第2話 魂の契約

ぐいっと顔を寄せられて、ハッとする。

よく見れば綺麗で端正な顔。小柄だがしっかりと肉付きがなされ、見惚れるほどだ。

ツリ目で、赤い髪と紅い瞳は動きがあり、キャンプファイヤーを彷彿させた。


「てめぇ、話聞いてっか? あー、面倒クセェ。さっさと契約すっぞ」


性格は雑で短期で勝気で傲慢、でも裏腹にお節介な優しさが感じられた。


「けい……やく……」


そんなことを言っていたと反復し、薄ら口を開いた瞬間。


「……ん?! 」


噛み付くように唇を吸われ、固定するように力強い腕が頭と腰に回された。

舌が強引に入り込み、舌をきつく吸われ、体液という体液を吸われるんじゃないかと言うくらい、口の中を弄(まさぐ)られた。


「ふ……ん……んん……」


体が弛緩していく。擽ったくて、変な感覚が口から身体中を駆け巡った。

意識が朦朧とした途端、チリっとした手の甲の痛みで浮上する。


「……変な声出すんじゃねぇよ。変な気分になるだろうが」


唇を離し、繋がった唾液を舌でぺろりと絡め取り、顔を赤くして逸らした。


唇に指を無意識にやる。

……嫌じゃなかった。"アイツ"のはあんなに怖くていやだったのに。


ふと、一時忘れていた手の甲が目に入る。


円形の幾何学的な"炎"と"ドラゴン"を模したような痣。

一瞬赤く光り、消えると黒いタトゥーのように残った。

目が離せないでいた私の目の前が翳る。


「それが"契約"の印だ。てめぇは俺のもんだって証。逃げようとしても無駄だ。永遠にてめぇは俺のもんになった。焼こうが煮ようが食おうが俺の自由ってことだぜ」


何故だろう。凄んでいるのに、怖くない。


「……ったく、おもしろくねえなあ。無反応は応えるぜ」


「えっと、ごめん……なさい? 」


反射的に謝るがよく分からず首を傾げた。


「……取り敢えず、帰るぞ」


また首を傾げる。


「あーもう! てめぇんちに決まってんだろうが! 」


素直にコクコクと頷いた。

彼は私を酷には扱わないだろう。


「……いづれ取り戻す」


「え? 」


何か呟いた声がして彼を見上げた。


「……いや、あの、あー。そう! てめぇ、何てぇんだ? 」


一瞬間があり、こちらも間が空いてしまう。


「か、奏(かなで)。向居(むかい)奏」


「カナデか。俺はヴィクトール。行くぞ、こっちだ」


手を引き、歩き出した。


━━背後に無残な奏の亡骸を残して。

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