ひとりぽっちの指先
第3回(7月2日〜)
お題・星 ・半袖 ・壊れた ・目を閉じると、 ・「叶うといいな」
壊れた時計が、チカチカと秒針を振り回す。腐った大木は、赤い木の実の横に寝そべって湿った香りを辺りに散らす。景色に馴染まない白い骨が目に痛い。静かに瞳を閉ざす。暗闇をバックにして星のように明滅する赤青が、波打っては消えていく。そのまま、時計に触れる指先を、手首から肘を伝って上へと滑らせる。爪で引っ掻いたような、赤い痛みが線を描く。ひんやりと冷たい二の腕には、あるはずの布はなく、半袖となった袖口に集う千切れた糸だけが居場所を探しては苦しそうに伸びていた。やけくそになって掴んだ木の実は、くしゃりと呆気なく潰れてしまった。
「叶うといいな」、なんて幻想に過ぎない。いくら現状を変えようと足掻いたって、気付けばいつもこうだ。ひとりぽっちで、ボロボロの身体で、友情なんて芽生える筈がない。近づけば、誰もが逃げていく。存在が分かれば、攻撃体勢に変わる。時たまあちらから寄ってくるものもいるのだけれど、それはいつも研究対象としてだけだった。
まぶたの裏の暗闇の中で、たった一度の、幸せを思い出す。もうしばらく前のことで、本当だったのか幻覚なのかも曖昧な夢。ふとしたときに現れた、二足歩行の僕と似たやつ。笑いながら、時計をくれた。僕は何度も断った。それはいけないと善意を拒んだ。それでも彼は、僕の腕を引っ張って、手首に括り付けてしまった。始めてのその手の温度は、とてもとても、温かかった。胸の奥の、何かがじわりじわりと溶けていった。
そのまま終われば、しあわせだった。
僕は、彼を抱きしめた。あろうことか、僕は、彼に触れてしまった。
この指先で触れたものは、壊れてしまうと知りながら。
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