バカ勇者と魔物
第8回(8月20日〜)
お題 ・涙 ・魔物 ・いい天気 ・どうせ勝ち目がないなら ・「間違いないです」
「貴様が勇者か」
「間違いないです」
どうせ勝ち目がないなら認める必要もなかったか。目の前にいるのは魔物。倒すべき相手。しかし、僕は膝をついてそいつの前にひれ伏していた。
「なぜこんなにも弱いのか?」
「いや、なんか、あまりにもいい天気だから気がそがれちゃって……」
たじたじ。実際、敵は怪しい紫の雲に覆われ異常なまでの落雷発生率を誇る子供なんかは立ち入るだけで涙を誘うそんな孤島にあると思い込んでいたのだ。こんなに防水対策をしてきたのに、晴れていちゃ全くの無駄。ただ太陽の熱が異様に暑く思えただけだった。
「天気予報は見なかったのか?」
「ええと、降水確率は0%、一日中晴れとの予報でした。ただ、この場所に予報など通用しないと思ってまして……」
「バカか貴様は。百歩譲ってここが万年雨だとしても、なぜレインコートに長靴に傘なのだ。防具に盾に剣はどうした」
「え、ダメです?」
「どうやって戦うのだ?」
「……チャンバラ?」
試しに傘を振り回すが、魔物は全く取り合ってくれなかった。呆れたように魔物は首を振る。
「いい、もうよせ。こんなんじゃいつまでも魔王に辿り着けやしない。裏ルート案内するから、そこから直接魔王に殴りこみにいけ」
思わぬ魔物の発言に、僕は思わず顔を上げる。
「いいんですか?!」
「良いんだ、オレも魔王の手下というどうあがいても敵ポジションから解放されて、充実の魔物ライフを過ごしたいからなぁ」
きまり悪そうに笑うそいつに、「ありがとうございます、ありがとうございます……!」と精一杯の感謝をした。
しばらくして、あの自称勇者が去った洞窟から「ギャー」と声が響いてきた。
「ったく、魔物にすら勝ち目がないくせ、本当に入っちまうとは。でも、これで魔王の機嫌は取れるしオレの給料も上がるし、これからも充実した魔物ライフが過ごせそうだなぁ」
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