始まりのキャンプファイアー

第5回(7月23日~)

お題 ・線路 ・煙草 ・朝もやの中 ・キャンプファイヤー ・「俺(僕、私)が守るよ」







 朝もやの中、どこまでも続く線路の上に僕らはいた。車窓から見える景色は、きっと色とりどりなのだろう。今はその全てに水で溶いた白い絵の具を撒き散らしたようだ。緑も、青も、黒もぼやけて同じ色になる。時たまその影の向こうから、金色の日の光が顔を出した。そろそろ目的地も近いのかもしれない。大きな手提げを肩にかけ、鮮やかなリュックを棚から下ろして、車掌のアナウンスを待った。

 駅を降りて、寂れた改札を通り抜ける。この無人駅に人が来ることはそうないのだろうか。あるのは気ままに揺れる草と、陽気に騒ぐ虫の音だけ。剥げた地図を眺めても、今はないものばかりが名残惜しそうに色を留めている。ひとりが、大きな冊子に挟まれた紙を取り出す。バラバラとそれを広げるが、風に煽られて折り目はもとに戻りたがる。ようやく地面に貼り付けて、現在位置と赤いマークのついたポイントを指で追う。それを目の前の、何も遮るもののない平地と照らし合わせて、ひとりが先陣を切って歩いた。

 山を越え、森を抜け、何度も巡る太陽を見て、ようやくたどり着いたのは小さな川だった。すっぱい木の実の最後の一滴を口に流し込んで、僕らはすぐに川を掬った。その冷たさに指が喜ぶ。少し口へ含んでやると、懐かしい甘さが広がった。誰かが、水はやっぱり味がない、といって木の実をぎゅうぎゅうと搾った。もうひとりはすでに新しい木を見つけたらしく、両腕いっぱいに抱えた赤い実をがりりとかじった。一服しよう、と言ったあいつの口から溢れる煙草の煙は、霧にまみれて見分けのつかなくなった。今まで大事にとっておいたボルドーワインを川で冷やす輩もいる。

 僕は手提げの中から新聞とマッチを取り出した。彼女は置かれたリュックから薪を取り出す。それらを丁寧に重ねてやって、僕はマッチに火をつける。スッと音を立て燃える光を、丸めた新聞に近づけて、移ったところでポイと中に捨てる。そのうち、火は辺りを照らしはじめ、彼らもようやく興味を示した。燃え盛る明かりを前に、僕は大きく息を吸う。

「僕が守るよ」

 勢いを増したキャンプファイアーに、宣言する。

「僕が守るよ、君らが生きる意味を。僕らが生きる場所を」

 ひとりが拍手をする。みんなが拍手をする。彼女がくべた薪もパチパチと歓迎をしていた。火の粉が、どこまでも舞い上がって、僕らの空を輝かせていた。

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