1-27 零課

 屋敷の前の道には警察車両と救急車両が数台停まり、混雑していた。それでもAIによる操作でぶつかることはない。

 止血用のキチンナノファイバースプレーを掛けられると千場のから流れていた血が止まる。

 応急処置が終わるとすぐに救急隊員が担架に外へ乗せて運び出した。

 刑事と救急隊員でできた人混みをかき分け新島は千場に問いただした。

「おい! さっき何を言いかけてた!?」

「兄ちゃん。あとはこっちで聞くよ」

 中年刑事が制止する。

 だが、それも聞かずに新島は尋ねた。

「おい! 千場! 言えよ。ぶち殺すぞ!」

「へっへっへ。怖え怖え・・・・・・」

 千場はニヤニヤと笑っている。

 新島は目を見開き、銃を構えた。辺りがざわつく。

「おい・・・・・・、兄ちゃん・・・・・・。しまいなって・・・・・・」

 中年の刑事がなだめるが、新島はそれに睨んで答えた。

 刑事は軽く両手を挙げて後退る。

「さっさと言え! てめえ、刑務所行く前にここで死にたいのか?」

「・・・・・・脅しが上手いねえ。あんた、良いヤクザになれるぜえ」

 挑発する千場だが、新島から発せられる殺気が膨れ上がるのを感じ取った。

 千場は細かく頷くと、何かに納得した様に口を開いた。

「・・・・・・・・・・・・さ。兄貴はそれを探していた」

「はっきり言え!」

 新島がそう怒鳴った時だった。

 警察車両の後ろから大型バイクが猛然と飛び出して来た。

 バイクにはフルフェイスのヘルメットを被った男が二人乗っている。

 バイクは意表を突かれた警官や救急隊を蹴散らすように暴走すると、救急車の横の窓へと後ろに乗った男が何かを向けた。

 スコーピオンと呼ばれる小型のサブマシンガンだ。

 それを見て、新島はすぐさま救急車の裏に飛び込んで避難した。

 小型のフルオート小銃は瞬く間に一五発もの銃弾を救急車に撃ち込んだ。

 皆が伏せる中、バイクはその間を縫うように脱出して行った。

 だが、道を曲がろうとした瞬間に運転手のヘルメットに穴が空いた。

 驚く警官達の中でジンだけは狙いを付けていたのだ。

 猛スピードを出していたバイクは操縦者を失い、AIの補助も虚しく壁に激突する。

 後ろに乗っていた男は200キロはあるリッターバイクと壁に挟まれ、ぐったりとしていた。

 それを確認してジンが振り向くと、そこには血の海で息絶えている千場をじっと見下ろす新島が立っている。

 ジンは肩をすくめ、新島は舌打ちした。

 その全てを遠くからスコープ越しに見ていた矢頼は額に手を当て、スコープから視線を外した。

 それからすぐ、サイレンの音が其処ら中から砂糖菓子を見付けた蟻の様に一点に集まって来た。

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