1-16 夏音

 10年前。

 沖縄。普天間。

 基地移設問題は大戦の兆候から議論そのものが米国の提案で延期された。

 基地の周りは経済成長が続くアジアの波に乗り、人口密集が更に進んだ。

 その一角に皐月夏音と皐月圭人は生まれ育つ。

 二人の家の隣には夏音と同い年の男の子が居た。

 比嘉旭。

 サッカーが好きの元気な男の子だった。

 彼と皐月兄弟は生まれた病院も同じで、親同士も仲が良かった為、兄弟の様に育った。

 どこに遊びに行くにも一緒で、同じ幼稚園に通い、同じ小学校に通った。中学も一緒のはずだった。

 しかし大戦終戦間際、彼らの身に悪夢が降り注ぐ。

 米軍基地を狙ったと思われるミサイルが基地周辺にも降り注ぎ、三人の両親は死んだ。

 夏音の目の前で圭人と比嘉は降ってきたビルの瓦礫に埋もれた。

 夏音自身もミサイルの破片で手足を失い、全身に酷い傷を負った。

 死の境を彷徨った彼らが目を覚ますと特別集中治療室の中だった。

 救助に来た海上自衛隊の超大型ヘリ搭載護衛艦、長門の船内だ。

 親のいない彼らは本人の意思により実験試験中の特別な治療を受けた。

 内容はAIで補足された信号解析装置を組み込まれた義手、義足の装着であった。

 子供である彼らは大人と思考によるノイズが少なく、AIとの相性が良いとされた。

 実際三人とも拒絶反応は見られず、手術は成功した。

 リハビリを受けた二人は順調に回復した。

 しかし、三年前。リハビリ施設を兼ねた自衛隊の施設から突如、比嘉旭は姿を消した。

『迎えに来るから』

 それだけを書いた手紙を夏音の部屋に残して、比嘉旭は消えた。

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