亡霊とヒト

第7回(8月13日〜)

お題 ・酒 ・終電 ・改めて思った ・薄暗い店内で、 ・「君(あなた)もそう思う?」







 終電もなくなった頃。薄暗い店内で、ふたりは談笑する。それがいつからか、普通のことになっていた。

「こんな陰気なとこに来てくれるのは君くらいですよ」

「そりゃあ、ここじゃなきゃお前さんに会えねーもんな」

 酒臭い吐息が充満する。生前嗅いだ心地良くない匂いが胸によみがえる。

「つくづく不幸だよなぁ、お前さん。酒を飲む前に逝っちまうなんて」

「いや、そんなデロンデロンに酔った姿を見せられちゃあ飲む気も失せますよ。臭いですし」

 そう言って、凍った缶ビールを差し出す。

「……冷えすぎじゃねぇのか、これは」

「あ、そうでした? 冷たいだなんて感覚、とうの昔になくしちゃいましたから」

「ったく、便利なんだか不便なんだか……」

 別の缶をぐいと飲み干した。

「……ったく、おかしな話だよな」

「あ、君もそう思う?」

「当然だろ」

 辺りを見渡して、改めて思った。街中をうろつく、人の群。明かりを薄くしたビルの中に、閉じこもった亡霊たち。

「亡き者が働いて、生きたものが遊び呆ける。そりゃあ死にたくもなくなるけどよ」

 実際、何百年も暇していた僕たちにはうまい話ではあった。今生きている人も、遊びと称して生きていた方が活き活きしているように見えた。しかし、何かが、欠落していた。同じ世界にいながら、関わらないということが。

「そろそろ日が昇りますね」

「そうだな。じゃあまた明日にでも」

 彼は席を立ち、去っていった。僕らと関わりたいヒトはいないというのに、彼はなぜだかいつも来てくれる。日が昇れば、僕らの姿は見えなくなる。姿が消えれば、ヒトはさらに活き活きする。彼も、きっとそうなのだろうか。

 元は同じニンゲンだったのにな。暗く淀んだ姿を消して、清々とした人々の顔を、日が沈むまで眺め続けた。

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