1-15 零課
夏音がオフィスに入るとそこには新島、板見、矢頼、ジン、吉沢、臼田の六人が待っていた。
遅れてラボから圭人が出てくる。先程夏音と会話をしていた少年の姿をしていた。
それを確認して新島が口を開いた。
「昨日横浜に行ってきた。アジトと思われる倉庫は跡形もなく吹っ飛んでたよ。分かっている事を共有しておこう」
そこまで言って新島は臼田を見た。臼田は頷き、アイスを操作する。その情報が壁に映し出される。
「昨日の事件、主犯と思われる男ですが、名前は渡利浩二。愛媛県出身の33歳。身長180センチ、体重71キロ。6歳から18歳まで空手と剣道の経験があります。大学進学後、20歳で青年海外協力隊でネパールに電気通信事業の従事。ネパールではレスリングも学んだそうです。一年後帰国。23歳で大学を卒業し、沖縄の空港に着いた所で記録が一時途切れます。その後3年前にムンバイから成田に帰国した記録が残っています」
「大戦後の沖縄はごたごたしていたからな」矢頼が髭を触った。「記録に残らず外に出るのもそれほど難しくないだろう」
それに臼田は頷いた。
話を聞いていたジンがサングラスを拭きながら寂しげな顔をした。
「ネパールか・・・・・・。大戦中期、上で中国の分裂。下ではインドの軍事クーデター。挟まれたせいで治安が悪化し、そこにパキスタンから武装イスラム集団が入って、滅茶苦茶になった所だ」
続いて吉沢が眼鏡のフレームを触る。
「・・・・・・技本に居た時にインド洋で補給をやってた海自の艦長が話してたよ。南アジアは地獄だったらしい」
大戦を知る大人達は皆、それぞれの記憶を持っていた。悲壮な空気が漂った。
臼田が続けた。
「そして昨日、渡利は証券会社デノクシーをクローンマリオネットを使い強襲。その後の足取りですが、歌舞伎町のバーに出入りしている所を防犯カメラが捉えました。今日の三時に捜査員が向ったところ、7人の死体を発見しました。うち三人は従業員でしたが、残る四人は指定暴力団獅子川組の構成員である事が確認されてます」
そこで血の海に七人の男女が横たわる写真が映し出された。大人は眉をひそめ、夏音は顔を伏せた。圭人だけが表情を変えずにその写真を見ていた。
それはすぐに消え、男の写真が映し出される。
「現場から採取したDNAから、獅子川組の幹部、富士見昭三がその場に居た事が判明しました。渡利が現場から離れる際、ジャケットを頭に被せた男と同行しているのが防犯カメラに写っています。歩き方からAIは98%以上の確率でこの男を富士見と断定しました。その後、富士見が乗ってきたと思われる車で移動。車は千葉の海浜公園近くで発見されましたが、その後の行動は不明です」
血の写真。
DNAデータの一致。
防犯カメラ映像の静止画像が二枚。
黒塗りのセダン。
それらの写真が次々に出てきた。そして最後に一枚。
「そしてもう一人。歌舞伎町のバーで殺された七人の死亡推定時刻から逆算した結果。その時間店内にいた客で足取りが分かっていない人物がいます。警視庁のデータベースには載っていない人物で、今捜査員が追っています」
そこに青年と思われる男の顔が出た。フードの下の陰を様々な角度から撮られた写真からAIが補足した人物像だ。
目の上まで伸びた黒い前髪と鋭い瞳が特徴の青年だった。
それを見て表情が変わった人物が三人居た。新島、圭人、そして夏音だった。
「・・・・・・・・・・・・え?」
夏音はぽつりと言葉を落とした。その青年には見覚えがあった。
周りの大人は夏音を見つめた。夏音はディスプレイを見て、彼の名を呼んだ。
「・・・・・・・・・・・・あさ・・・・・・・・・くん・・・・・・?」
彼の名は比嘉旭。
夏音と圭人の幼馴染みだった。
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