1-11 零課

 爆発が起きた。

 横浜の倉庫に到達した刑事達が中を確認するために、小型の偵察ロボット、通称マウスを数匹放ってからすぐだ。ランダムセンサーをマウスが踏んでしまい、HMX爆弾が起爆したのだ。

 倉庫が一つが吹っ飛び、現場の刑事が6人負傷した。

 それはすぐにニュースとなり、新島と神崎は車内でそれを知った。神崎が車に搭載されたAIに命令する。

「爆薬から該当する組織を検索して」

『該当件数は43件です』

 AIは女の声で即座に答えた。電子音で作られた声だがほとんど違和感はない。

「その中で渡利と関係がある組織は?」

『該当はありません』

 手掛かりが掴めず、神崎は考え込んだ。その間も自動走行の車は走り続ける。新島が訊いた。

「クローンマリオネット、アベンジャーアーム、カラシニコフの74。さっきの43件で今の三種類を保持している組織は?」

『クローンマリオネット0件。アベンジャーアーム3件。カラシニコフは8件です。重複は2件あります。一件は関東広域暴力団獅子川組。もう一件は極左暴力集団ドラゴロです』

「その二件で松木重工と関係があるのは?」

『どちらも確認できません』

 その返答に今度は新島が考え込んだ。今回の手掛かりで一番大きなものはクローンマリオネットだ。その出所が分からなければ捜査は難航することを示している。

 渡利が一体どこでクローンマリオネットを手に入れたのか。そこから糸口を見いだそうと思っていた新島は途方に暮れた。

 五秒ほど沈黙した後、神崎が新島に訊いた。

「どうする? 横浜に行く? 何なら付き合うわよ?」

「・・・・・・待ち合わせとかないのか? 金曜の夜だぞ」

 ぶっきらぼうに言った新島の顔を見て、神崎は何かに気付き、眉をひそめた。

「あなた・・・・・・。まさか、あたしから情報を引き出すためにあの子に約束させたの?」

 あの子とは臼田の事だった。臼田と神崎は元同僚で、先輩後輩にあたる。

 呆れた口調の神崎の方を見ず、新島は窓の外を眺めた。少し雨が降ってきた。

 新島は俯き加減でポケットの中の落花生をいじっていた。

「横浜まで最速で何分だ?」

『自動運転専用高速道路を使えば十四分です』

 新島の質問にAIは淡々と答えた。

「話を逸らさないで」

 神崎が新島を睨む。しかしそれを無視して新島は告げた。

「じゃあ行ってくれ。安全運転で頼む」

『ドライバーの許可がないと実行できません』

 AIの言葉に新島は神崎の方を向いた。まるで急かす様にフロントパネルへ視線をやる。

 神崎は新島の偉そうな態度にむっとした。

 新島は頬杖を付き、前を向いたまま尋ねる。

「付き合ってくれるんじゃないのか?」

「気が変わったわ。今日はあの子を問い詰めながら攻めてやるの。一睡もさせずにね」

「あいつにぶち込むのは横浜に行ってからでもいいだろ?」

「・・・・・・なら、あなたも来なさい。三人でよ」

「・・・・・・勘弁しろ。もうそんなに若くないさ」

 妙に重い空気が車内に流れた。

 二人共窓の外に流れる景色を見ていた。夜空に光るのは星でも月でもなく、超高層ビル群だ。まるで巨人が見下ろす様に二人を囲っている。

 心の太さを競うように黙りこくっていた二人だが、とうとう神崎が折れた。

「・・・・・・・・・・・・横浜へ」

『了解しました。デート用に音楽を流しましょうか?』

 その進言に二人は目を合わせ、呆れた。

「黙って走れ」

 新島が睨むと目的地に着くまでAIはしっかり沈黙した。それが逆に車内の空気を重くする。

 海辺の倉庫街が見えると着く前から煙が目印になり、そこで爆発が起きた事を知らせた。

『お疲れ様です。目的地に到着しました』

 倉庫の近くにパトカーが何台も駐車していた。警官も大勢いる。車は適当な場所を見付け、ゆっくりと停まった。

 先に神崎が降り、次に新島が降りようとした時、AIは言った。

『失礼ですが、女性と二人でいる時はもう少しムードを気にされた方がよろしいのでは?』

 そのお節介に新島は車のディスプレイを睨み付ける。

「もし、帰りにそんな話をしたらフォーマットしてやる」

 新島は力いっぱいドアを閉めた。それから帰りまで、AIが無駄口を利くことはなかった。

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