木曜日の雨
第4回(7月9日〜)
お題 ・青 ・曜日 ・夕焼け ・愛を叫ぼう ・本当は困ってる
木曜日は、家庭教師の週だった。そう、過去形。今日も4限の授業を終えて荷物をまとめる。教室を足早に去って、空を見上げる。あっけからんと晴れているのが何だかムカついた。先生の予定がなくなってから、心はずっと曇天だというのに。思えば、当初は勉強の強制を心苦しく思っていた。いつからこんなにも楽しみにしてしまっていたのだろう。早く帰れるのはもちろん今でも嬉しい。しかし、胸の中身は、何かが大きく欠落していた。いくら早く家につこうが、木曜日に来客はない。雲ひとつない青空が、空っぽの身体を吸い取ってしまいそうに思えた。
本当は困ってる。勉強が出来るようになったわけではないから。ただ、ほんのちょっと精神不良を起こしたせいで、いろいろ状況が変わってしまったのがいけなかった。足が自然に川岸に赴く。いつもは車窓から眺めている川だった。傾き始めた日の光で、白く川面が光っている。理数系は無理だと分かった。志望校が変わった。教えてもらってた物理を、受験で使わなくなった。もう少しで何かが掴めそうだったのに。そこらの草を指でいじくる。点数は散々だが、それでも力学は極めたかった。勉強する価値がありあまって見えた。根詰めすぎて、問題集を開いたら3秒で
根っからの文系人間。だからこそ、理系に憧れたのかもしれない。物理の権化の姿に、夢を見たのかもしれない。ただ、違う世界に行ってみたかった。何も得るものがなかったとしても。壊れちゃったとしても。木曜日には、現実に引き戻された悲しみが、雲となって雨を降らす。
夕焼けが空を覆い尽くす。太陽はゆっくりと水平線に落ちてゆく。愛を叫ぼう。この世界への愛を。未知の世界への愛を。木曜日の、過去の夢への、誰かへの愛を。
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