がった。
左の、入り口から見て奥の部屋には吉本と西野が、右の部屋にはジンと後ろ手に手錠をかけられた千場が居る。
ジンはライフルを千場に向け続けているが、時折西野を気にしていた。
西野は端末で外部と連絡を取っていた。
「早く済まそう。終わったら刑事四課に引き渡して、俺は帰る。腹も減ったし、うるさい娘も泣きながら帰りを待ってる」
新島はそう言ってまた千場に銃を向けた。
それを見て千場の顔が引きつる。
こいつは本当に撃つ。千葉の体はそのことを覚えていた。
「今からする質問を簡潔に答えろ。嘘は要らない。無駄口もだ。俺の気に入らない返事をしたら何発でも撃つ。何発でもだ。分かったな。分かったら返事をしろ」
「・・・・・・・・・・・・ああ」
パンッと新島は一発撃った。
それは千場の足下、当たらないギリギリの所に穴を開けた。
「返事は素早くしろ。次は当てる」
新島の目は本気だった。
千場の頬に汗がつーっと流れる。
「富士見はどんな商売をしていた? 表のシノギはいい。裏でやっていた事だ」
「・・・・・・ふ、富士見の兄貴はヤクと武器を捌いてた。中でも武器だ。ヤクはヤクザなら誰でも売るが、武器はそう簡単にいかねえ。ヤクとは違ったルートがいる。兄貴はそれをたんまり持っていた。関東じゃ一番だろう」
それを聞いて、新島はアイスからスクリーンを広げた。そこに表示されたリストを千場に見せる。そこには武器の写真と名前、型番が載っていた。
「富士見が売っていた物の中で、ここに載ってる物を見たか?」
千場は三つの武器を何度も目を動かして確認した。
「ふ、古いカラシニコフ。これはよく見た。サハリンと内戦中の半島から買って、欲しい組に高値で売ってた。日本じゃアサルトライフルは手に入りづらいからな。・・・・・・それと、そのバルカン砲だ。中共の商人から台湾、沖縄を通して、そこから金を握らせた米兵にバラして送らせてる。それをこっちで組み立てる時、うちの組から一人詳しいのをやった事がある。間違いねえ。それだ」
「このマリオネットは?」
新島はクローンマリオネットを指差した。
千場は首を横に振った。
「知らねえ。見たことも聞いたこともない。だいたい新しい軍事品なんてヤクザに回ってこないし、いらねえよ。俺達が武器を使うのは堅気と同業者を脅す為だ。そんなもんどこのヤクザも買わない。持ってるだけで色々と勘ぐられちまったら逆に危ない。盗むのにもリスクがありすぎる」
それを聞いて新島とジンは顔を見合わせた。思った通りの返答だったからだ。
わざわざ軍事研究所から最新兵器を盗み出すリスクをヤクザが負うとは思えない。
刑務所を襲うより成功率が低いからだ。失敗すれば制限を緩和された軍事用AIを搭載した高機能兵器が陸海空から嬉々として殺しに来る。
「次はこの男と子供だ。見覚えは?」
新島は端末を操作し、渡利と比嘉の顔写真を表示した。
千場はそれをじっと見た。
「ガキは・・・・・・知らねえ。でもこいつ。男の方は見たことあるぞ。・・・・・・どこでだ?」
「早く思い出せ」
そう言って新島はまた千場の足下を撃った。
千場は慌てて頭を動かす。
「お前、気が短いにもほどがあるぜ。ヤクザでももうちょっと待てらあ」
「生憎ヤクザじゃないんでな。どこで見た?」
「・・・・・・・・・・・・ちょっと待ってくれ。あれは・・・・・・どこだ? ・・・・・・・・・・・・そうだ。沖縄だ。あっちのヤクザに武器を売りに行った時、奴らが値切りやがるんで俺が呼ばれたんだ。あそこで奴はなんかうさんくさい物をそこのヤクザに頼んでやがった」
「・・・・・・それを聞いてるんだ。思い出せ」
新島の指は今にも引き金を引きそうだった。
千場は目をぐっと瞑って記憶の断片を探す。当時の映像が曖昧な柄に脳に残っていた。
渡利は沖縄のヤクザにこう言っていた。
「・・・・・・リン? ナトリウム・・・・・・? とか・・・・・・、だったはずだ。いや、そうだ。間違いない。頭に難しい単語が付いてたが、変なもんをヤクザに頼みやがる奴だから覚えてる」
それを聞いて新島はインカムで臼田に言った。
「臼田。すぐに調べろ。こっちが優先だ」
「はい。・・・・・・出ました。リン酸ナトリウム。主に様々な食品の添加物として使われています」
思ったよりも可愛い利用法に聞いていた新島とジンは拍子抜けした。
「おいおい。料理クラブでもやろうってか?」ジンが苦笑する。
「・・・・・・本当にそう言ったんだな?」
新島が千場に再度確認すると、千場は大きく頷いた。
「ああ、間違いねえ。天地神明に誓って、男、千場春樹に嘘はねえ!」
その口上に苛ついた新島は千場の足下を一発撃った。
「おい!」千場が抗議する。
「・・・・・・一々うるさいんだよ。組員全員東京湾に沈めるぞ」
新島はそう言いながら銃をズボンの後ろに戻す。
新島を見て、千場はジンにうるさく言った。
「こいつ本当にサツか? こんな奴に銃を持たせんじゃねえ! 弾だって税金だろうが!」
「だから納税者のお前に返してるんじゃねえか。だが、銃を持たせるなって意見は概ね同意できる。こいつは人の痛みに鈍いからな」
「無駄口を叩くな」新島がジンを注意する。
「へいへい。隊長さん」
ジンはアサルトライフルを持った手首を返し、担ぐように自分の肩を叩いた。
バレルを短くし、マガジンとアレンジを除いても約3.2キロある51式小銃が軽く見えた。
「他には何かないのか?」
新島が尋ね、それに千場が口を開きかけた時だった。
何度も銃声がしている敷地内にようやく外に居た捜査四課の中年刑事が許可を貰ってやって来た。
「ドンパチうるせえと思ったら・・・・・・」
刑事は死に絶えた千場の部下を見て顔を引きつらせる。
「ここに来るまでにも四つ死体があったぜ? どうなってやがる?」
「四つ? てめえ・・・・・・」
それを聞いて新島は眉をひそめ、千場はにたぁと笑った。
「しょうがねえでしょう。ええ、しょうがねえ。邪魔しやがるから悪いんだぁ」
千葉は血にまみれ、邪悪にほくそ笑む。
それを奥の部屋で聞いていた西野は舎弟を殺されて怒り心頭だった。
「・・・・・・・・・・・・落とし前、付けてもらわねえとな」
西野は端末を握り割りながらそう呟いた。
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