真夜中の合唱祭
第2回(6月25日~)
お題・歌声 ・ウサギ ・街を出る ・煙草は吸わない ・「お前、死ぬかもな」
歌声に誘われて街を出る。夜道を銀色のウサギが照らす。紫色の煙を口から吐き出した。少し前までは煙草は吸わない主義だったのに。
ふと横に目をやると、キノコが光の道を作っていた。そろそろ近いのかもしれない。歌声はますます鮮明に、繊細に鼓膜に触れるようになった。
今宵は祭りだ合唱祭。
少し変わった合唱祭。
銀のウサギが跳ね回りながらお出迎えをしてくれる。月とよく似た色のウサギだ。目の前には、木々の隙間から差し込む月光の眩しい会場があり、すでに観客で溢れていた。
フクロウがほう。と鳴く。始まりの合図はいつもそれであった。鳥々は羽根をばたつかせ、始まりを歓迎する。虫に喰われた木の葉を拾い上げ、プログラムを確認する。今夜の演奏は鈴虫が目玉であるようだ。切り株に腰を下ろす。
「お前、よく来るよな」
例のウサギが足の上にピョンと飛びのる。僕らみたいに歌えないヤツらが来ることは、そうある話ではなかった。でも、こんな素敵な会を、演者の中だけで完結させちゃうのは勿体ないだろう? そう言ってウサギの頭をなでる。彼は嫌そうにそれを振り払うと、ピョンと切り株の横に座った。
「お前、死ぬかもな」
僕はしばらく思案した。はて、どういう意味だろう? 彼は黙って答えなかった。まあ、ここに入ることを許された時点で、もう人間としては生きていないのだけれど。ウサギはピョンと跳ねてどこかへ消えた。
静寂のメロディーがあたりを包む。もうじき夜明けがくる。ああ、どうやら、今夜の目玉は聴き逃してしまったようだ。
また来よう。いつ行われるかも分からない、不思議な祭り。次は星のオペラだろうか。
暖かい白色の中で、僕は静かに目を閉じた。
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