1-24 渡利

「大丈夫かっ!?」

 急に右手を押さえ、苦しみ出した比嘉に渡利は声をかける。

「痛え・・・・・・っ。畜生・・・・・・」

 歯をぐっと食い縛り、比嘉は痛みに耐えようとする。

 悶絶する様な痛みに抗おうとするが、それをする術はない。

 腕はないのだ。

 あるのは金属と化学繊維で作られた偽物である。

 渡利は困惑した。

 幻肢痛は腕が無い事で発症する現象だった。その治療の一環として電子義手による治療がある。無くなった腕を本人の意思で動かせば痛みが軽減するのだ。

 つまり、脳に無いものをあると思わせ、錯覚させる。

 だが比嘉には高度な電子義手が装着されていた。思うがままに動き、触感さえも備え持つはずのそれが、逆に自分の体に違和感を与えていた。

 厄介な事にこの痛みは鎮痛剤では消えない。痛みが過ぎるのをただ、待つしかない。

「しっかりしろ! それはお前の腕じゃない!」

 渡利は比嘉の背中を撫でてそう言った。

 原始的だが、これも一つの治療法だった。痛くないと、これは自分の腕じゃないと自らに言い聞かせる。

「・・・・・・わ・・・・・・かってる・・・・・・。・・・・・・くそっ・・・・・・・・・・・・」

 はあはあと息を荒くする比嘉だが、痛みは少しずつ和らいできた。頭の中で痛くないと繰り返す。

 その中で一人の姿が脳裏に浮かんだ。

 夏音だった。

「・・・・・・ああ、そう・・・・・・だ・・・・・・。痛くねえ・・・・・・」

 引いてきた痛みに安心するように比嘉は息を吐いた。額から汗がぽたぽたと下に落ちた。

 泣きたくなったが、敢えて笑った。

 この痛みが夏音と比嘉を繋ぐものだと思えたから。

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