1-17 零課
夏音が新たに設立された零課へ訓練生として入ったのはその翌年。
零課のメンバーは新島以外比嘉の存在を知らなかった。
掻い摘まんで比嘉旭の事が説明された。皆が沈黙する中、ジンが大きな溜息をつく。
「幼馴染みとの再会が殺人の被疑者として。つくづく、神様ってもんは理解ができねえ。きっと居るんだぜ。性格が悪いのが、雲の上によお」
そう言って上を指差すジンに矢頼と吉沢が肩をすくめる。
夏音は苦笑いするが、やはりショックは大きい。しかし、すぐに表情は微笑に変わった。
「・・・・・・でも、生きててよかった・・・・・・」
複雑ながら、ほっとする夏音。その頭を隣に居た臼田が優しく撫でた。
夏音は目を瞑って臼田の胸に軽くもたれた。臼田はよしよしと夏音を引き寄せる。
そんな中、板見はいつもよりほんの僅かに低いトーンで新島に言った。
「それなら自衛隊のデータベースに彼の生体データが残ってるはずだ。そこから今日までの成長予想を計算して、この写真と照らし合わせれば本人かどうかが判明するよね」
「そうだな・・・・・・。あいつらが出せと言われて出すわけがないが、その場合は少し借りよう」
新島が悪そうな顔で圭人を見た。
圭人はあはは・・・・・・とやりづらそうに笑う。
よし、と新島は考えをまとめた。
「板見と圭人はデータの収集、照合を。ジンと矢頼は俺と獅子川組に話を聞きに行く。臼田は警視庁の捜査本部や他の公安から何か情報が無いか探ってくれ」
「俺は? 帰っていい?」吉沢は自分を指す。
「お前は防衛省だ。注文した品が届いてるって連絡があった。取ってきて要らないリミッターを全部外せ」
そう言って新島はポケットから楕円形のスイッチの様な物を吉沢に渡した。
真ん中に指紋認証と生体データの設定が出来るくぼみがある。
吉沢はそれを受け取りげんなりした。
「・・・・・・マジかよ。昨日から徹夜だぞ? このまま労基に駆け込んでやろうか?」
疲れた顔の吉沢の肩を近づいて来た新島がぽんと叩いた。
「残業代は出てるんだ。可愛い奥さんと子供の為だと思えば出来るさ」
「・・・・・・これが原因で離婚したら殺してやるからな」
吉沢の恨み言を聞き流し、新島は「解散」と声を出す。
皆がそれぞれ動き出す中、夏音だけが一人ぽつんと困り顔で立っていた。
「えっと・・・・・・」
夏音は考え、自室に戻って漫画でも読もうと思った時だった。
新島がやって来て肩を掴む。
「お前は学校だ。早く行け」
「ええ~・・・・・・。土曜日なのに~」
「文句を言うな。こっちは公務員だってのに仕事なんだ」
それだけ言うと新島は去って行った。
夏音はがくっと肩を落とす。大きな溜息をついた後、胸ポケットからリボンを取り出し、髪を結び直した。
「いってきま~す・・・・・・・・・・・・」
その挨拶に返事をする余裕がある者は誰もいなかった。
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